第329話『教員生活編〜初めての家庭訪問〜』
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※文字数多めです。
俺はあれからずっと白鳥姉妹の事を考えていた。いや考えさせられていたという方が正しいか。
――やはり、俺はあの娘達を放っておけない。顔があの三姉妹と同じだからというのも少しあるが、どうも俺には彼女達が苦しんでいるように見えてしまう。
本当に教師が嫌いなら、学校自体にいかなければいいのに、わざわざ来てるということは、何かをアピールしているのかもしれない。
白鳥銅が去り際に、潤んだ目をこちらに向けてきた。まるで助けてほしいと言わんばかりに――
――俺は仕事が終わった後、パーシヴァルとは別行動し、彼女達の住所を調べて、白鳥家までやってきた。
『家デカいな……』
今は我が家でもあるマーリンの豪邸とほぼ遜色ないくらいには大きかった。
白鳥家の親は幼い頃に死別しており、彼女達を養っているのは祖父である大企業の社長らしい。それ故、仕事仕事仕事でおじいさんは滅多に家に帰ってこれない。
なので、この家にいるのは、ほとんど白鳥3姉妹のみだ。
『今居るかな……話ができればいいけど……』
これが彼女達に対して、正しい行動なのかは分からない。でもこのまま放っておくことはできない。
俺は緊張で手を震わせながら、チャイムボタンを押す。
ピンポーンという音が響く。チャイムが鳴ってしまえばもう引き返すことはできない。
それから程なくして、ブロンズ様……ミニスカパーカーの白鳥銅が顔を出した。てっきりインターホン画面で誰が来たか確認してからドアを開けるものだと思っただけに驚いてしまった。
こんなに広い家なのに警戒心ないなぁ……俺が強盗だったらどうするつもりだったんだろうか。後で注意しておこう。
『え、新任の先生じゃん。何しに来たの?』
『突然押しかけてごめん、ブロ……いや白鳥さん、自己紹介がまだだったからまず先に名乗らせて、俺はオーガスト・ディーンと申します。白鳥さんの言う通り新任で君達の担任だよ。ここに来たのは君達と話をしたかったからなんだ』
思わずブロンズ様と言いそうになったが、なんとか言い止まり、話をしたいと持ちかけた。
『話って何? 私達が学校サボったこと?』
『それもそうだけど、別に責めたいわけじゃない。ただ話を聞きたいだけだ』
『ふーん』
銅はポケットに手を突っ込み、ドアが閉まらないように身体で押さえながら、親指で扉の中を指した。どうやら家の中に入ってと言っているようだ。
俺はコクンと頷き、白鳥家の豪邸にお邪魔した。
『お邪魔します』
『こっち来て、ここ私の部屋だから』
銅は俺を自分の部屋に招いた。
内装は可愛らしい女の子の部屋って感じだ。良い匂いが鼻腔に広がっていく。
『座って』
『ああ』
机を挟んで銅と向かい合うようにして腰掛けた。
『あ、ちょっと待ってて』
銅は思い出したかのように立ち上がり、一旦部屋から出て、程なくして戻ってきた。どうやら俺にお茶を持ってきてくれたようだ。
『良かったら飲んで』
『ありがとう』
言葉遣いはアレだが、見た目によらずおもてなしの心もあるんだな。
そういう根は真面目なところもブロンズ様と似てるな。
『ねえ、白鳥さん』
『白鳥だと、“こが姉“や“きら姉“と区別つかないから、私のことはあかねって呼んで』
『わ、分かった。ゴホン、じゃあ改めて……あかねさん、何で君達は大人を毛嫌いしてるのかな?』
『大人を毛嫌い? ううん違うよ、私達が嫌いなのは大人じゃなくて教師だよ』
『教師か……つまり俺か』
『うーん、でもディーン先生は違うかなー。だってこが姉を無闇に怒ったりせずに遅刻した訳を聞こうとしてたし』
『他の先生はそうじゃないの?』
『うん……どの教師もみんな私達を悪いとか言って、理由も聞かずに怒ってくるんだよね』
『そう……なんだ……』
確かに遅刻をしたら怒られるというのは俺の世界でも常識だ。この世界でもそれが普通ならば、遅れたお前が悪いと言えるだろう。それが当たり前の常識として浸透してしまっているのも分かる。しかし、ただお前が悪いとだけ言ってもそれで解決するのだろうか? なぜ遅刻した理由は聞かないのだろうか? そもそもこんなに時間に厳しいのに終了時刻にだけは驚くほど緩い。
大人達は熱心さを上司に見せる為に残業する事、あるいは仕事が終わらないから残業する事が多い。それだけじゃない、いつもの打ち合わせだって、授業の終了時間だって、なぜか守られてない事が多い。にも関わらず、謝りもせずに平然と時間を延長する。矛盾してないだろうか?
これは果たして時間に厳しいと言えるのだろうか? 本当に時間を守っていると胸を張れるのだろうか?
そんな大人達に子供達の遅刻を咎める権利なんてあるのだろうか?
――あるわけねえだろ、そんなの。
『教師の俺が言うのもなんだけど、俺もさ、学校に通ってた頃は教師が嫌いだったよ』
『え、そうなの?』
銅は俺の発言が意外だったのか、驚愕の表情を見せた。
『うん、だって教師共みんな偉そうにしてるわりに間違いだらけだし、自分の事は棚に上げて人を責めまくるし、このクズ野郎がって思ったよ。もちろん教師全員がそうだってわけじゃないけどね』
銅は俺の話に興味津々なのか、前のめりの体勢になって真剣に聞いてくれている。
俺はその後も、愚痴をこぼすように昔の辛かった出来事を語る。クラスメートにいじめられたことから、教師に理不尽にキレられたことを――。
本来であれば、教師が教師の悪口を言うなんて言語道断なんだろうが、彼女達の心を開くにはまずこちらが目線を合わせて話す必要がある。
生徒に舐められないように教師としての威厳を保つのも大切なことかもしれないが、生徒から信頼されなければそれ以前の問題だ。信用を得られないということはその人の言葉を受け入れない、教えにも背く。つまり、それでは教師の仕事が成立していないのと同義だ。
まあ俺はまだ教師になってから2日目の若造中の若造だ。未だ知らぬ事があるのかもしれない。ベテランの教師だって、普段はあんなに胸を張って堂々としているように見えるが、実は生徒の知らない所でものすごく苦悩してる事もあるのかもしれない。
――でもな、だからといって自分の信念を曲げるつもりはない。少なくとも俺は教師達の杜撰な対応で苦しんできた。
だからこそ俺は――
『――というわけなんだ。なかなか酷い話だろ?』
自分の過去話を終えた俺は、苦笑しながらやれやれと両手を少し上げたポーズを披露する。
これを聞いた銅は一体どんな反応をするのか、彼女の顔を見てみると――。
『あかねさん……?』
銅は俺に同情したのか、すすり泣きをしてしまった。
体育座りをして、自分の腕をハンカチ代わりにして涙を拭いている。
『だ、大丈夫?』
『……せんせー、すごく辛かったんだね……』
そうか、銅は人の辛さを自分の事のように泣けるような優しい心の持ち主なんだ。そういう所もブロンズ様そっくりだな。さすがに人の心は読めないけど、まるで本人が目の前にいるみたいだ。
『あかねさん……』
『あかねでいい』
銅は姿勢を正し、俺に頭を下げた。
『今日は失礼な態度を取ってごめんなさい。昨日無断で欠席しちゃってごめんなさい。明日からちゃんと学校に行くから』
『え、いや、そうしてくれるならありがたいけど……そんなにすぐ矯正するつもりはないよ、来れる時でいいからさ』
『ううん、そういうわけじゃないよ。私はせんせーに会うために行くから』
『俺に会うため?』
『うん』
俺に会うために学校に行くなんて、なんだか変な理由だけど、まあそれで授業ちゃんと受けてくれるなら、いいのかな。
『分かった、じゃあ明日からちゃんと授業受けてね』
『うん!』
銅は涙を流したままの笑顔を見せてくれた。
――あぁ。やっぱりその顔……ブロンズ様にそっくりだ。
『あ、ところで黄金さんはまだ帰ってきてないのかな?』
『そうね、もう帰ってきてもいい頃だと思うけど……』
現在の時刻は19時過ぎ。黄金は部活や塾に通ってるわけでもないのにこの時間になっても帰ってこないのは少し心配だな……。
『いつもはこの時間に帰ってきてるの?』
『ええ、そのはずよ』
『あかねさんは今日、黄金さんと一緒に帰ったよね? 最後はどこで別れたの?』
『別れたんじゃなくて、一旦家に帰ってきて、そろそろ夕食の時間だからと、“きら姉“を連れてスーパーに買い物しに行ってきたの』
『それはいつ頃?』
『せんせーが来るちょっと前よ』
『そっか、ちょっと俺黄金さんと銀河さん探してくる。あかねさんはここにいて』
『え、私も行く』
『女の子がこの時間に出歩くのは危ないよ』
銅は超絶美少女だし、況してや俺の生徒だ。危険な目には遭わせられない。
『お、女の子扱いしてくれるのは嬉しいけど……でも“こが姉“と“きら姉”が心配だよ……』
銅は拳を握り、どうしても黄金と銀河の無事を確認したいという意志が強く現れている。
これは俺がいくら銅を説得しても聞かないだろう。むしろそんな時間を取るのも惜しい。そうしている間に黄金と銀河が大変な目に遭っているのだとしたら……。
『分かった。でも必ず俺の側から離れないで。それが条件だよ』
『分かったわ。ありがとうせんせー』
『よし、じゃあ行こう』
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