第369話『日常編〜休日のクソゲー③〜』
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セーブする暇も考える隙も与えられないまま、戦闘BGMが流れてしまった。
このゲームの戦闘システムはコマンド制。自分のターンが来たら一方的に攻撃できて、相手ターンなら相手から問答無用で攻撃される。HPが先に0になった方が負けだ。
従来やってきたゲームと全く同じだ。いくら勉強できない俺でも分からないことはないだろう。
「いいぜ、どこからでもかかってこいよ!」
スライム王のレベルは180、それに対し、主人公のレベルは5。全然勝てる気がしない。これは確実に負けイベントだろう。通常HPが0になればゲームオーバーになるのだが、負けイベントなら負けることが前提なのでゲームオーバーにはならず、シナリオが先に進むというわけだ。
『とりあえずたたかうか』
俺はコマンド選択肢(こうげき、まほう、アイテム、にげる)の内、こうげきを選んだ。
――
▼“バカ”はやけくそで攻撃した。
▼相手に0ダメージ。
――
そりゃそうだろう。これだけの差があるんだから、やけくそにもなるわ。
「どうした、その程度か」
相手はそう煽るだけで攻撃はしてこなかった。
まだ殺す気は無いということか。
もう一度コマンドが表示された。
今度はまほうを選んでみることにした。そこから更にまほうの種類を選ぶのだが、そのまほうというのが、
①土下座
②服従のポーズ
③ディスる
④仮病を使う
まほうってなんだっけ?
さっき、俺より強い相手に会いに行くとかカッコいいこと言ってた奴が土下座したり服従のポーズを披露するってなんだよ。主人公イキってただけかよ。
「現金払えば許してくれるかな……」
主人公が財布の中身を見ながらボソッとそう呟いた。こんな情けない主人公は嫌だ。
さて、どうするかな。ろくな“まほう”がないし、そもそも“魔法”じゃないし、少なくともこんなので敵を倒せるわけがない。しいて言うなら③ならワンチャン精神的な攻撃を与えることができるかもだが。
『よし③だ』
――
▼“バカ”は相手をディスった。
「やーいやーい、バーカバーカ、お前のかーちゃんでべそー!」
▼相手は泣き出した。
――
『いや、しょうもな』
なんだよ、お前のかーちゃんでべそって……そんな昔ながらの悪口言ってる奴今どきいねえだろ……相手も相手で何で泣いてるんだ?
――
「でべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそでべそ」
▼“バカ”は猛烈な勢いでディスった。
「俺のかーちゃんでべそじゃないけど、何か悪口言われたから傷ついた!!!」
▼相手は号泣して攻撃ができない!
――
『いや、こいつメンタル弱っ』
――
▼“バカ“のディスりは止まらない
「やーい、雑魚メンタル! 豆腐メンタル!」
▼相手は大声を上げて滂沱の涙を流した。
「そ"こ"ま"て"い"わ"な"く"て"も"い"い"し"ゃ"な"い"か"!!!!!!!!!!!!!」
――
『はぁ……もう見てられん』
2匹のやり取りがあまりにも稚拙すぎるので、見兼ねた俺は電源を消そうかと迷ったが、また気になって夜眠れなくなるのも嫌なので、腹をくくって最後までプレイすることにした。
俺はその後も主人公に相手をディスらせ続け、相手はとうとうメンタルが完全崩壊し、戦闘から逃げ出してしまった。
戦闘が終了した後、主人公は何事も無かったかのように無表情で、街中を移動するフェイズに入った。これゲームの主人公だから何とも思わないけど、現実でこの場面を見たら、主人公、ただのサイコパスとしか思えないんだよなぁ。
『で、これからどうすればいいんだ?』
俺はその後、適当に主人公を動かしてモンスターを戦って……というかディスって相手を翻弄した。そんな戦い方をしている内に主人公の職業は“ラッパー”となっていた。
こうして主人公はラスボスである魔王をラップで倒して、世界平和を取り戻した。
おしまい。
『え、これで終わり?』
レベル関係なくひたすらディスってるだけで全ての敵が泣いて退散していった上に、キャラとの会話もほとんどなく、ストーリーも薄すぎる。
『やっぱクソゲーじゃん』
一体どんな会社がこれを作ったんだと調べてみると、“クライシスハンター”という数百年以上前に出来た超大企業の一部のとある制作チームのデビュー作らしい。
販売当初は大企業の最新作として話題になっていた為、それなりに売れたらしいが、中身があまりにクソゲーだったので、大炎上したようだ。
だが、開発ディレクターが言うには、どうも本来制作したものとは大分違うものに差し替えられていたようで、企業側からはこちらのミスとして公表したのだが、実は何者かにハメられたのではないかと噂もあるようだ。
『え、この人俺と同姓同名なんだ』
開発ディレクターの名前を見てみると、なんと偶然にも俺と同じ苗字と名前だった。しかも漢字まで全て一致している。
まあ俺の苗字も名前もメジャーだから、別に完全に被ったとしてもそれほど驚くことじゃないが。
でも、なぜだろう。全く同じフルネームってだけで妙に親近感が湧いてくる。どこか他人事として見れないし、心なしか外見も似ているような気もしている。
『まあ、さすがに気のせいだろうけどな』
調べ物に夢中になっていると、パーシヴァルやルカちゃん達が続々と帰ってきた。早いなと思っていたら、空はオレンジを纏っていた。
――これにて一人きりの休日はひとまず終了。
明日は平日だ。教員としての仕事もそうだし、ヴァルハラに行ってレベリング作業も同時にこなさなくてはな。
体調が不安定になりそうになるくらい忙しい日々だが、俺の理想の為だ。やってやるぜ。
『もうこんな時間か』
『お、主人、何やってるんだ?』
『これか? テレビゲームだよ』
『なんだそれ?』
『知らないのか、ってそうか、パーシヴァルの時代はこういうのなかったよな』
一万年後なら一応クレーンゲームもどきなら魔王城にもあったし、ほぼ現代日本文明を築いていた火の国ならゲーム機を販売していたが、パーシヴァルが生きた時代は文明が中世レベルにまで退化しているようだ。
『よかったら次の休日にでもやってみなよ、俺が教えてやるから』
ただ、さっきのクソゲーは絶対やらせたくないな。
『そ、そうか、なら今度やってみようか』
満更でもない表情のパーシヴァルだが、予定を空けられるか不安そうでもあった。
確かにここ最近レベリング作業を優先してるみたいだし、人付き合いもそれなりにこなしている。友達が少ない俺とは違ってな。
『あの……そのゲーム? 私達もやっていいですか……?』
縮こまった態度でルカちゃんは手を上げた。
『ルカちゃん達はゲームやったことないの?』
『無いですね……』
『あ、そっか……』
両親から冷遇されていたルカちゃんにゲームという金のかかる娯楽を与えられるわけないか。
『ゲームってすげえ面白いから存分に楽しむといいよ』
『ありがとうございます』
嬉しそうにルカちゃんもルカヴァちゃんも頭を下げて感謝の意を示した。
次の休日はみんなでゲーム大会になりそうだ。
こういう約束をするだけで心が躍る。
ああ、快楽だ。
第369話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




