第365話『微笑む少女』
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精霊軍との戦い及び宿泊行事が終わってから2週間ほど経った。
その間特に何かあったわけでもなく、教員生活を送りつつヴァルハラでレベリングという日常を送っていた。
――そして今日、ノルン様から精霊軍全員が目を覚ましたと連絡が来た。
オベイロンも完全回復しており、1度死んでしまった精霊軍の全員を蘇生させる事にも成功した。健康状態も良好だそうだ。
すぐに自分達の世界に帰るかと思いきや、その前にオベイロンから謝罪も含めてルカちゃんと話をしたいと申し出た。
どんな話をするのかは分からないが、ルカちゃんの保護者兼担任として俺と、もう1人のルカちゃんであるルカヴァちゃんとパーシヴァル、そして学院長のマーリンと秘書の新井さんもヴァルハラへ赴くことに。
せっかくの休日、思う存分羽を休めたかったが、ルカちゃんの将来に関わる話もあるだろう。仕方ない。
ヴァルハラの会議室に着いた俺達は、オベイロン達精霊軍と面と向かい合うように、長円形の大きなテーブルに座る。議長席にはノルン様、その後ろにはヒルドさんとヘラクレスが立っている。
――会議が始まった。
その内容をまとめるとこうだ。
まず、オベイロンから俺達の世界へ侵攻してしまったことと、これまでのルカちゃんに対する冷遇についても謝罪した。
勘違いとはいえ、そちらに攻撃を加えてしまったのは事実。お詫びはいくらでもするとのことだった。
ルカちゃんについては、この世界に来てから今まで彼女の身に起きた事を説明した。最初はオベイロンも驚愕の表情を浮かべていたものの、すぐに冷静さを取り戻した。
2人になったルカちゃんをどうやって1人に戻すかも話し合ったが、残念ながら妙案が出た者はいなかった。1人が2人になるという前例もないし、あまりに非現実的すぎる超常現象だし、簡単に思いつく方が不自然なくらいだ。無理もないだろう。
まあ、ルカちゃんはルカちゃんだし、ルカヴァちゃんはルカヴァちゃんだし、本人達も1人になることは正直それほど望んでないみたいだし、そのままでもいいかもな。……システム的な意味で良いかは分からないが……。
とりあえずこの件は保留となった。次に議題に上がったのはルカちゃん達の今後のこと。
橋本ルカという少女は元々、この世界の人間ではなく、オベイロンと同じ世界から来た異世界人だ。当然帰る場所がある。もちろんルカちゃんの心境を考えると帰り辛いだろうけど、そこは今後オベイロン達が手厚くケアするし、支援もしてくれるそうだ。
もちろん、この世界に残るという選択肢もある。オベイロン達の世界とこの世界はさして変わりはない。異なる点を挙げるとしたら、精霊がいるかいないかだけだ。
どちらを選択しようと、拒む者はここにはいない。オベイロンもあくまで橋本ルカの意志を確認したいだけのようなので、あとは本人が決めればいいだけ。
それらを説明した上で出した結論は――
『ここに残りたい』
ルカちゃんがはっきりとそう言うと、続けてルカヴァちゃんも控えめに縦に首を振った。
それについて精霊達は特に反対せず、粛々と受け入れた。
ただ、オベイロンからは、それでも橋本ルカは大切な国民の1人であることには変わりない。もし何かあったらいつでも助けに行くと約束してくれた。
そこでノルン様がこう提案した。
そういうことなら、ヴァルハラ(ダスト)軍と精霊軍と同盟を結ぶのはどうでしょう、と。
それに対して多少のざわめきはあったが、何かあったら助け合えるメリットを思い浮かべるのにそれほど時間も説明も要さなかった。
俺達としても戦力が増えるのはありがたい。
精霊軍にとってもそうだ。オベイロン達はヴァルハラ軍と1度戦闘を交えたことがあり、その圧倒的な強さは嫌というほど思い知らされただろう。
今回は温情で生かされたものの、もし次俺達が精霊軍の敵に回れば、精霊軍の壊滅は避けられない。
俺達に限ってないと思うが、いつ侵攻された時の憎悪の感情が蘇るか分からない。だからこそ同盟を結んでおくことで、ヴァルハラ軍を敵に回さず、むしろ味方に引き込むことができる。
これは精霊軍にとっては、今後の王国存続の為の重大な選択だ。それを理解しながら、同盟に異を唱える者などいないだろう。
――精霊軍の心は1つ。
オベイロンは同盟の話を受け入れた。
こうしてヴァルハラ軍と精霊軍の同盟が締結された。これは女神権限レベルで約束されたものなので、絶対に破られることはないし、もし破ったとしても、その先は……おっとこれ以上は言うのも恐ろしいので口に出さないでおこう。
ノルン様は同盟の証として、向こうの世界とこちらの世界を繋ぐゲートの作成と通信端末の支給を手配した。これでいつでも連絡ができ、すぐに救援に向かうことができる。
オベイロンは感謝の意を示し、円満な関係のまま元の世界へ帰っていった。
『もうちょっとゆっくりしていっても良かったのに〜』
『一般人ならともかく、王族が2週間も国から離れるわけにもいかないからな。こればかりは仕方ないだろ』
『そうだけど〜』
ヒルドさんとヘラクレスの会話をよそに、ルカちゃんは名残惜しそうに窓から外を眺めていた。
『どうしたの、ルカちゃん』
ここに来て突然のホームシックだろうか? さっきの会議でここに残るとはっきり名言はしていたけど、少し、ほんの少しは自分の生まれ育った世界に思い残しがあるのだろうか。そう思っていると、ルカちゃんが思いもよらないことを口に出した。
『……わたし、大人って嫌な人ばかりだと思ってたんです』
『え、ああ、そうだよね……』
『あ、ディーンさんやパーシー先生達は別ですよ! 見ず知らずの私を救ったくれただけではなく、居場所まで作ってくれて、もう感謝しかないです!』
『いやいや、それは俺達が勝手にやっただけだよ。気にしなくていい。それより話の続きを聞かせて』
『……はい、わたしの世界の大人って本当に自分の事しか考えてなくて、保身の為なら子供だろうと平気で犠牲にする最低の大人ばかりだったんです。でも、オベイロンさんは違った。最初は自分のためだけに侵略してきた最低な王様だと思ってたんですが、実はわたしを連れ戻すためで、ちゃんとわたしの事を考えてくれて、この世界に残るってわたしの考えも反対せずにしかも今後の支援まで約束してくれて……こんな大人もいるんだなと考えたと同時に自分の浅はかさも痛感したんです』
『浅はかさ?』
『はい、だってわたしは全ての大人を見てきたわけじゃないのに、大人はみんな敵だって勝手に思い込んでて……何だか自分が恥ずかしくなっちゃって……』
『そっか……』
俺もかつては似たようなことを考えていた。大人もクラスメートも全員敵。味方なんていなかった。この世の全てが敵だと思っていた。
でもこの世界で魔王や赤髪ちゃん達、ブロンズ様三姉妹に出会った。その時初めて感じた暖かさを数百年経った今でも覚えている。
人生捨てたもんじゃない。そう考えるようにまでなった。まあ、その後色々酷い目にあって、やっぱりクソみたいな人生だったと思っていた時期もあったけど。
やはり、似ているな。俺と君は。
『俺もさ、昔似たような事を考えてたよ』
『あ、そっか、ディーンさんも私と似たような境遇だったって言ってたね』
『うん、周りの人が悪い奴ばっかだとそう思うのは全然恥ずかしいことじゃないし、無理はないと思う。だってそんなの周りの大人が悪い。どんな事情があるにせよ、君のような純粋無垢な女の子がここまで苦しんでいい理由なんてない。オベイロンは確かに根はいい奴みたいだけど、結局君へのフォローを怠ったことがこの結果を招いたんだ』
『ディーンさん……でもあんまり人のせいにしていいのかな……』
『確かに人のせいにするのは印象良くないかもしれないけど、そんなの関係ない。存分に人のせいにしたらいいよ。だって君の場合はそれが事実なんだから……君は悪くないし、恥ずかしいことなんて何もない』
『ディーンさん……!』
『おっと、教師としてはちょっと言っちゃいけなかったかな……この事は内密にね、表には出さずに心の中に仕舞っておいてね』
『ふふふ、はい仕舞っておきますね、ディーン先生』
――天使のように微笑んだ1人の少女。その光景は自然で当たり前のようで、とても尊く幸せな気持ちで溢れていた。
良かった。腐り果てたクズのような男でも1人の少女を救ったんだ。
はぁ――快楽だ。
第365話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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