第332話『教員生活編〜幸せを感じた瞬間〜』
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第332話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
――特に夢を見ることなく朝になった。
昨日は色々あって疲れたが、平日というものは情け容赦がなく、たとえどんなに疲れた身体であっても学校へ向かわなくてはいけない。
なぁ、鬼畜すぎないか? 平日さんよぉ?
――さて、朝の仕度をして学校に行かないと……。
俺は顔を洗ってから、リビングに向かった。
『ダス……ディーン様、おはようございます』
エプロン姿のあおいちゃんが笑顔で挨拶してくれた。可愛い。
『あおいちゃん、おはようございます』
『ディーンさん、おはよー』
『主人、おはよう』
『ルカちゃんに、パーシヴァルおはよう』
パーシヴァルとルカちゃんも少し眠そうな顔をしていた。まだ朝も早いし無理もない。
『皆さん……おはよう……ござい……ます……』
ルカヴァちゃんもまだまだ余所余所しくはあるが、面と向かって挨拶してくれた。
『おはよう、ルカちゃん』
ルカヴァちゃんも一応橋本ルカという人間だから同じように呼ばなくてはいけない。ややこしい。
『マーリンはまた早朝から学院へ向かった感じ?』
『らしいぞ』
大変だねえ、学院長も。
『朝食が出来ましたよ』
『あおいちゃん、ありがとうございます』
今日の朝食当番はあおいちゃんだ。毎朝毎朝ルカちゃんに作らせるのも悪いということで、あおいちゃんも調理メンバーに加入した。俺やパーシヴァルも、と思ったのだが、2人揃って女子力があまりにも壊滅的なので、調理メンバーには加入できなかった。
そういえば研修の時もろくに料理できなくて、食料庫にあるもの適当に食べてたなぁ。
『あれ? 黄金達は?』
『まだ寝てるのか』
朝ごはん食べる時間を考えて、そろそろ起こさないと朝のHRまで間に合わないな。
『ちょっと起こしに行ってくるか』
俺は白鳥三姉妹が眠っている部屋まで足を運んだ。
『そろそろ起きないと遅刻するぞ〜』
俺は部屋をノックしながら扉の奥まで聞こえるようにそう言ったが、全然反応が無かった。
どうやら、まだ夢の世界に夢中のようだな。
起こすにしても、女子の部屋に無断で入るわけにもいかないので、パーシヴァルを呼んで代わりに部屋に入って起こしてもらうことにした。
それから、三姉妹は半分夢の中に浸りながらも無事起床し、制服にも着替えていた。
意外だな、昨日学校に行くと約束した銅はともかく、まだ心を開かない黄金や、今まで不登校だった銀河まで制服を纏っている。
『お、みんなちゃんと行く気なんだな。でも銀河は今まで学校来れなかったのにどうしたんだ?』
銀河はスカートの裾を両手で掴んで、震えた声でこう答えた。
『あの……わたし……昔から先生にどんくさいとか気弱な奴とかずっと言われてて……お姉ちゃんや銅ちゃんの事も悪く言う人ばかりで……私怖くて……でも……ディーン先生とパーシー先生は違くて……ディーン先生はお姉ちゃんと私を助けてくれて……パーシー先生は私を見ても悪口は言わなくて、むしろ優しく話しかけてくれてね……私……嬉しかったの……』
銀河は話す最中に顔を下に向け、ポタポタと涙を流した。だが、その顔を彼女は頑なに見せようとしなかった。まるで何かに縛られているようだった。
どこかで見たことがある艷やかな銀の髪をした女の子は泣きながらも話を止めずに自分の過去を話してくれた。
元々、白鳥銀河は根は真面目で決して明るい性格ではなかったが、暗いわけでもなかった。お淑やかという方がしっくりくるかもしれない。
しかし、彼女はどこか要領が悪く、何をするにも上手くいかなかった。そんな銀河にイラつきを覚えた当時の担任が彼女に暴言を吐いた。
“お前はどんくさい”
“お前みたいな奴がいると他のクラスメートに迷惑だ”
“何でお前はこんなにできない奴なんだ”
“この出来損ない”
“そうやってすぐ泣くなんて弱虫なんだよお前は!”
“今後泣いたら、先生がお前を叩いてやる! これは暴力じゃない、躾だ!”
これが原因で彼女は不登校となり、黄金と銅も実はこの時までは真面目に学校に行っていたが、銀河が毎日泣かされてると聞き、彼女達はその教師に怒ったが、しらを切られた。他の教師にも苦情を言いに行っても何も対応してくれなかった。そんな大人達に絶望し、復讐として真面目な生徒から不真面目な問題児となった。
その後、学院長に誘われ、その学校から今の学院に転入した。またとんでもない誘い方をしたに違いない。じゃなきゃ大人を信頼してない彼女達が応じるわけがない。
うちの学院の教師なら下手な指導はしないだろうが、それでも尚、不良のままだったのは、黄金と銅の復讐心がよほど根強く残ったということだろう。気持ちは分かる。
『――という……わけです……』
今にも大号泣しそうな銀河。そんな彼女を心配そうに見る黄金と銅。パーシヴァルも拳を握って、その教師への怒りを募らせた。
あおいちゃんやルカちゃんも同情しているのか悲しそうな顔をしている。
俺は――
『主人……?』
『ディーンさん?』
『せんせー……』
泣いていた。
『えっ……?』
何で俺……泣いているんだ……?
銀河に共感したのか? それとも同情?
いや、ありえない。だって俺はエゴイストだから。人のために泣くなんてありえない。
そうは思っていても、涙は意志に反するみたいに涙腺を駆け巡る。
ダメだ。涙を拭っても拭いきれない。どんどん溢れていく。
泣きたいのは銀河の方なのに、泣くことを禁止されている彼女の方が誰よりも泣きたいはずなのに……なぜか俺が泣いている。
ダメだ、泣いちゃダメだ。俺は教師だ。生徒達の見本なんだ。ダメだ、泣いちゃダメ……………………なのか?
本当に泣いちゃダメなのか?
『――銀河、泣いていいんだぞ』
『え? で、でも、そしたら……“あの先生“が……』
躾けてくる。そう言いたいのだろう。
銀河は泣いて叩かれることを恐れている。もし自分がここで泣けば、恐怖の象徴である暴力教師がここに来て、自分を叩きにくるのだと、本気でそう思って怯えているのだ。
銀河の身体は震えている。顔色も悪くなってきた。
『銀河! おい大丈夫か! 銀河!』
黄金と銅はへたり込もうとする銀河の身体を支えた。
『銀河、大丈夫だ。君を傷つける大人はここには来ない。もし来ても俺が……いや俺達が追い返してやるから』
俺がそう言うと、銀河の眼から大量の涙がドバドバと溢れた。まるで今までせき止めていた涙が開放されるかのように。
『先生……うっ……うっ……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
彼女の泣き声は家中に轟いた。その号泣ぶりは生まれたばかりの赤ん坊にも劣らない。
黄金と銅も泣きながら銀河を抱きしめた。
あぁ、よほど辛かったんだろうな。ゴミクズすぎる教師にいじめられた銀河も、彼女の為に不良になった黄金と銅も。
『良かったね……銀河ちゃん……』
その光景を見ていたルカちゃんも思わずもらい泣きをしてしまった。パーシヴァルもあおいちゃんも優しい顔つきで見守っている。
――なんて尊い。濁った心が洗われるようだ。
俺も涙が止まる気がしない。もはや大人の威厳など捨て、涙を流す方を優先した。
だって仕方ないだろう。醜いクズ野郎にいじめられた彼女がこんなにも救われたと泣いて喜んでいる姿を見て、俺は幸せを感じているんだ。
銀河が救われて良かったと。
――そうか、エゴイストである俺でも誰かの為に悲しんだり、喜んだりできるんだ。
俺は今この瞬間――やっと自分を理解した。
自分が何をしたいのか。何を欲するのか。
俺は彼女達を……大切な人達を守る事に――
“““”“快ラクヲ感ジルンダ““”““
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