第375話『シャイVSルカ・ヴァルキリー②』
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私は私に問いかける。本当にこの力を使うべきなのか。これは最終手段としてすら使うのを躊躇うほどの、反則的な力。
それを怪物でも神でもない、ただの少女相手に――いや、訂正しよう。ルカ・ヴァルキリーは強い。魔法と近しき精霊の力を使いこなし、私に反則を使ってでも勝とうと考えさせるほどに追い詰める猛者だ。
これは認めざるを得ない。あなたは強敵。私はもう君を見下さない。子供だとは思わない。
ルカ・ヴァルキリー……君は――
『君を私のライバルと認めよう』
『え……?』
『だから、これは……その餞別だ!!!』
光い身体に、長いマフラーのような形をした白いオーラが包み込み、白い球状の物体と成る。
『なに、あれ……?』
白い球状の物体に渦巻く電気のようなものが、何人たりとも近づけさせないように、主を守っている。
ルカ・ヴァルキリーには、それをどうにかできる方法は現状ないので様子を見るしか選択肢はない。
32秒ほど経ったところで、白い球状の物体は吹き飛ばされるように主から離れ、空気と化した。
一方でシャイは――
『え……あれって……』
ルカ・ヴァルキリーは信じられない光景に唖然とし、闘志の炎がすっかり消え去っていた。
だって、目の前に翼が生えた天使様がいるのだから――。
『私をこの姿にさせるとは……やるではないか、精霊の娘』
『あれ、口調が……誰ですか……?』
姿は確かにシャイだ。しかし、口調もそうだが雰囲気や態度、オーラの質が異なる。
先程まで人間と戦っていたのに、今はまるで神と対談しているような気分だ。
『私は人間だが、光の女神候補シャイニング。だが大丈夫だ、ルカ・ヴァルキリー、私は確かにシャイだ。驚かせてすまない』
『あ、いえ……』
女神候補と言われても、あまりピンとこないルカ・ヴァルキリーだが、シャイが只者ではないことは理解している。そして、同時にルカ・ヴァルキリーの戦意は喪失していた。それは単純に勝てそうにないからではなく、シャイのあまりの神秘的な姿に一目惚れをしてしまったのだ。エメラルドグリーンの美しい海を見るように、湖に映る空の景色を見るように。
そんなルカ・ヴァルキリーの心を当然のように見透かす光の女神候補シャイは、彼女の闘志を再燃させる為、自分の想いを伝える。
『ルカ・ヴァルキリー、私は君の戦い方に心を打たれた』
『え?』
『もっと君と戦いたい、強い君と、私は高揚している。これほど戦意が溢れ出したのは本当に久々だ。だから、最後まで私と付き合ってよ』
最後には口調を頬を緩め、本来のシャイの表情を見せた。
『シャイさん……分かりました』
ルカ・ヴァルキリーの闘志は再び息を吹き返した。球体のままなので分かりづらいが、シャイにはその闘志は伝わっている。
『私の全力を今、あなたにぶつけます!』
『いいぞ、来い!』
2人は頷き合い、力を溜める。
オーラが炎のように燃え上がる。城が唸りを上げている。大地が共鳴するように揺れている。
シャイもルカ・ヴァルキリーも全力を込めた必殺技で決着をつけようとしている。
白い光と白い光。
互いに譲れぬ願い。
2人はありったけの魔力を自分の身体に渦巻くように纏い、シャイは天秤を持った上位女神に、ルカ・ヴァルキリーは光色に塗りたくった鎧の騎士に変貌を遂げる。
双方とも凄まじいオーラだ。もし、この頑丈なバトルフィールドでなければ、周りの地形は世界の終わりのように地割れを起こし、国であれば文明ごと何もかもを天に還したことだろう。
『これで決着よ!』
シャイは持っている天秤を光らせ、そこから波状のオーラをルカ・ヴァルキリーに向かって放つ。そのオーラに触れることは大量の光魔法を受けることと同義だ。この殺傷能力の高さもさることながら、あらゆる攻撃を受け付けない鉄壁の防御力を誇る。
言い方を変えると、その波状攻撃を貫けるだけの攻撃力が無ければ勝ち目はない。
ルカ・ヴァルキリーは自分のエネルギーを死なない程度に放出する。
『うわあああああああああああああああ!!!!!!』
力を開放する為に、珍しく大声を上げたルカ・ヴァルキリー。それを見ていた保護者達はさぞ驚愕を顕にしていることだろう。
――光と光。
波状の光はコンタクト状に広がり、バリアとなって主の壁となる。
ルカ・ヴァルキリーは振り絞ったエネルギーを巨大な剣に込ると、それを振りかざし、斬撃を発射する。そして、それは光のエネルギーに変換して、バリアの壁に衝突する。
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
『やあああああああああああああああ!!!!!!!』
凄まじいエネルギーのぶつかり合いにより発生する強風が、強靭な壁にヒビを入れる。
押す。押される。押す。押される。押し返す。押し返し返される。
拮抗しているように見えるが、ルカ・ヴァルキリーの方が少しずつ押されている。このままでは彼女の敗北は確定する。
しかし、彼女に奥の手はない。もはや万策尽きた。
それでも――
『私は……最後まで諦めたくない!!!』
更なる力を込めた。無いはずの力を振り絞った。
『くっ……彼女、まだこんな力を……』
その力の正体は決して、隠していた力でも、封印されていた力を解放したわけではない。“ただの気合“だ。
負けたくない、勝ちたい。そんな気持ちが彼女の奥底の力を湧き上がらせる……なんてことはなく、勢いと気合だけの力は、すぐに波状の光に押され、光の騎士に襲いかかる。
『あ……あぁ……』
勝負終了の宣告を聞く前に、彼女は敗北を悟り、ただ目の前の光に押し潰されようとしている。
敗北どころではない、これは死だ。
回避する体力すらない彼女は死の危機を感じた上で目を瞑った。
すると、光の波状攻撃はルカ・ヴァルキリーの目前に塵芥となって消え去った。
何が起きたのか、ルカ・ヴァルキリーには一瞬理解できなかったが、シャイの攻撃がルカ・ヴァルキリーの命を取ってしまう前に攻撃をキャンセルしたのだ。
元々シャイは試合相手が誰であろうと、殺すつもりはない。彼女に殺戮の趣味はないし、今は殺し合いの戦争をしているわけではないからだ。
そもそも、もしルカ・ヴァルキリーを殺しでもしたら、保護者達が黙ってないだろうし、大会どころではなくなる恐れがある。
『あ…………………………あ……………………』
ルカ・ヴァルキリーはエネルギー切れにより、光の騎士の姿は形を崩し、元の姿に戻ると、眠るように倒れた。
誰の目から見ても勝敗は明らかとなった。
『勝者、シャイ!』
歓声は一切上がらない。ここに観客はいないからだ。
ただ静寂だけが残るこの場でシャイは倒れたルカ・ヴァルキリーに敬意を持って抱きかかえ、その場をあとにした。
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