第335話『この悪夢は悪夢ではあるが、俺の記憶ではない』
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とうとう怒ることにすら疲弊しきったフレイは、胸ぐらをつかまれた俺を解放し、別れの挨拶の代わりに舌打ちを鳴らし、その場を去った。
いや別れ方完全に不良かよ。
『何なんだよ、あいつ……』
それから少し経つと、フレイから学院長の方に連絡があり、俺宛に「またてめえに会いに来てやる」と言っていたそうだ。
いや、もう来なくていいです。マジで二度と来るな。
肉体的苦痛と精神的苦痛があまりにも酷いので、午後の授業はパーシヴァルに任せて、俺は早めに上がることになった。
すまないパーシヴァル。
『ただいま』
シーーーン。
朝と夜はいつも騒がしいのに、今の時間は寂寥感が漂う、まるで一人暮らしの家のようだ。
まあ、大体は学校にいるだろうし、あおいちゃんは仕事に行ってるのだから誰もいなくて当然なのだが。
『……』
俺は無言のまま、自分の部屋に行き、ベッドにダイブした。
『……』
仕事があるはずの平日に家のベッドの上で横になる。至福の時であるはずなのに、気分が上がらない。罪悪感が心にのしかかって辛い。
おかしいな。学校を休んだ時はお祭りのようなテンションだったのに、なぜ今は……。
『らしくないなぁ……』
未だ痛む耳を押さえながら数時間、ようやく俺は夢の世界の扉を開けた。
『――あれ? ここはどこだ?』
確か俺は学院長の家の自分の部屋のベッドの上で寝落ちしていたはずだが、気づいたら俺は不気味で見知らぬ夜の戦場に突っ立ていた。
――ん?
戦場といっても喊声は全く聞こえず、戦争に使ったと思われる血みどろの剣や銃が辺りに散乱してることから、既に戦争は終わっていると推測できる。
――いや、ちょっと待て。
気味が悪いくらい静かだ……ずっとここに居ると頭がおかしくなりそうだ。
『ってそうじゃなくて、この夢前にも見たぞ』
前と言っても時系列上では1万年後なのだが、ややこしいから考えないでおこう。とにかく俺は今見てる夢と同じ夢を見たことがある。
そんなことがあるのかと思ったが、この世界だしな。いつもいつも訳が分からんことばかりだし、うん、今更驚かんよ。
『待てよ、同じ夢ってことは……』
少し歩いてみると、案の定だが凄惨な状態の死体がたくさん転がっていた。人間へ尊厳など1ミリも感じられない。まるで人が壊れた玩具のようだ。
『やっぱりか……』
以前この夢を見た時は、この光景が目に映った瞬間、吐き気を催したっけな。夢の中なのに。
『今の俺が見てもなかなかキツイな……』
この場から一刻も早く去りたいのは山々なのだがそうもいかない。恐らく次の展開は――
『見つけたぞ……魔王!』
どこかから現れた謎の男が俺に向かって剣を振りかざす。
なるほど、やはり以前の夢と全く同じ展開のようだな。謎の男の姿も持っていた剣も服装も声も、出会い頭の行動や台詞までも何もかもが。
俺は未来予知魔法を使うまでもなく、謎の男の攻撃を余裕で避けてみせた。
それでも尚、男は剣を構えて次の剣撃を繰り出そうとしている。
ここで俺が魔王じゃないと言っても、どうせ聞いてくれないだろう。それなら――。
『なあ、その魔王ってのは何だ?』
俺は興味本位で前に見た夢と台詞を変えてみた。もしかしたらまた違う展開になるかもしれないからな。
『何をとぼけている! 貴様が魔王だろうが!』
『その魔王ってのは俺で間違いないのか? 人違いの可能性は?』
『何を言っている! 貴様は紛れもなく魔王だろ!』
ダメだこりゃ。この男にはどうしても俺が魔王とやらに見えるらしい。
魔王は魔王でも、まさかあの頭のおかしい魔王の事を言ってるんじゃないだろうな? 俺とマーブルだとさすがに外見も性格も似つかないだろうよ。
『親友の仇だ! ここで討ち取る!』
謎の男は殺意マシマシで再び俺に斬りかかってきた。
あの時の俺は確か迎撃するだけの力が無いから逃げたんだよな。それで走るしかなくて全力疾走したけど、体力がゴミすぎてすぐ追いつかれて、斬られそうになったところで時が止まり、奴が……ダークネスが現れたんだっけな。
今のところはほぼ同じ展開だし、ということは今この夢の中のどこかにダークネスがいるのだろうか?
『はい、雷魔法』
俺は謎の男に適当な感じで迎撃した。今の俺にはこの男を倒すくらい朝飯前なのだ。
『ぐわああああああああああああ!!!』
雷魔法をまともに喰らったその男は、身体から黒い煙をプシューと上げながら、地面に伏せた。
そのまま動くこともなく、元々あった死体の山の一部と成り果てた。
『……』
俺は、ピクリとも動かない死体を見つめる。
『……』
――そもそもこの夢は何だ?
今までもダークネスに映像を見せられた事はあった。そのどれもが俺の……いやダストとしての記憶だった。
だが、この夢だけはダストの過去ではない。もちろん俺自身とも関係ない。
となると、この記憶だけは……ダークネスが俺を魔王だと認識させるための嘘ということになる。
でも何の為に? こんな何の関係もない夢を見せてどうするんだ?
――恐らく俺に壊れた歯車を発動させる為だろう。夢の中だから発動そのものはできないが、きっかけにはなる。現に俺は夢から覚めたその日に軽くだが壊れた歯車を発動してしまっただろう。
なるほど、そういうことか……ってあれ?
今さっき俺は一体何を思った? なぜそんなことが思いついた?
『……』
――やはり変だ。
壊れた歯車を発動してから、身体能力だけではなく、考え方や価値観も“別の何か”に侵食されているみたいだ。
もし、このまま俺が別人格になって日常を過ごしたら――
ダメだ。想像したら嫌な映像が流れてきた。
どうにかして“これ”を抑えなければ……!
何か良くないことが起きる気がする。
でも情報が無い。1万年後ならともかく、今の時代で“それ”を知る者がいるのだろうか?
――居るわけがない。どいつもこいつも魔法という攻撃手段がありながら平和ボケして、自らの願望を掴まない塵だ。それほどの知識があるとは思えない。
何だ、何だ。また俺じゃない何かが勝手に俺の脳で思考を働かせている。
――いいではないか。この力を存分に利用しようではないか。俺は快楽さえ求めれば無条件に力が授けられる。そしてその力は消えることなく、俺のエネルギーの一部となる。
俺に……力が……。
――そうだ。俺さえ求めれば望みは叶う。それがたとえどんな無理難題な願いだとしてもダ。
望みは……叶う……。
――強欲であれ。オーガスト・ディーンいやダスト……否、■■■■■よ。
俺は――俺は――。
一体どうしたいんだ?
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