第322話『ダストVS皇帝陛下①』
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厳かな、毅然とした気高さを現している宮廷服を纏ったその少女は、まるで友達を野球に誘うような感覚で俺と戦うことを望んでいる。
いや、確かに魔王は頭のおかしい奴だけど、突拍子も無く戦いに挑むタイプではなかった。少なくとも未来の魔王はな。
ていうか、バトルジャンキーな性格はパーシヴァルで間に合ってるんだよ! いい加減にしろ!
『ちょっと待て! こんなところで戦う気か!』
ここは戦場ではない、病院だ。確かに今俺達がいる場所はランニング用のリハビリするための場所でかなり広く作られているし、幸いここには俺と魔王だけしかいないし、軽く喧嘩をするだけなら問題はないかもしれないが、先ほどこの女は俺に光魔法を放ちやがった。
つまり、奴はただ殴り合いをしたいのではなく、魔法を用いた大規模な殺し合いをしたいということだ。初っ端から光魔法で心臓を狙ってきた時点でそれを証明している。
『案ずるな、もう人払いは済ませてあるし、私としても国民を巻き込むような愚かな行為はせぬ』
つまり、存分に戦っても大丈夫な舞台を用意したから、さっさと私と戦いやがれってことか。
『だとしても、なぜ俺がアンタと戦わなきゃならない』
『貴様が退屈だと言ったのだろう? だから私が相手してやると言ったんだ』
いや、確かに言ったけど! だからって喧嘩しようぜなんて言うのは、ただの不良か狂人だぞ?
『だからって急に光魔法撃ってくる奴がどこにいる!』
『ここにいるが?』
魔王は先ほど私がそれをやったじゃないか、と当然のように自分自身に指を指した。
『ここにいるが? じゃねえ! 非常識だ馬鹿野郎!』
俺は未来の魔王を相手にしてるつもりで、思わず声を荒げてしまった。
『貴様、私は仮にもこの国の皇帝だぞ? その私に向かって馬鹿野郎だと?』
俺が馬鹿野郎なんて誹謗中傷を言ったばかりに魔王は眉間にしわを寄せて、不快を顕にした。
『はっ? 皇帝?』
こいつは今、自らを皇帝と言ったのか? 確かに重苦しそうな宮廷服を着ているし、口調もそれっぽい。でもそれはコスプレでも再現は可能だ。この世界にもアニメやコスプレの文化は存在する。
それに、こいつが仮に本当に皇帝なら護衛の1人や2人ついているはずだが、こいつ1人だけだ。
となると、やはりこいつは皇帝ではなく、そういう設定として演じているだけだ。
つまり、こいつは――厨二病だ!
そうかそうか、魔王も昔はそんな病気を患っていたんだな。俺と同じだ。
気持ちは理解できる。しかし、それは一刻も早く治した方がいい。長ければ長いほど、深ければ深いほど、治った後に大きな古傷ができてしまう。その古傷は時が経っても、時々疼き、その度に穴に入りたい気分に陥ってしまう。
自分を皇帝陛下といってコスプレまでしてるのは、もう重症としか言いようがない。
あぁ、黒歴史確定だわ……これ。
哀れんだ俺は魔王の肩にポンと手を置く。
『おい何の真似だ』
困惑気味に魔王はそう言った。
『いや、ただこれからも強く生きてほしくてな』
『何を言っている? 私は元々強いぞ?』
まあ強さに関しては確かにその通りだ。俺は当然のように使えるが、6属性の内の珍しい2属性の内の光魔法を持っている上に、さっきの攻撃も、とてつもなく大きな魔力を込めた魔法だった。
だが、それとこれとは話は別だ。
皇帝だか何だか知らねえが、立ち向かってくるのなら叩きのめす。
『はぁ、もういい。戦えばいいんだろ戦えば』
『そうだ、それでいい』
俺と魔王はお互いに戦う姿勢に入る。
『これで仮に私に傷を負わせたり、殺したりしても貴様に罪はない。秘書にはそのように言ってあるからな』
『そうかよ』
そこまで設定を貫いているようだが、そんなのどうでもいい。
――数秒間どこからか風が吹いた。まるで俺達の戦いを待っていたかのように、試合を開始する合図を出す役目を果たしに来たかのように。
『行くぞ――なっ!?』
試合が始まって早々、魔王は目にも止まらぬ速さで、目の前まで来て、顔面に拳を打ち込もうとしていた。そこまでの動作がまるで見えなかった。
決してフライングをしたわけではない。決して6属性以外の魔法を使ったわけではない。
ただ速いだけ。
それは人間の身体能力をとうに超えている。いや、それどころかモンスターすら超えているのかもしれない。
『遅い』
6属性以外の魔法を使っていいのなら、俺はこの攻撃を簡単に防ぐどころか、反撃することも可能だ。
しかし、マーリンとの約束……即ち、自分達が過ごした未来へ帰るためには、6属性以外の魔法を使うわけにはいかない。
その6属性の中で目の前の拳を防ぐのも回避するのも不可能だ。これはもう殴られるしかない。
――が、ただで殴られるわけにはいかない。
ここは、俺はあの魔法を放つ。
『フンッッッ!』
魔王の重い拳が俺の右頬にめり込ませる。とてもただの少女が出せるような威力ではないはずだが、特別魔法がかかっているというわけでも無い。
つまり、これは単に鍛えたということだろう。もちろん力だけじゃなくて、技能的な何かもあるのだろう。
これは痛いだけじゃ済まない。衝撃だけで顔面の骨が全部砕けそうだ。だが、それでもまだ意識は残ってる。あとは手筈通りに――。
『がはっ!』
右頬から殴られたことで、俺は左側に倒れ込んだ。
起き上がることくらいはできるが、それだとまたすぐに超速攻撃される可能性もある。だからあえて倒れたままで魔王が俺の近くに来るのを待つ。来ずにそこから光魔法でも放たれれば終わりだが。
『どうした、それで終わりか?』
俺の望み通り、魔王は倒れた俺の元まで歩き、しゃがみ込んで、俺の様子を伺う。
これは完全に俺を舐めている。もし俺を強敵と判断し、警戒しているのなら、たとえ倒れてそのまま動かなかったとしても、反撃する可能性を考慮するはず。
しかし、この魔王は警戒しないどころか、俺と目線を合わせるようにしゃがんで、口元も緩んでいる。
見下しているとはまさにこのことだ。確かに一発殴られただけでこの様では、そう思うのも無理もないが。
だが、それこそが俺の狙いだ。
魔王が油断している今がチャンスだ!
『油断したな!』
俺は魔王に殴られる直前、こっそりと魔法を放つ準備をしていた。
その魔法とは氷魔法だ。
氷魔法で魔王の足を凍らせて、身動きを取らせないようにする。そうすれば魔王の俊敏な動きを封じることができる。それから俺は遠くから攻撃し続ければ奴に勝つことができる。
――そう思っていたのだが。
『なっ!?』
俺が氷魔法を発動する寸前、魔王はいつの間にか掌から大きな火の玉を浮かべていた。
これでは氷魔法を発動しても、俺の理想通りになる前に炎に溶かされてしまう。
魔王が咄嗟に用意したにしては早すぎる。なぜなら俺はまだ氷魔法を発動してすらいない。そんな時に既に炎魔法を発動しているなんて、まるで俺が氷魔法を撃つのを分かっていたかのようだ。
一体どういうことだ? まさかこいつ、ブロンズ様と同じように心が読めるのか?
『どうした? 何が油断したのだ?』
お前の策など最初から分かっていると言われているようだ。
『くっ……!』
参ったな。魔王にどうやって勝てば――。
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