第373話『選手の想い〜シャイとルカ・ヴァルキリー〜』
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《シャイの場合》
世間では私を“特別な力を持つ少女の1人”と言う。その通り、私は特別。光魔法で私に勝てる者はこの世にはいない。その他の魔法も全て高水準で、身体能力だってボクサーや空手の選手にすら劣らない。そんな私を少し魔法が使えるだけの素人に敗北するわけがない。
――況してや、あんな小さな少女相手に。
可哀想に。1回戦からよりにもよって私と戦うことになるなんて。
速攻で決着をつけてあげる。それもなるべく痛くなくて一撃で済ませられるようにね。
私はダークと違って人をいたぶる趣味はない。特に子供が相手となると尚更だ。
最初はこの大会の事はフレイから聞いて、戦いには興味はなかったけど優勝賞品の“ノルン様になんでも1つ願いを叶える権利”に魅力を感じたから、参加したのだけれど、まさか子供まで参加するなんて思わなかった。
もしかして、この娘もどうしても叶えたい願いがあるのかしら? それとも1000万とか世界旅行? 確かにそれだけ聞くと参加したくなるのは理解できるが、だからといって危険が伴う試合に出てまでやることなのかしら?
……まあ、動機は人それぞれか。私だって叶えたい願いがあるし。
私の願い、それは――“特別な力を持つ少女”という肩書きを外して、私は自由になること。
別にフレイ達が嫌になったわけではない、まあ強いていえばダークは嫌いだが。では何が問題なのか。いや、問題というほど大げさな動機ではない。単純に特別な存在から解放されたいだけ。要するに私は普通の女の子になってみたいのだ。
私の年齢は17歳だ。本当なら学校に通って、大人から知識を教授され、ある時は身体を動かし、1年に1回、旅行や体力を競う大会、それに生徒主導で祭りが開催される。そうでなくとも帰りには友達と店で美味しいものを食べたり、ゲームセンターやカラオケに行ったり、私はそういうものに憧れを抱いていた。
私に与えられた特権を使えば、学校に入学できないこともないが、転入する際にクライメートには“特別な力を持つ少女”として紹介されるだろう。されなくとも私の顔を知っている者はこの世の中に大勢いる。
果たして前の世界の記憶もない普通で平和な人生を歩んできた高校生達が、私という異端な存在を普通の女の子として見てくれるだろうか?
無理だ。
誰もが私を特別扱いする。同級生であろうと、光魔法界で頂点に立つ私に話しかけるどころか、同じ空気を味わうことすら烏滸がましいと思ってしまう者もいるだろう。
そうなると、私は夢が叶わないどころか、やがて学校に居ることすらできなくなり、自主退学をすることになる事は想像に難しくない。
私は普通になりたい。そこで私がノルン様にお願いして、“特別な力を持つ少女”から私の存在を世間から忘れられれば、私は何者でもない普通の女子高校生として青春を謳歌することができる。
それが私の望みだ。
そうなった場合、フレイ達とは会ったことすら無かった事になるが、それでも構わない。
彼女達の事は嫌いではないとは言ったが、興味も無いのだ。
だからここで別れたっていい、私は私の願いを勝ち取りに行く。
ルカ・ヴァルキリーちゃん。あなたに恨みはないし、彼女にも叶えたい願いがあるのかもしれないけど、勝たせてあげる事はできない。
悪いけど、私の私利私欲の為の踏み台になってもらうわ。
――――――――――
《ルカ・ヴァルキリーの場合》
私の名前はルカ・ヴァルキリー。橋本ルカという少女の分裂体。本来なら存在しているはずのない人間。
私にも橋本ルカとしての記憶はあるし、カレンちゃんとの友情も感じてるし、両親からの冷遇に心を痛めている。ここまではもう1人の私と同じだが、この世界に来て“私”が生まれ、パーシヴァルさん達に助けられて、私は今ここにいる。
もう1人の私と明らかに相違があるのは、彼女はオーガスト・ディーンさん……ダストさんに何やら特別な感情を抱いていること、一方私はパーシー・ヴァルキリーさん……パーシヴァルさんが私の理想像であること。
同じ存在であるはずなのに、向けた感情の先にいる人物がそれぞれ違う。まるで別の世界線の自分が隣にいるようで、妙な違和感を覚えている。
とはいっても、その違和感は時間が経てば、いずれ消え行くだろう。
別に今更もう1人の私と融合して、橋本ルカとして完成したいわけでもない。許されるのならこのまま分かれたままで構わないと思っている。
だから私は……橋本ルカではないルカ・ヴァルキリーという名前の私として永遠に生きたい。それを願いにしてもいいのだろうか、というか願わなくてもこのままで居られるのなら1位を狙う意味もない。1000万円か世界旅行券を狙って、パーシヴァルさん達に恩返しをしたい。それが今の私のなによりの願いだ。
私の相手は“特別な力を持つ少女”の1人であるシャイさん。光魔法に長けている。
そんな相手に私が勝てるだろうか……?
一応レベル上げは依然として続けてはいるが、それでもパーシヴァル達の中では私が1番低いし、経験値稼ぎに協力してくれたカレンちゃんも、今回はいない。正直不安ではあるが、カレンちゃんは『ルカチャンハ強クナッタ。大丈夫キット勝テルゾ』と言ってくれた。
……そうだよね。私だって強くなった。精霊の力もだいぶ使いこなせるようになった。剣を持ったルカよりも。
私は負けない。私を応援してくれる人達の為にも、私の願いを叶える為にも、
『絶対勝つよ』
1人きりの控室にいた私は従者に呼ばれ、もう1度深呼吸をし、心を奮い立たせから、勝負の舞台であるノルン様特製の“バトルフィールド”に足を運んだ。
しかし、そこには他の参加者やノルン様もおらず、居るのは審判さんと対戦相手であるシャイさんだけ。
彼女は毅然とした態度でただ私が来るのを待っていた。その振る舞いはアニメやゲームで見たような歴戦の戦士そのもの。
つ、強そう……。
だけど、臆しちゃダメだ。
自信を持て。
これまでの経験がある。きっとどこかでパーシヴァルさん達が見守っている。
『私は……負けませんから』
私はシャイさんに聞こえるような音量でそう言って、精霊の力を発動する構えを取る。
『ほう、見た目と反して威勢だけは良さそうだ』
シャイさんは私を見下しているのか、それとも自信過剰なのか、腰にぶら下げてる剣や背中につけている弓を構える動作すら一切を行わず、勝負に挑もうとしている。
だけど、そんなことは気にしない。私は私の全力を出すだけだ。
『それではこれより第1回戦、“光の戦士シャイ”VS“精霊使いルカ・ヴァルキリー”の試合を始める!』
――始まりの合図と共に、ジャーン! と銅鑼の音が響き渡ると、2人の戦いは始まった。
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