第315話『俺の精神世界の中で……③』
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第315話の執筆が完了しました。
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あおいちゃんことシアンは正義教団の国で生まれた。ネガティブな性格なのは元々あるもので、何か1つでも失敗すると自分を責め立て、自虐を繰り返す。そんな彼女だが、知性・身体能力・魔力においては才能があり、姉に似て容姿端麗でもあったので、好意・嫉妬の対象にもされることも多かった。
これは将来、お姉さんに続いて2人目の正義教団の可憐な騎士になれるのではと期待を与えられていた。
しかしその後、そうなる前に母親であるスカーレットが行方不明になったり、変な魔王に姉と一緒に連れてかれたりと色々あって、魔王城の幹部になったわけだが。
以上があおいちゃんについての情報。
ここからはあおいちゃんが抱えてる別の事情――
彼女の身体には壊れた歯車が埋め込まれていた。
壊れた歯車は通常、生まれつき所持するものだが、実はあおいちゃんの場合は最初からあったわけではない。外部から持ち込まれたのだ。
あおいちゃんが12歳の頃、彼女の中に何かが入ってきた。それは悪霊でもウイルスでもなく、人であった。正確に言うなら1人の人間の情報が詰め込まれた魂のようなもの。
その人間の名前は秋本夏美。何でもこの世界とは違う世界から来た異世界人らしい。どういうわけか魂のままあおいちゃんの中に入ったらしい。
その時はまだ異物が入っただけで、あおいちゃんの心身には何1つ変化は無かった。
しかし、俺が魔王城に召喚される少し前――あおいちゃんの人格に変化が訪れた。
心の一部になっていた秋本夏美が突如、あおいちゃんの身体と心を乗っ取って不可解な行動をするようになったのだ。それこそが俺を監視したり、何度も殺そうとした悪魔の正体だろう。
だが、乗っ取り自体は、頻度が低く、周りの誰にも見られないように細心の注意を払っていたので赤髪ちゃん達にもバレることは無かった。
あおいちゃん自身も違和感は覚えていたものの、ちょっと疲れてるのかもしれないと思う程度だったので、誰にも相談することなく、時が過ぎていったのであった。
あおいちゃんが本格的に気づいたのは火の国で母スカーレットに魔法をかけられた時だ。
そこからはあおいちゃん自身もあまり記憶に無いとのことだったので割愛するが、気がついたら300年も時が経ち、なぜか幽霊のような透明な存在となっていた。そこで同じく幽霊になっていた赤髪ちゃんとバレスさんと再会し、その後俺とも邂逅した。
自分の事も覚えていたので誰かに相談しようと思ったがタイミングが悪く、結局誰にも話さなかった。
そしてあおいちゃんが自身の人格を取り戻した時には魔王城は崩壊寸前。赤髪ちゃん達もゼウス達に蹂躙されかけていたが、アクタとなぜかルシウスが援軍に来てくれてどうにかなっているらしいが、その後どうなったかは1万年後まで分からない。
あおいちゃんも相当困惑していた。なぜ魔王城がこんな事になっているのか。なぜ赤髪ちゃん達が死にかけているのか。
あおいちゃんは赤髪ちゃん達を助けようと走り出したが、運悪くゼウスの流れ弾に当たってしまい、灰となってこの世を去った。
その後、魂だけとなったあおいちゃんはマーリンの魔法によって自分の精神世界に引っ張られ、これまでの事情を含めて話し合うことになった。
すると、あおいちゃんは俺とパーシヴァルがいる1万年前の過去へ助けに行くことになったのだ。それは結果的に赤髪ちゃん達を助けることになるとマーリンが話してくれたおかげで――
そして今に至るというわけだ。
『――以上です』
あおいちゃんは悔しそうになったり、泣きそうになりながらも、余すことなく全てを話してくれた。少し疑問があったので質問してみると、それも答えてくれた。
その質問とは、秋本夏美の魂はまだあおいちゃんの中にいるのか。それに対しての答えは“いいえ、もういなくなってます”とのことだった。もう用済みなのか、それとも何らかのアクシデントで離れてしまったのかは不明のままだが。
それと秋本夏美とは何者なのかもあおいちゃんに聞いてみたが、分からないそうだ。あくまで同じ身体に居ただけで会話したことは無いそうだ。
――ただ秋本という苗字……どこかで聞いたことがあるような……?
『すみません……こんなことくらいしか分からなくて……』
『いえいえ、十分ですよ。辛いのに最後まで話してくれてありがとうございました』
『そんな……私はただ……』
『あおいちゃん、マーリンにもう言われたかもしれませんが、一緒にこれからどうにかして1万年生きて赤髪ちゃん達を救いに行きましょう。そのためには俺だけじゃ色々キツイので、あおいちゃんの力を貸して下さい』
『私の力なんて……そんな微々たるもので』
『そんなことないです! そんなこと言ったら俺の方がよほど雑魚で――』
『いいえ! 私の方が雑魚です! スーパー雑魚です!』
『じゃあ俺はハイパー雑魚です!』
『それなら私はウルトラ雑魚です!』
『それなら俺は……えっと……アルティメット雑魚です! ……ブフッ』
『『ははははははははははははははははははは』』
またしても開催されるネガティブ大会が馬鹿馬鹿しくなって、俺達は笑った。
下らないことで笑うというのは何て気持ちが良くて、こうも心が暖かくなるのだろう。俺はここに確かな幸せを感じた。そして確信した。あおいちゃんは仲間だと。
『おかしいですね、私1度自虐すると止まらなくなるんですけど、今回はなぜか笑ってしまいました! なんででしょうね!』
あおいちゃんはそう言いながら、拭いても拭いてもキリがないほどの涙を拭い続けた。
『俺も同じです! なんでだろうな……』
――ふと考える。俺がもし、あおいちゃんとしっかり話し合っていれば、彼女の異変に気づけたのではないか。魔王城のみんなと協力していればあおいちゃんの苦しみも解けて、こうして離れ離れにはならなかったのではないか。
まあそんなこと考えてもしょうがないんだけどな。離れ離れにならなかったところで最終的に世界がゼウスによって破壊されるのなら、結局どこかでバラバラになってしまうのは必然だろう。
運命とは残酷だ。どんなに離れたくない大切な人がいても、無慈悲に引き離されてしまう。あるいはゴミみたいに殺されてしまう。
だから俺はその運命に抗う。こんなクソみたいな物語のゴミみたいなポジションを俺に与えた創造神を俺は許さない。お前の考えた通りに俺が動くと思うなよ。
俺はもういい加減イラついてんだ。
待ってろ、必ず1万年後まで生きて黒幕を見つけてぶん殴ってやるからな!
――そう意気込んだところで、この虚無空間にひびが入った。これは俺がようやく意識を取り戻すことを意味する。
『お、そろそろ目を覚ます時のようです』
そうなると、ここにいるあおいちゃんはどうなるんだ?
『行ってらっしゃいませ。私もすぐにそちらへ駆けつけますので、それまで少々お待ち下さいませ』
あおいちゃんは笑顔でそう言った。
『はい!』
駆けつけるということは肉体は再生してるのか。そうか“助けに来た“んだもんな。きっとパーシヴァルの時と同じように未来のマーリンがあおいちゃんを蘇らせたんだな。
ありがとな、マーリン。
『――では行ってきます。後で会いましょう』
『――――』
あおいちゃんが返事をする直前に、俺の精神世界は空気を読まない白い光によって何もかもを呑み込まれた。
そして俺が次に目にした光景は――。
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