第30話『ここにいる俺は、俺であって俺じゃない』
お待たせしました。
投稿遅くなってしまい申し訳ございませんでした。
第30話できましたので、宜しくお願い致します。
※文字数が相当多いです。
※2022年3月27日改稿しました。
夢というのは不思議なものだ。人は眠るとランダムに映像を見ることがある。その映像の中身を決める術はない。――でも強いていうのなら、それは己の願望、あるいは身近でつい最近起こった出来事も映像化するピースになっているだとか。
そのピースは1種類とは限らない。他の経験から持ってきたピースも紛れていることもある。というかその方が圧倒的に多い。
それを踏まえて言いたい……今俺が見ている夢は一体どこの経験から取ってきたのだと。
『――――――ダスト隊長!』
『はっ……ん? あれ? ここはどこだ?』
キョロキョロと辺りを見渡したが、ここがどこだか分からない。見たところ戦場のようだが……。さっきまではベッドの上にいた。ということはまた夢でも見てるのか?
あと、なぜ目の前の金髪でチャラそうな軍服の男に、隊長呼ばわりされてるんだ? お前誰だよ。
『何言ってるんすか? ここは戦場すよ、隊長』
『隊長って俺のことか?』
『はぁ? 何寝ぼけてんすか? あなたは紛れもなく、流星団の隊長すよ?』
流星団? なんだそれは? 全く聞き覚えがない。
しかも隊長なのか俺は。俺みたいなのが1番向いてなさそうだが、こうして夢に見るということは実は奥底に人の上に立ちたいという願望があったのかもしれないな。
『もしかして突然の記憶喪失っすかねー、あ、自分の名前覚えてます?』
『俺の名前は……ダストだ』
『自分の名前は覚えてるんすね。あ、俺の名前は?』
『えっと……すまん、覚えてない』
『まじっすかー』
目の前の金髪の男は、やれやれとお手上げ状態の仕草を見せた。
『俺の名前は、アレンすよ! 何、部下の名前忘れちゃってくれてんすかー!』
目の前にいるアレンという男は声を荒らげて、俺に呆れたような視線を向けた。
いや待てアレン……だと?
アレンって言ったら、違う世界線で兄貴のギルドの所属時に苦楽を共にした親友の名前じゃないか。そうか、この声といい性格といい、まさにアレンそのものじゃないか。何で気づかなかったんだ。
ん? でも外見が……なんか顔がちょっと違うような……そういえば喋り方も違うし。
もしアレンがアレンと名乗らなかったら、絶対にこいつをアレンだとは思わなかっただろう。
……これ以上本当の事を話すと話がこじれそうだから、とりあえずできる限り話を合わせておこう。
『あー、アレンな……忘れてたわ』
『ちょっと! 俺の扱い酷くないっすか?』
『え、あ、すまない。どうやら本当に記憶喪失になってしまったようなんだ』
めんどくさいから記憶喪失ということにした。
実は俺はこの世界の人間じゃないとか、俺は今夢を見てるだけなんだ! とかわざわざ説明しても信じてもらえないだろうしな。
『えぇ……はあ……まあ、了解す。じゃあ、今がどういう状況か分かってます?』
今の状況……見た限り、他に周りに人はいないが、戦場にいることは間違いない。さっきから、遠くから銃砲の音も、剣と剣がぶつかりあう金属音も、絶え間なく聞こえるし。
『えっと、我々流星団は、敵軍と戦うために戦場へ戦いに来た……というところか?』
それくらいしか分からん。
『まあ大まかに言うなら、その通りっす。今さっき出陣して、これから帝国軍に加勢するところっすよ』
『帝国軍って何だ?』
『あー、それも忘れちゃったんすね……仕方ないなぁ……。1から説明するので、一旦、我々の陣地に戻りましょう』
『お、おう』
俺は軍服のアレンと一緒に一旦流星団の陣地に戻ることになった。幸い帝国軍の方が優勢なので、加勢は後でもいいようだ。とはいえ本来なら今すぐ行った方がいいのは確かのようだ。だからか軍服のアレンはちょっと焦っている。
『隊長、ここが陣地っす』
『ここが、陣地……』
陣地には大きなテントが10張りと地面には半径50メートル程の不思議な紋章があった。どうやら敵の攻撃から守る結界のようなものらしい。
軍服のアレンは俺を連れて中央のテントへ入った。
『スカーレットさん、失礼するっす』
スカーレット? 確か兄貴のギルドにいた、治癒魔法を得意とするメンバーでもあり、赤髪ちゃんのお母さんでもある人だ。アレンが居る時点でなんとなく察してたが、まさか本当にいるとは……しかもここでも治療担当か。
『アレン君? 隊長まで……戦場に向かってたんじゃないの?』
『あぁ、実は、隊長が記憶喪失になっちまったみたいで……』
『ええ!? 記憶喪失!? どうしてそんなことに!?』
『こっちが聞きたいっすよ~!!』
軍服のアレンとスカーレットさんは頭をかかえ、まるでヘドバンしてるかの如く、双方パニック状態となった。少しは落ち着けや。
反応を見る限りケガを治すならともかく、記憶喪失は今の魔法では治らないようだ。
まあ、記憶喪失ってよりはここにいる俺は俺であって俺じゃないからそもそもの話なんだよな……。
地の女神アースちゃんも話していたここは並行世界ってやつじゃないだろうか? ほら夢とか見るとよく別の世界線に行くとかなんとか。
『隊長! 他に何か覚えてることはないですか!?』
スカーレットさんもアレン同様焦っているのか血眼になりながら俺の両肩を強く掴んだ。余程俺に記憶を取り戻してほしいようだ。
『ええと……まず俺の名前はダスト。好きな食べ物はお菓子全般。嫌いな食べ物は野菜全般。好きなゲームジャンルは主にギャルゲーですが、他のジャンルもやります』
って、これ名前以外は日本にいた頃の俺の紹介じゃねえか。この世界にギャルゲーないだろ、多分。何やってんだ俺は……。
『ギャ、ギャルゲー? って何すか?』
スカーレットさんは未知の言葉を聞かされて首を傾げている。
うん、やっぱ聞いたこと無いよな。
『ギャルゲーとは恋愛シミュレーションゲームだ! 画面の中の美少女とイチャイチャすることができる! 超オススメだぞ!』
俺の中のギャルゲー愛が黙ってはいられず、つい熱く語ってしまった。これでは完全にドン引きされてしまう。
『が……画面の中……? シ、シミュレー……ション? あ、あの……ちょっと……何言ってるか分かんないす』
こんな時に日本のオタクのノリで語ったせいで、軍服のアレンの頭から多数のヒヨコがピヨピヨとぐるぐると回ってしまうイメージが見えるくらいに、混乱してしまった。
『た、隊長! 何訳分かんないこと言ってんですか! 真面目に答えて下さい! じゃないと隊長の性癖、皆にバラしますよ!』
俺のせいで頭に混乱をきたしたスカーレットさんは激怒した。俺の性癖暴露という名の人質を手にしながら。
『はっ……あ、す、すいません』
スカーレットさんやっぱり怒ると怖いな。
なんかスカーレットさんから溢れ出るこの威圧感、赤髪ちゃんにそっくりだな。やっぱり血は争えないな。
というかこの世界の俺の性癖って何だ……? この世界の記憶は一切持ってないから分からん。でも世界線が違うとはいえ今の俺もこの世界の俺も結局俺だから、大差ないかもしれんがな。
『えっと、あとは全く覚えてないです』
この世界での事は全く覚えてないから間違ってはいない。
『私達の事は?』
『ああ、スカーレットさんも、アレンの事は覚えてはいるんだけど……ちょっと立場が違うと言うか……』
『……よく分かんないけど、記憶喪失だけじゃなくて、異なる記憶が混入してるみたいね。誰かに変な魔法でもかけられたのかしら……』
スカーレットさんはかつてない事態に頭を悩ませていた。テントに入った時に見た第一印象がまるで嘘のように感情がよく出ている。
『いえ、“ギャルゲ“……隊長が“画めん“……記憶喪失になる前も、俺とずっと一緒にいましたが、そんな“美少女“……魔法が飛んできた感じはなかったっすよ……“シミュレーション“?』
アレンはまだギャルゲーの事で頭が混乱してるのか、会話の中にギャルゲーに関する単語が混ざっていた。いやどんな混乱してんねん。見たことないわそんな話し方してる奴。
どんだけギャルゲーの事考えてるんだよ……いい加減話を切り替えろよ……。まあ、元はといえばこの時代に通用しない事を語った俺が悪かったんだけどさ。
『……そう、まあいいわ。隊長……私が1から説明します。まずは、流星団の誕生からです』
流星団の誕生……それは、元々帝国の軍隊長を勤めていた俺が独自で創った軍である。なぜ創ったか……それは、帝国のありとあらゆる闇事情が絡みに絡みまくって、我々の軍隊がいざという時に出動できなくなるくらいの異常事態になってしまったからだ。それで俺は国王に提案し、国の軍隊から抜けて軍事会社を創る事にした。そうすれば国の闇事情に絡まれることなく、国を守ることができるからだ。国王も俺の提案を快く受けて下さった。こうして誕生したのが流星団である。ネーミングセンスの苦情は受け付けないぞ!
『なるほど……分かりました』
『隊長、そういえば何で私に対してだけ敬語なんですか?』
『え? あ、なんとなく……』
そうか、この夢の世界の中では俺は隊長でスカーレットさんは部下だから敬語を使わないのか。
兄貴のギルドメンバーとして居た世界では、スカーレットさんに対しては敬語を使っていたから、つい敬語で話してしまった。
『まあいいでしょう。次は流星団メンバーについて説明します』
アレンもさっき言ってたが、流星団の隊長は俺。メンバーは、スカーレットさん、アレン、ダイゴ、ミユウ、プラチナ、ブラックの計7人のみ。少数だが、それぞれが優秀な魔法習得や武器を駆使して敵を迎撃し続け国民を守ってきた猛者達である。国からの信頼も厚く人気もある。
スカーレットさんは治癒魔法だけではなく攻撃系の魔法を得意とする。剣や銃も使おうと思えば使えるそうだ。唯一の治癒魔法使いでもある。あと怒ると怖い。
アレンも攻撃系の魔法は得意だが、銃を扱う方が性に合ってるそうだ。あと調子に乗りやすい。何回もスカーレットさんを怒らせてるバカ野郎である。ちなみにこの世界では俺と幼なじみではないようだ。
他のメンバーも紹介しよう。
ダイゴは元は帝国軍に居た大男で武器や魔法を使わず持ち前の怪力で敵を蹂躙する。だが普段は大人しく温厚な性格だ。ただ見た目“だけ”は怖い。筋肉がすごい。とにかくすごい。
ミユウは小柄で華奢な美少女だが魔法習得の数は誰よりも豊富だ。武器を使うのは苦手らしい。真面目な性格でしっかりものだが、少しドジな所もある。そういうところが可愛いYO!
プラチナさんは心を読む魔法使い。状況に応じて素早く敵の背後に回り込んで短剣や小型爆弾等の武器を使い瞬殺することができる。タイマンで彼女に勝つのはガチで難しい。ちなみに俺よりも歳上で流星団のお母さ……お姉さん的な存在だ。たまにヒステリックな時があるのが玉に瑕だがな。ちなみに同じ団員のブラックとは夫婦関係でまだ幼い娘が3人いるらしい。
ブラックはダイゴと同じく帝国軍の幹部だったが、国王に命じられ、流星団に入ることになった。剣術がとても優れていて、もしブラックと剣を交えようものなら、もれなく地獄へ送られるそうだ。ヤバそうな奴と思われるが家族や仲間を想う気持ちは強く、絶対に守り通すと誓っている。ちなみに弟子の女の子が2人いるらしい。
最後に俺は帝国軍の隊長に選ばれたくらいの実力があり、魔法も豊富、武器も多数扱えるらしい。つまり俺TUEEEEEEEEE系チート主人公というわけだ。尚、今の俺にはその実力はインストールされておらず、クソ雑魚のままですよ畜生。
『メンバーについては以上です』
『ふむふむ、なるほど』
『最後にこの状況についてです』
この戦争はなぜ起きたのか……それは、我々の帝国を略奪目的で滅ぼそうとする隣国が問答無用で攻めてきたのが引き金だ。
もちろんこちらも国の平和を守りたい。故に迎撃するしかなかった。それで我々流星団も帝国の加勢に入り、俺と軍服アレンも戦場へ向かおうとしていたところで、俺が突然倒れてしまったそうだ。
『で、今に至ると』
『はい。今の状況は既にダイゴ君とミユウちゃんとブラックさんは戦場で戦闘中です。私とプラチナさんはここで待機することになってます。そして後から隊長とアレン君も加勢する予定でした』
会話の途中だがこちらへ向かってくるであろう足音が聞こえた。
『あれれ? 隊長にアレン君じゃん! 戦場に向かったんじゃないの?』
突然テントに入ってきたのは艶やかな白髪の美女……恐らくこの人がプラチナさんだろう。
『いや、それが……隊長が記憶喪失になってしまったみたいで』
『ええー!? なにそれー!? 変な魔法でもかかったの?』
『アレン君が言うには、ずっと隊長と一緒に居たけど、特に変な魔法が飛んできたわけじゃないらしいです。そうだよね、アレン君?』
『シミュレーション……美少女……画面……どういうことだ……?』
アレンはこちらの話に全く耳を傾けておらず、さっきの内容をなんとしても理解しようと必死だった。ヒヨコが頭の上を回っているイメージが浮かんでくる。
なんか本当に悪いことしてしまったようだな。夢の中の世界とはいえ申し訳ない。
『アレン君!』
『はっ……な、何でしょう?』
アレンはスカーレットさんに声をかけられたことで意識が現実に引き戻されたようだ。
『隊長と一緒に戦場に向かった時、魔法は飛んでこなかったのよね?』
『は、はい、魔法なんて全然飛んでこなかったっす!』
アレンは敬礼のポーズを披露しながら質問に答えた。なるほど、アレンよりもスカーレットさんの方が階級が上なのか。
『そうなの? じゃあ何で記憶喪失になっちゃったんだろう?』
『『『うーん』』』
3人は首をかしげながら腕を組んで、頭の中で原因を探っていた。俺も同じように悩んでるフリをした。
――その時だった。突然、ドーーーーーン! という大きな轟音が響いた。
『え!? 何事!?』
俺達は1人残らずテントを出て、外の様子を見に行った。
『なんだ……あれ……?』
第30話を見て下さり、ありがとうございます。
次回も、出来次第、投稿していきたいと思います。
最近、投稿ペースが遅くなってしまい、恐縮ですが、宜しくお願い致します。




