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第370話『ドライヴレコード』

皆様

更新が大幅に遅れてしまい、申し訳ございませんでした。

大変お待たせしました。

第370話の執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。


 《ダストオリジン・ファーストドライヴの場合》


 私には2つの記憶がある。


 1つは、オーガスト・ディーンと名乗る若い男性ダスト、本名は■■■■■――おそらく世界中の誰よりも運命に翻弄された(オリジナル)が歩んできたこれまでの記憶(ぼうけん)


 もう1つは、()()()の記憶、元々の私が肉体を失う前の記録(データ)、つまり前世の私だ。


 私には愛すべき家族がいた、かけがえのない友達がいた。ゲームを制作する人になりたいという確かな夢があった。諦めずに努力し続けた結果、夢は叶った。


 超大企業であるゲーム会社に勤めた私は、それから生涯をかけてひたすらゲームを制作し続けた。上手くいくときもあれば、失敗続きで病んでいた時期もあった。


 それでも頑張ってこれたのは、私を応援してくれる家族や友達がいたからだ。みんながいなければ私はとっくに心が折れていた。それどころかゲーム会社に入社することすらできなかったかもしれない。


 だが、それが結果的に私の死期を早めてしまった原因になってしまうとは皮肉な話だが。


 うちの会社は表向きこそ良さそうに見えるが、その実態は労働基準法などろくに守る気もない、従業員など奴隷同然。たとえゲーム制作が好きな私でも、そんなところで何年も何十年も働いていれば、どうなるかなんてもはや言うまでもないだろう。


 まあでも、後悔はない。もちろん早死を望んでいたわけではないが、私の生きた証であるゲームを世に遺すことができたのだから。それだけでもやった甲斐があったというものだ。


 しかし、他の過労死した同僚は私みたいな狂人的思考ではない。もっと生きたかっただろう。もっと楽しい人生を歩みたかっただろう。だが、それを維持するには働かなければならない。生きるために命を賭けて仕事をしなければならない。


 ――なんという矛盾した世の中だろうか。


 自分が存在しているのは自分のため? それとも労働のため?


 それさえも分からない。私のように好きなことを仕事としているわけでもないなら、生きる意味などほぼ無いに等しいじゃないか。


 人としてではなく、道具として使い潰された彼らの無念。同じ環境にいた私だが、その絶望はとても計り知れない。


 そんな彼らと違って私はわりと満足して異次元の世界へ行ったわけだが、家族や友達の事を考えると――


 私に後悔があるとしたら、きっとそれなんだろう。私は家族や友達を悲しませてしまった。彼らにとって大切な存在であったであろう私がただの骨になる所を見送らせてしまった。


 私はなんて自分勝手で親不孝者で視野の狭い人間だったのだろう。もっともっとみんなに元気な姿を見せられれば良かった。私がもっと自分を大切にしていれば、年老いても心は児童(あのころ)のまま、昔の思い出を語れるような、密やかではあるが、それはそれで輝かしい人生を送れたのかもしれない。


 ゲームを制作するだけなら何も今の会社じゃなくても良かったんだ。1つの会社(せかい)に拘る必要も無かったんだ。


 だが、今はそんな後悔など微塵も感じない。なぜなら私はもう別の存在だから、前世の私の感情(こころ)はもういない。


 ――私の個体名は“ダストオリジン・ファーストドライヴ“。人の形をしたクローンだ。分裂した本物(ダスト)の魂と融合した別個体だ。


 クローンと聞くと、短命でどこか不安定なイメージがあるかもしれないが、基本的に普通の人間と同じだ。ノルン様によって創られた人間の肉体に融合した魂を入れただけなのだから。


 ただ、今の私の中にはゼウスを倒す、そのありもしないはずの使命感が心に縫い付けられている。それが終わるまでは自由になど生きられない。


 ――あぁ、なんて窮屈な人生なのだろう。


 前世は早死して後悔が残ってしまったものの、ゲーム制作している間はとても充実していた。しかし、今は楽しくない上に面倒な仕事を押し付けられてしまった。正直言ってアンラッキーだ。だが使命感という名の呪いがついている以上は逃れられない。さっさと仕事を終わらせて、またゲームを作ろう。


 感情が消えたはずの私に、前世の私にあった感情が再燃してしまった。いや……どうなんだろう、これは。


 今の私に前世の未練などあるわけがない。記憶だけを引き継いだだけの私にこんな感情……。


 そうか、その記憶を、ゲーム制作をしている前世の私を見て、私は“楽しそう”と思ったんだ。


 せっかくゲーム制作の知識もあるのだから、やらなきゃ逆に損だ。


 よし、このめんどうな仕事が終わったら、私はこの世界でゲームを作ろう。次は身体を労る事を忘れずに、誰かを悲しませる事なく、今度こそ――。




 《ダストオリジン・セカンドドライヴの場合》


 俺には2つ記憶がある、1つは本体であるダストの記憶。もう1つは前世の俺の記憶。


 思い出など語るまでもない、何もない人生。


 家族や友人と呼べる者はいない、天涯孤独。


 ただ生きるために働いていただけだ。


 だが、無駄がない。友人がいれば面倒な付き合いをしなければならない、家族も同様だ。趣味に関しても無駄に金を浪費するだけ。食事も最低限の栄養食で十分だ。効率的に生きる事ができたのは評価してもいいと思っている。


 しかし、そんな味気ない生活を送っていく内に俺は肉体を失った。死因は衰弱死。食事量の少なさが招いた結果だそうだ。


 だがこれでいい。後悔などはない。なぜなら俺には何かを成し遂げる目標がないのだ。ただ俺は死ぬのを待っていただけの歯車。役目を全うできている。俺も満足だ。


 ――気がついたら、俺は異世界で転生した。


 今、俺は転生前の記憶を含めても初めての大きな役目を負うこととなった。


 それはゼウスの打倒。一万年後、この世界を破壊せんとする最高神を破壊()めること。


 俺には全く興味などないが、あるはずのない俺の意志がゼウスを倒したいと唸っている。まるで前世から恨みでもあるかのように。


 おそらくノルンが俺を構築する際に架空の意志を植え付けたのだろう。確実にゼウスに戦意を向けさせるように。


 非人道的といえばそうだが、俺には特に怒りはない。むしろ何もない俺に目標を与えてくれたのだ。ならばそれに向けて生きていれば……いや、どうなのだろうな。


 俺は、本当は――。


 どうしたいのだろうな。


第370話を見て下さり、ありがとうございます。

皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)

次回も宜しくお願い致します。

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