第324話『ダストVS皇帝陛下③』
すみません。更新1日遅れました。
お待たせしました。
第324話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
今、魔王は何と言った?
“あの力”を解放しろと、そう言ったのか?
魔王の言うあの力とは壊れた歯車の事を指している。
軽々と力を解放しろとか言うんじゃないというのが俺の反論だが、魔王からしたら“それ”を使わずして何が全力だ、ふざけるなと言いたいのだろう。
決闘の作法は知らないが、確かに全力と言いながら力を隠しているのは、決闘を申し込んできた相手に失礼なのかもしれない。それで咎められるのは分からなくはないが、この力の解放はどうしてもできない。
そりゃ“それ”を使えば、この魔王にも勝てる可能性はある。命を狙ってきた以上はこちらも相手の命を奪うくらいの事をするべきなのかもしれない。だが――。
『バカ言うな、あれはそうやすやすと使っていいものじゃない』
『む、なぜだ?』
魔王は不思議そうな顔をしながら、疑問を呈した。
『あれには代償が大きいんだ』
『ほう、それはどんな代償だ?』
魔王は壊れた歯車に興味津々なのか、質の悪い研究者のように不敵な笑みをしながら質問してくる。
『ああ、全部話してやるよ』
俺は魔王に壊れた歯車がいかに危険なものであるかを熱弁した。
まず発動中は理性が失くなること、もしかしたら近くにいる者にも味方敵問わず攻撃してしまうかもしれないこと。
効果が切れた後、あんなにいっぱいあった魔力がごっそり持っていかれ、そのまま倒れて、俺のように10日間眠るようになってしまうこと。
それ以外は今のところ症状は見られないが、今後全く後遺症が出ないという保証はない。
そういう不安も含めて全てを魔王に話した。というか俺が壊れた歯車について最初に聞いたのは、魔王なんだよな。その立場が逆転するなんて、あの頃の俺には到底想像できなかったろうな。
『なるほどな。つまり、もしそれを解放すれば貴様もこの近くにいる国民達もただでは済まない。とんでもない災害を引き起こすから解放はできないと』
魔王は自分なりの解釈を話す。決して間違ってはいないが、それは前提として目の前に“憎むべきあるいは倒すべき敵”がいなければ効果を発揮しない。
今、目の前にいる魔王がもし俺にとって全く知らない人間だったり、仇を取りたい相手であるなら間違いなく倒すべき敵なのだが、俺からしたら魔王は仲間だ。間違っても殺したいほど憎んでいるわけでも、倒したい相手でもない。
むしろ、この魔王をどうにかして1万年も生かさなければ、俺を召喚した魔王城の存在が無かったことになり、下手をすればブロンズ様や赤髪達と二度と会えなくなる可能性すらある。
だから俺はこの喧嘩は、どちらにせよ全力は出せない。
『ああ概ねそんなところだ。何の罪もない他の人達を巻き込むわけにはいかないからな』
『……確認するが、それは本心で言っているのだな?』
『ああ、そうだ』
魔王は俺の目を真剣な眼差しで見つめる。まるで何かを見極めるように。
『――うむ、ならばよし! 我の名にかけて貴様の処刑を撤廃することにする!』
『……は? 処刑を撤廃? え、どういうことだ?』
まあ処刑って単語が出てきた時点で、魔王の当初の目的は災害を引き起こす可能性がある俺を始末することなのは察したが、それを魔王はなぜ止めた? まあ俺の処刑が無くなるのならそれに越したことはないが。
『貴様は今、私に殺されそうになった。しかしそれでも尚、貴様は周りに危害を加えるからと“危険な力”を使わなかった。自分よりも周りの事を考えられる善良な心を持ち合わせている素晴らしい人間だ! 貴様……いやオーガスト・ディーンはまさしく英雄と呼べる者だ! そんな人格者を処刑するなど、国に泥を塗るようなものだ! そうだろう?』
何を言うのかと思えば、なんかめちゃくちゃ褒められたのだが……要するにその“危険な力”を私利私欲の為に使わなかったから、危険人物ではないと、そう言いたいのかな?
『うん、まあ――というか、そもそも俺を処刑ってどういうことだ? 訳が分からないぞ』
『そ、そうか、うむ、では1から説明してやろう。実はな――』
説明をめんどくさがる未来の魔王とは思えない程に現在の魔王は自分自身のことから国の事情まで口にできる範囲で話してくれた。
虹皇帝陛下あるいはマーブルと呼ばれている魔王は、数少ない前世界の記憶の保持者だ。その魔王の父親のような存在の男がこの世界の開発者であり、神のような存在である。しかし、その神は現在行方不明になっており、代わりに魔王が皇帝陛下として、この国を動かしていたのだという。
最近この国の議会で挙がったのが、精霊襲撃事件。俺達が親精霊と呼んでいたルカちゃんの両親と戦っていた時の話だ。親精霊がこの世界にやってきた瞬間を多数の国民に目撃されて話題となり、ハエか何かに超小型カメラを取り付けて、映像化したその様子を見ていたらしい。
精霊を倒して英雄扱いされているとはいえ、あの壊れた歯車を発動している俺を見て、危険人物と判断し、魔王自らが俺を処刑しようとして、今に至るそうだ。
その話の内容はあまりにも現実で、捏造にしてはあまりにも凝っているので、おそらく嘘ではないと思った。そもそも嘘だったら、俺をその王宮に入れてくれと言われてしまえば、簡単に嘘がバレるだろう。実際にそれを魔王に言ってみると、『ああいいぞ、今すぐでもいい。存分にもてなしてやる』と何の迷いもなく言ってきた。周りに人がいないのも偶然ではなく、国から病院側に事情を伝えていたからなのだろう。間違いなくここは戦場になるからこの場所には近づくなと――。
そんなことが出来るのは、この国のトップである皇帝陛下クラスの人間だけだ。それを実現させた魔王は本物の皇帝陛下その人だ。
厨二病とかそういう設定とか思っちゃってごめんね。
というか本当の皇帝陛下なのに乱暴言葉遣いで話したり、疑っちゃってごめんね。
『――以上だ。話は理解したか?』
『――ああ、大体はな。ただ政治の事はよく分からないし、興味も無いがな。――だが、お前がすげえ大変だったことは分かったよ』
『――そうだな。本当に』
魔王も今までの仕事を振り返っているのか、空を見ながら自分を労った。
『大変だったよ、私は……あのクソ親父のせいで』
魔王は最後に、どこかへ消えた神のような父親へ届くこともない暴言を吐いてから、俺に『また会おう』と言わんばかりに手を振り上げながら、この場を去った。俺の処刑場になるはずの静かで広いこの道を――。
――俺は何事も無かったかのように、何もない道を走り出した。
そして数日後、俺は何事もなく退院し、改めて私立東都魔法学院の研修を受けて、無事合格した。
第324話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




