第386話『ヒルドVSセカンドドライヴ②』
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――さて、この状況をどうしたものか。
彼が考えているのは自分に刺さっている剣山をどう抜くかではなく、内心動揺しているであろうヒルドをどうケアするかだ。
自分の怪我などどうでもいい。こんなもの数十分あれば完治できる。今1番気にしなければならないのはヒルドのメンタルだ。
ヒルドは今、自分が剣で串刺しにするという無惨な攻撃をしてしまった自分自身に恐怖を覚えている。とはいえ相手は何をしても死なないセカンドドライヴだ。これくらい強引でなければ異常すぎる治癒速度に追いつけず、永遠に勝ち目などない理不尽な戦いを強いられることになるのだ。
だとすれば、ヒルドは自分で思っているほど猟奇的な女ではなく、ただ勝利に貪欲だっただけなのだ。
もし相手がセカンドドライヴではなく他の者であるなら、ヒルドもここまでしなかっただろう。今回はあくまで相手がセカンドドライヴだからこそやっただけである。
しかし、ヒルドはそれを自分が異常者であるせいだと思い込んでいる。このままでは皆を傷つける怪物になりかねないと。
(ヒルドを安心させるにはどうしたらいいのか)
流血しながらも、セカンドドライヴは仲間の為に精一杯考えたのであった。
(おっと、そろそろこの剣の山を抜こう。さすがに痛みが強くなってきた)
――身体を突き抜けた剣山。セカンドドライヴは表情1つ変えずに剣を1本ずつ抜いて、その状況を脱した。
さすがに身体へのダメージは大きいが、立っていられないほどではない。最初に怪我をしていた腕も足も時間が経った事で満足に使えるようになった。
多少流血しているが、戦うには十分だ。
『へぇ、まだ死なないんだ〜』
ヒルドは間髪入れずに発砲し続ける。撃つ頻度が上がったことで攻撃が活発になったように見えるが、射的精度が僅かに落ちている。普段のヒルドならば、試合とはいえ少しのズレすらありえない。彼女の射的精度はそれほどまでに優れている。
『なかなか当たらないな〜』
これは彼女の動揺の表れだろう。心の乱れが少しでもあるのなら、満足に戦闘などできない。況してや最も集中力が必要な武器である弓や銃を使うのだから。
『どうした、射程精度が落ちているぞ』
『あれ〜おかしいな〜』
自分の精神状態とは裏腹に呑気な声を出すヒルド。緊張感のかけらもないように見える彼女と戦っていると、試合ではなく、ただの遊びに付き合わされてるように錯覚してしまう。それ自体は普段のヒルドでもそうなのだが、今回は特に酷い。
(戦意がまるで感じられない。それどころでは無いんだろうが、こんなメンタルではこの先、精神不安定で戦うこと自体ができなくなる可能性が高い)
『ヒルド、俺がお前を助けてやる』
セカンドドライヴは飛来する弾丸を回避しつつ、着実にヒルドとの距離を詰める。
――当たらない弾丸、徐々に近づいてくる試合相手。
ヒルドは焦りが出たのか、発砲をやめて、今度はまた剣を投擲する。
『仕方あるまい、少し本気を出すとしよう』
セカンドドライヴは向かい来る剣を、拳の風圧だけで落とした。
『うそ……なんで…………いやまだだ』
ヒルドは色んな魔法で続々と剣や槍を多数作り、投げるのではなく彼女の四方八方を囲むように浮かしたまま待機させている。
今彼女に近づけば、護衛している武器達が容赦のない迎撃をしてくれることだろう。
『ほう、武器が浮くとは、それは魔法か?』
『うん、最近私が研究してる“風魔法”の仮運用だよ〜』
『なるほどな、新たな魔法ということか』
『これでセカンドドライヴ君を倒せるはず……!』
ヒルドは足を強く踏み込んだ。それに呼応するように武器が1つセカンドドライヴの方へ飛んでいく。
セカンドドライヴは襲いかかる武器を避けると、その眼前に別の武器が飛んできた。
(早い……!)
『くっ……!』
セカンドドライヴはまたしても腕を盾代わりに使った。
『ふん、こんなもの、すぐに回復する』
セカンドドライヴは腕に刺さった剣を引っこ抜くと、何事もなかったようにヒルドの元へ疾走する。
『こっちには来させないよ〜』
ヒルドは周りに浮いている剣を持つと、セカンドドライヴに投げつける。次は剣を投げずに両手に1本ずつ持ち、セカンドドライヴに向けて剣を振って、2つの斬撃を放つ。
『ほう、なかなかの威力だ』
感心しつつ、斬撃を避けると、また目の前に剣が飛んできた。
『同じ手は通用しない!』
セカンドドライヴは魔力を思いっきり放出することで、風圧の強いオーラを発生させ、襲い来る剣を退けた。
勢いが消えた剣は、その辺にバラバラと無造作に置かれた。
『なんで』
ヒルドは斬撃を放ちつつ、発砲して発砲して斬撃を放って、発砲するも、一向に攻撃が当たらない。
『なんで、なんで』
これまでにないペースで斬撃を放って発砲して発砲して発砲して発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲斬撃発砲――
その全てを彼は避け続けた。もはやかすりもしない、本当に実体がそこにあるのかも分からなくなるほどに攻撃が当たらなくなってきた。
『なんでなんでなんで』
彼女の表情は変わらないまま、内心はゲームをなかなかクリアできない子供のように焦燥感に苛まれていた。
無傷でヒルドの背後に回り込むことができたセカンドドライヴは、彼女にこう言った。
『なぜか教えてやろう――』
『いつの間に……! ――あ、ダメ、ダメ!』
振り返ろうとする頃には遅かった。ヒルドを囲む剣や槍はご主人様を守るように一斉にセカンドドライヴの身体を串刺しにした。
『あ……あぁ……』
ヒルドは全く表情が変わらないまま、今日だけで2度もその光景を目に焼き付けた。
“人が花になる瞬間を”
『……』
セカンドドライヴはついに口を開かなくなった。眉1つピクリとも動かなくなった。目を開けたままこちらを見つめているが、その眼には何も映っていない。
――あれだけ剣を刺されても平気だったあの男が。誰よりも頑丈な身体を持っていたあの男が。
(――私は、人を殺してしまったのか。それもこんな無惨に)
だとしてもノルン様が蘇生してくれる。まるで無かった事のように
しかし、人を殺めてしまった事実は消えることはない。永遠に心に残り続ける。人殺しという名の十字架を死ぬまで背負うことになる。
『……』
ヒルドは“赤い花”を呆けたように見つめる。ついぞ表情が変わることはなかったが、少なくとも勝利を喜んでいるような素振りはなく、当の本人はフラフラと足元がおぼつかない様子だ。
こうして決着がついた。そう判断した審判が勝敗を告げようとしたその刹那――
『待て、まだ終わっていない』
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