第382話『あおいちゃんVSサン①』
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試合開始直後、サンは走り出した。
身体の軸はまっすぐに、足は身体よりも後ろに着き、腕は空気を裂くように振るう。戦士というより、まるで陸上選手だ。
――速い。彼女がこれまで対峙した相手の中で断トツで速い。だが反応が早かったおかげで、1行動を起こすだけの猶予がある。
あおいちゃんから見れば、サンはただ全力疾走して突進してくると思っていた。彼女がどれくらいのパワーがあるかは定かではないが、剣で受け止めればサンの身体が刃にめり込んで真っ二つになるのではないかと考えたあおいちゃんは、さすがにそれは惨いと思い、受け止めずに回避することを選択した。
――それはどういう理由であれ、結果的にあおいちゃん自身を救うことになる。
なぜなら――
『あれ?』
彼女は走る際に身体から殺傷能力が強い電気を帯びている。こちらに突進する直前に身体に貯まった電気が一気に放出するようにして、突進を受け止めてくる相手を電気攻めしようという、彼女なりの不意をつく作戦だったのだ。
しかし、その作戦には欠点がある。それは今回起きたようにそもそも相手がサンを受け止めずに回避することを選択してしまえば、サンはただ無駄に走って、放電するだけとなってしまう。しかも不意をつく相手だと警戒もされてしまう。
『うわ、うわあああああああああ止まらないいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!』
一度エンジンをかけた足は止まることを知らない。もとより全力疾走で衝突するつもりだったので、急に足を止める事は想定になかった。
このままでは誰であろうと絶対に破壊できない硬い壁に激突して、大きなダメージを負ってしまうだろう。
それを恐れたサンは走りながらも、抵抗するようにブレーキをかけたがそれだけではダメだ。なので両手で雷魔法を発動し、ティッシュ箱くらいのサイズの電気の塊を胸の前に置く。
それは壁を破壊する目的ではなく、クッションのように前に置くことで壁の激突を避けるためであった。普通の人間なら電気を浴びた時点でアウトだが、彼女は家庭の事情……ではないが、雷魔法に耐性があるため浴びてもダメージはほとんどない。だからこういう使い方ができるのだ。
電気の塊は役目を終えて消え去ってしまったが、おかげで彼女はまた同じように走り出すことができる。
『だめだったかー……それなら次は……こうだ!』
サンはクラウチングスタートを決めると、またあおいちゃんに向かって走り出した。
しかも、ただ走っているわけではない。今度は先程のように全力疾走ではないが、走る方向をちょくちょく変えてギザギザに走ることで相手を惑わせる作戦に出た。
『ははは! これならどうだ!』
さっきよりは減速しているものの、それでも速い。先程の全力疾走もそうだが、歴戦の戦士であっても目で追えるか怪しいレベルだ。瞬速の二つ名は伊達じゃない。そう思わせるには充分だ。
一方であおいちゃんは、目で追う動作すら行わず、ただ剣を構えたまま微動だにしない。
そんな彼女に、サンは“私が速すぎて目で捉えきれないから諦めたんだな“と確信しきっている。確かにこの速さについていけるのは他の“特別な力を持つ少女”であっても、なかなか難しい。サンは自分の速さには絶対的な自信がある。それは日本一いや世界一と思っている。幼さ故の過大評価ではなく、事実としてそのレベルでの速さを持っている。
これまでも、これからも私は世界で1番速い者であり続ける。
そんな信念を掲げる彼女についていける者はいない。
――サンはあおいちゃんに攻撃するタイミングを決めた。あと10秒後に突進する。
(しめしめ、あのちょー可愛いお姉さん、戦う気を失ってるな。すっかり下を向いて口もパクパクしてて、私を怖がってる証拠だー!)
10秒経つと、サンはあおいちゃんに――
(今だ!)
――電光石火の如く突進する。電気を纏って。力を込めて。信念を持って。
すると、彼女から発生した電気はオーラのように激しく逆立てる。
――まるで彼女自身が雷そのもののようだ。それは確かな殺意を持ってあおいちゃんに襲いかかる。
直前までは、あおいちゃんは特に何もしなかった。身構えることもせず、剣で受け止める動作も回避する素振りも見せない。
このまま突進すれば、あおいちゃんはまともに電撃を浴びて大きなダメージを負うことになる。最悪倒れるまではいかなくても、サンにはシャイやマリン同様に奥の手がある。それで止めを刺すのもよし、同じように電撃突進するのもありだ。
(なんて楽勝なんだ、このままちょー可愛いお姉さんをコゲコゲにしちゃうぜー!)
自分が楽々勝利する、そんな未来を想像しながらあおいちゃんに突進す――
『あれ?』
――気づいたら、サンは倒れていた。しかも、やたら身体が重く、まるで見えない重りが身体中に巻かれているようだった。そのせいで床が凹んでいる。
(どうなってるの、これ……何で動けないの……?)
疑問が顔に書いてあるような表情をしたサンを見下ろすように、あおいちゃんがこの現象について説明した。
『説明しましょう。これは未来の魔法なんですが、私はあなたに攻撃される前に“反射魔法”と“重力魔法”の発動を準備していました』
『反射魔法……? 重力魔法……?』
『反射魔法はその名の通り、相手の攻撃を反射してこちらへのダメージを相手が受けます。重力魔法もその名の通りです。重力を操作することができます。今回の場合はあなたにのみ重力を重くしました』
(未来の魔法はそんなことまで出来るようになるんだ……羨ましいな……)
『う、うぅ……』
サンはこの状況をどうにかしようと、気合で身体を動かそうとしたが、指一本動かなかった。
(やばい……どーしよどーしよ。このままじゃ負けちゃうよ……)
――あ、そうか。あれを使えばいいのか。よし。
――直後、サンの身体は黄色く光り、全く別の姿へと変貌させた。
――それは重力魔法を破り、自由を手に入れた。彼女の姿を見るがいい。神々しいまでの雷色のオーラを纏いし獣。
世界最速の称号を持ち、弱肉強食の世界で生きた最強の獣。それを見れば、誰もが恐れおののくであろう。
『へへへー! 私、チーターになったよ!』
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