第321話『虹色の光は唐突にやってくる』
遅くなってしまい申し訳ございませんでした。
第321話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
――俺が目を覚ます数分前。つまり、まだ夢の中にいる時の事だ。
よく変な映像を見る俺にとっては、継ぎ接ぎだらけの混沌を見るなんて珍しくもないんだが、今回のは別次元でおかしい体験だった。
まず、その世界の中で俺は女の子になっていた。しかも結構美少女で胸もそれなりに大きい。
で、そんな美少女は何をしていたかと言うと、なんと世界から恐れられている魔王として君臨していた。
ただ、魔王だからといって別に悪いことをしていたわけではなく、ある目的のために俺は頼もしい部下と共に、とある勢力に戦いを挑みに来ていた。
その勢力は……なんだっけな?
思い出せない。でも何らかの因縁を持っていたような気がする。
そもそも、なぜその勢力と争っているのかもよく分からない。
ただ……何か重大な理由があったと思うんだが、今はそれも忘却の彼方。
魔王は一体何者なのだろうか――――。
――なんて、そんな在りもしない幻想の話はもういい。
それよりも、俺が目を覚ました後に起きた出来事を整理しよう。
まず、瞼を開いて1番最初に見たのはあおいちゃんだ。
涙をこらえながらも、笑顔で俺の意識が戻るのを待っていてくれたようだ。まあ、そのあと結局、我慢できなくて、子供のように大泣きしてしまったがな。
後日、パーシヴァルや新井さん、マーリンにルカちゃん達やドール人形も来てくれて、俺の身体が前向きに回復していることを喜んでいた。
どうやら俺は10日間も眠っていたようで、その間みんなに心配をかけてしまった。
“壊れた歯車”を発動すると、ここまで長い間、意識を失ったままになるのか。
大きすぎる力故の代償ということか。
だが、逆に言えば、それだけだ。
それ以外には特に身体への副作用は無かった。
むしろ、重りを取った時のように身体が軽く、以前とは比べ物にならないほどの活力が湧いてくる。
体育の授業で好成績を残す自信がある。
どんなに恵まれた身体をしてる奴でも暴力で潰せるほどの力が備わっている(気がする)。
何なら、“クソ雑魚陰キャの俺がイキってる陽キャ共を無双してみた“というタイトルのラノベ小説も書けそうだ!
まあ、ラノベ小説の件はさすがに冗談だが、とにかくそれくらい意欲もあって、気分が良い。
以前までの俺だったら、毎日が月曜の朝のように気分最悪で体調ゴミは当たり前、体育の授業も体力がカスすぎて何もできない、それ以外の授業もボロクソでテストの結果も散々だった。
それは魔王城で召喚された後も変わらなかった、いや一生変わることは無いと思っていた。
『人生分からないものだよな』
まだリハビリ中の俺は敷地内の道路で走りながら、そう呟いた。
さっきも言った通り、体調は本当に良好なのだが、万が一の事を考えて、すぐに退院にはならなかった。
『早くて10日後か……退院できるのは……』
しかし最短で退院したとしても、まだ安心はできない。
研修の日々が濃すぎて、忘れていたが、俺はこの時代のマーリンの熱意に圧されて、私立東都魔法学院の教師になる約束をしてしまったのだ。
すごく面倒な話だが、だからといって反故にするわけにもいかないし、それにマーリンのあの表情を見たら、なんか放っておけない。
それにパーシヴァルの奴も、意外とやる気があるようで、他の全ての研修を終えて、教員の資格を得たようだ。
俺も退院次第、別の研修を行う予定を立てられた。
どんな内容か分からないが、あの森での災難に比べたら、ヌルすぎるくらいなようだ。
あの脳筋のパーシヴァルがクリアしたということは、頭を使う系の研修では無さそうだな。
となると、やはり体力を消耗する系なのだろうか。
パーシヴァルに研修内容を聞きたかったところだが、普通にルール違反なので聞けなかった。
こういう時、ブロンズ様の心を読む魔法が使えたら……あるいはブロンズ様が一緒に来ていれば――――。
“は? 私を使ってカンニングするの? だからお兄ちゃん雑魚とか言われるのよ? ホント可哀想なくらいクズで情けないお兄ちゃん、私の為に頑張らなかったら本気で縁を切るからね”
――なんて言われそう。
ブロンズ様は人に悪戯はするけど、一線を超えるような事はしないから、そういう風に言うのかもな。
そうだよな。ちゃんと自分の力で乗り越えなきゃな。
ありがとうブロンズ様(妄想だけど)。
俺は色んな思いを胸に今日もリハビリを行う。
俺の場合は、外を軽く走ったり、魔法をうまく使えるかをテストする。
ゲームの世界であっても、身体は現実そのものだ。だから当然、身体のどこかが動かなくなって車いす生活を送ることになったり、大怪我を負って手術することだってある。
この世界に病院が存在してるのはそういうことだ。
治癒魔法があれば、病気とか複雑な怪我とかでなければ回復に向かうのだが、やはりそれが無いと不便だな。
ちょっと怪我しても、魔力さえあればすぐに治せるから安心! と思っていた未来が恋しい。
そういう意味でも早く帰らなきゃな、未来に――。
『うーん、起きたばかりとはいえ少し退屈だな……ある程度強いモンスターと戦えないものかな』
まだ一応は患者扱いだからダメかな。まあ病院側も、俺の怪我は治ってるし、ほとんど大丈夫だろうと言ってたし、リハビリなのに、こうして1人だけで敷地内を走ってるわけだし。
放置するくらい大丈夫だと判断されているなら、もう入院の意味はない気がするが……。
『ま、仕方ねえか』
そう諦めて、何の意味もなく走るスピードを少し上げたその時――。
『ほう退屈か? ならば私が相手をしよう』
――音もなく、香もなく、その少女は俺のすぐ側に現れた。
『なっ……!?』
すぐに身構えようとしたが、その前に少女の掌から生えるように現れた光魔法の塊から3つの球状の光が俺を襲う。
『うわっ!』
光は殺意ある武器のように、確かに俺の心臓を狙って攻撃を仕掛けてきた。
『あぶねっ!』
身体の調子が良いおかげか、かすり傷すらつかずに綺麗に回避することができた。
俺は、こんな悪意ある不意打ちをしかけてくる質の悪い少女を敵と認識し、どんな顔をしてるんだと、首から上を見てみると、俺はその見知った顔に驚きを隠せなかった。
『お、お前は……!?』
そんなはずは……いやでもありえる話か、あいつなら。
『なんだ? 私の顔を見て、まるで見知った顔を見たような反応だな。だとしたら、それは勘違いだ。なぜなら私は貴様の事など知らんからな』
少女らしからぬ偉そうな口調で、俺とは知り合ってないとはっきりと否定した。
それは正解だ。確かに今のお前には俺と会った記憶なんて存在しない。それは間違いない。
――だが、俺からしたら、お前とは知り合いどころか同じ屋根の下で過ごしていた仲だ。今は全然雰囲気違うけど、あんなにテンション高くてふざけた奴は初めて見たよ。
なあ、魔王。
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