第325話『教員生活編〜始まり〜』
皆様
お疲れ様です。
改稿を優先するつもりでしたが、やはりずっと待たせるのも悪いので一度更新することにしました。
ただ、改稿を優先する方針は変わらないので、今後も今回のようにかなりペースを遅らせての更新になるかと思います。
方針がコロコロ変わって申し訳ございませんが、宜しくお願い致します。
え、だったら早く改稿終わらせろよって?
おっしゃる通りです。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていてどうしても筆が持ちにくい状態ですが、早急に終わらせられるようにしたいと思います。
※今回は文字数かなり多めです。
――とうとうこの日が来た。
――研修は完了した。学院長からも正式に教員として採用された。
俺は今日から17歳(精神年齢)でありながら、今を生きる生徒に教え導く立場になるのだ。
正直実感が湧かない。俺があの大嫌いな教師になるなんて、まるで悪い夢でも見てるようだ。
そう思うと、途端に身体全体が震えた。これは緊張か? それとも学校の教室の中に入ることによるトラウマの影響なのか?
『主人――いやディーン先生、大丈夫か?』
キャリアウーマンのようなスーツ服を身に纏うパーシヴァルは、足元がおぼつかない俺の肩を持って支えてくれた。
『すまないパーシヴァ――いや、ヴァルキリー先生』
『緊張してるのか?』
『……そうかもな』
俺の不調の大部分はそれだろうな。でもやはり、思い出してしまう。学校に通っていじめられていた時のことを、そしてあの事件のことも――
――ってあれ? よくよく考えたら、俺ってなんで教師になったんだ? 学校にトラウマな思い出しかないのによくなろうと思ったな。なんで?
――あぁ、そうだった。マーリンにうまいこと丸め込まれたんだった。
それ以外でもそれ以下でもない。俺は……完全にハメられた。
はぁ……まあでも仕方ないか。マーリンにあんな目をされてはやるしかない。学校及び教師嫌いの俺がここまで思わされるほどだ。きっと俺じゃない他の奴でも、気づいたら教鞭に立っていたに違いない。あれはそういう魅惑的な眼だった。
『あ、そうだ。ルカちゃんの方はどうだ?』
『ああバッチリだ。主人が来るのを楽しみに待ってるぞ』
『おお、そうか』
俺は何度も何度も確認した身だしなみをチェックする。
はぁ……。
落ち着かない。身体が震える。心も震える。逃げ出したい。
この学校は俺が通っていた学校とは内装は全く違うし、ここにいる生徒も俺を知る者はいないだろう。
――しかし、やはりどこか萎縮してしまう。
思い出す――トラウマを。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
『――人。主人!』
『はっ』
『おい、本当に大丈夫か?』
『あ、あぁ……』
どうやら俺は立ったまま数秒間だけ意識を失っていたようだ。そんな俺をパーシヴァルが起こしてくれた。
『すまない』
なんて情けない。生徒を導く俺がこんな不安定でどうする? ――なんて自責してもしょうがない。まずは目の前にある課題をこなすことだけを考えろ。
『すぅぅ……はぁぁ……』
俺は自身を落ち着かせるのに1番効果的である深呼吸をした。
そうだ、落ち着け俺。大丈夫だ。何も恐れることはない。
ここには俺を殴ってくる奴も蹴ってくる奴も見下してくる奴もいない。
それどころか、仲間がいる。
『よし』
震える心を落ち着かせた俺はまっすぐとパーシヴァルの目を見つめる。
『パーシヴァル、心配かけてすまない。もう大丈夫だ』
そう言った俺を見たパーシヴァルは安堵した表情でこう言葉をかけた。
『そうか、それは良かった。まあでも無理はするなよ』
『もちろんだ』
『――うん、それじゃあ行くか、ディーン先生』
『ああ、ヴァルキリー先生』
俺の後を追うように歩むパーシヴァルと、共に教室を目指して一歩一歩進んでいく。
その一歩は、これまでのどの一歩よりも重い。風邪でも引いたのかと錯覚するほどの体調不良。心の不調。
それを背負いながら、俺達は教室の扉の前まで来た。
扉の向こうには、騒がしい生徒の声が響いている。
『新しい担任誰だろうなー?』
『イケメンだったらいいね〜』
『副担任すげえ美女らしいぞ!』
『まじかよ!』
『いや〜楽しみだわ〜』
『やべえ、俺心臓がバクバクだわ』
『俺も俺も』
『緊張する〜!』
『ホント優しい先生だといいけどね〜』
『ああ〜ソワソワが止まらねえ!!』
と、そんな様々な声がはっきりと俺の耳に入ってくる。
俺達が受け持つクラスは中等部1年ブラック組。人数は30人で男女比は4︰6で女子の方が若干多い。前の担任・副担任が居たようだが、2人揃って産休に入ってしまった為、その穴埋めを俺とパーシヴァルでやる形となっている。
まだ俺は生徒の顔も知らない。どんな奴らでどんな人間関係なのかも把握しておかないとな。俺みたいにいじめられてる奴がいるなら助けないと。
俺はパーシヴァルの方を向いて、お互いに頷き合うと、俺は扉のつまみに手をつけ――。
ガラガラガラ。
『皆さん、おはようございます!』
俺は元気よくはっきりと教室の隅から隅まで届くように挨拶をする。
数秒前まで騒がしかった生徒達は教師が扉を開けた瞬間には私語を慎み、静かに着席をしていた。中等部1年……即ち12、3歳の年代にしてはきちんとしてるというか、しっかりルールを理解しているようだった。
『えー、今日からこのクラスの担任となりました、オーガスト・ディーンです。宜しくお願い致します』
ピカピカの黒板にチョークでカツカツと音を鳴らす。
オーガスト・ディーンという名前はどう考えても外国の名前だが、俺はあえてカタカナで名前を書いた。英語だと生徒達が覚えにくいからな。
べ、別に英語が苦手だから書けないわけじゃないんだからね!
『私はパーシヴァ……パーシー・ヴァルキリーだ。副担任だ。よろしく頼むぞ』
パーシヴァルも実は緊張していたのか、間違えて本名を言いそうになったが、マーリンが用意した別の名前を言い直した。端から見ても、ただ緊張して噛んだだけのように見えたのでセーフだろう。
男子生徒からの全視線がパーシヴァルに注がれた。顔を見ている者もいれば、胸や太ももをガン見してる者もいた。俺なんかパーシヴァルのスカートの中身さえよく見てしまうから気持ちは分かる。パーシヴァルの無防備さは異常だからな。恥じらいも一切無いし……。
だが、そんなんじゃ男子生徒が変に欲情する可能性があるからと、研修時にさすがに指導が入ったらしい。
せめて生徒の前では無防備にならないようにと教え込まれたので、少なくとも学校ではその心配は無さそうだ。
俺は生徒全員を見渡してみる。
当然だが、知った顔はいないようだ。
1人を除いて。
後ろの方を見ると、可愛らしい制服を纏ったルカちゃんが居た。
実は彼女は、元の世界に帰れない……いや帰りたくないようで、この世界で暮らすことになったのだが、ルカちゃんの年齢では働いて独り立ちすることは法律上できないので、ルカちゃんがこの学院に転入することを条件に学院長が衣食住を保障するということになった。ちなみにルカちゃんの転入手続きは1週間くらい前に既に終わっていて、このクラスに入ってから数日経っている状態だ。
そこで気になるのが、もう1人のルカちゃんや、ただの人形でありながら精霊でもあるカレンちゃんだが、まずカレンちゃんは常にどちらかのルカちゃんの影に隠れて見守っているそうだ。
どういうことかいまいちピンとこないが、とにかく姿を見られる心配はないということは確かだ。
もう1人のルカちゃんは別のクラスで、“橋本ルカ”ではなく、“ルカ・ヴァルキリー”という他の学校から来た1人の女子生徒として転入したらしい。
つまり、もう1人のルカちゃんはパーシヴァルの妹という扱いで、学校に通うただの女の子となったのだ。
え? 2人のルカちゃんを1人にするのは諦めたのかって? まあ、そうだな。少なくとも今の段階では2人を1人にする方法はない。俺が使える6属性以外の魔法でもどうすることもできなかった。
1万年後の魔王やマーリン、あるいは神様ならワンチャン何か知ってるかもしれないが、それにはまず1万年まで生きる方法を見つけないと……。
『――では出席を取ります』
といってもほぼ席は埋まってるから取るまでもない……と思ったら、3つほど席が空いていた。
このクラスにある席は30個、クラスの人数と同じだ。全員来てるのなら席が全て埋まっていないとおかしい。
休みの連絡も来ていないし、遅刻する生徒がいるという報告も無かった。
ということは無断欠席か無断遅刻ということか。
印象が悪いように見えてしまうが、何か事情があるのかもしれない。たとえば携帯が壊れて連絡できなくなったとか、事件に巻き込まれてそれどころではないとか。
ルールを守ってないからすぐ怒るのではなく、まず本人に事情を説明してもらうことが重要だ。それから俺がどう言うのかを決めればいい。そんな甘い教育では〜とか文句垂れる奴もいるだろうが、そんなの関係ない。俺は俺の教育論を掲げるだけだ。
『――以上で出欠確認は終了です。まだ来てない3人はまだ連絡はありませんが、誰か心当たりがある人はいませんか?』
俺が生徒達にそう質問すると、金髪のギャル風貌の女子生徒……前島志保が真っ先に親切に答えてくれた。
『あー先生、その3人の内、金と銅はいつもの遅刻で、銀は不登校だよー』
金と銅、そして銀とはそれぞれの女子生徒のあだ名のようだ。
金は白鳥黄金。
銀は白鳥銀河。
銅は白鳥銅。
苗字が同じなのは偶然ではなく、この3人はれっきとした3つ子なのだ。3姉妹といい、名前といい、どこぞの超絶美少女3姉妹を思い浮かべる。そして3人揃って遅刻か不登校を繰り返している。なんとも闇が深いが、俺はこの時代でも3姉妹に振り回されるのか……。
『え、そうなのか?』
『うんー、銀はともかく、金と銅は超絶不真面目だしー』
『そ、そうなんだ』
そういう君も敬語使わないあたり、だいぶ不真面目だと思うけどね。まだ不慣れな俺達に気を遣って親しもうとしてるのかもしれないけど。
『ていうか先生達、なんか若くないー? 高等部の生徒だって言われたら違和感ないし、それに名前的に外国人みたいだけど、どう見ても日本人っぽいよねー』
前島志保は答えたついでに、勝手に話題を変えてきて、攻め込んだ質問をしてきた。
不真面目に見える前島だが、なかなか鋭い観察眼を持っているようだ。
『いやいや、先生こう見えてな……317歳なんだ』
俺がそう答えると途端に、まるで時が止まった世界に来てしまったかのように教室は静寂に支配された。
あぁ――つまり俺は今――滑ったのか。
生徒達からすれば冗談を言ったように聞こえたかもしれないが、本当に317歳だ。あの空白の空間に歳を取らないまま300年も閉じ込められ、1年ほど俺以外の全ての時が止まった。肉体的には17歳だが、少なくとも俺は300年以上の時を過ごしている。だから言ったことは全て本当の事なのだが、信じてもらえるわけないか。だからこうして“冗談が滑っている空気“ができあがっているわけだし。
『あぁ、すまない冗談だ。戸惑わせてしまって申し訳ない』
『え、あー』
生徒達もリアクションできない事を申し訳なく思っているのか、気まずそうな様子だ。
大丈夫かな、俺の教員生活。なんだか幸先が良くない気がするぞう。
第325話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




