第313話『俺の精神世界の中で……①』
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――ここはどこだ? いや、もう分かっているはずだ。
今現実にいる俺は壊れた歯車を発動していて、肉体の所有権を得体の知れない“何か”に乗っ取られている状態だ。つまり今、ダストという名の体力無し男の意識が在るところは俺の精神世界だ。
この時代に来る前に未来のマーリンが勝手に開いてた教室とは違って、ここには何もない。
逆にあるものを挙げる方が難しい。そもそも物がない。俺の視界にはグレーの煙が上へ舞うような背景しか目に映らない。
俺はその空間の真ん中で浮いているだけに過ぎない。
今の俺に出来ることはない。試しに魔法を使おうとしたのだが、まるで魔法がはじめから存在しなかったかのように何も発生せず、何一つとして変わったことが無かった。
ただ身体はどの部位も自由に動かせる。やろうと思えば浮いたままでも身体を横にすることも出来そうだ。
ちょっと身体を動かして、移動してみるか。
俺は手と足を交互に動かして進んでみた。
『んー、なるほどな』
手足を動かしてる感はあるのだが、周りの背景が全く変わらないので進んでるのか止まってるのか分からない。
まるで果てのない宇宙空間の中を彷徨っているようだ。
これはいくら移動しても無駄なやつだ。俺はそう思い、動くことをやめた。
しかし、やめたらやめたで何もすることが無く、現実ではとんでもない事態になっている中で本当に申し訳無いのだが、暇だ。
考えてもみてほしい。こんな何もない空間で魔法を放つこともできません、どんなに動いてもゴールが無いどころか、背景の一つも変わりません、肉体の主導権を俺に戻す方法も分かりません。そんな状況で何をしろと?
今の俺にはできることが何一つ無いのだ。だったら闇雲に動くよりかは、何か変化が起こるまでは、とりあえず大人しくしていた方がいいだろう。
しかし、それは決して諦めたということではない。今はまだその時では無いということだ。
大丈夫、必ずどこかで希望はある。今までどんな訳の分からない危機が訪れようと、なんだかんだ全部乗り越えてきたんだ。今回だってきっと――
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『あー……暇だわ』
かれこれ数時間 (体感)は何も無い。虚無すぎて頭がおかしくなりそうだ。
……これ前にも同じようなことがあったな。あの時は300年間もこのままだっけな。頭どころか身体全てが動かなくなって、何もかもがぐちゃぐちゃに――いや、やめとこう。これ以上考えると思い出してしまう……。
『はぁ……』
鬱な感情を吐き出すようにため息をついた。そのついでに深呼吸もした。これで少しは落ち着くだろう。
『ふぅ……』
………………さて、どうしよう? “あっちの俺”が寝落ちて、肉体の所有権が俺に戻るまで1人でしりとりでもやってようかね。
『よし、やるか……“しりとり”の“り”から始めよう』
りんご、ごりら、らっぱ、ぱんつ、つき、きちょう、うさぎ、ぎゅうにく、くりあ、アニメ、メンタル、ルールブック、クマ、マンガ、ガム、ムラサキ、キャラ、ライム、無双、海、味噌――
――それでしたら、少し私の話に付き合って頂けませんか?――
『頂けませんか――か、じゃあ次は“か”か……ってえ?』
『お久しぶりです。ダスト様』
『あなたは……!』
ぼっちの極みのような事をやっていた俺の目の前に突然、海のように美しい青い髪の美少女が現れた。――ああ、お前は誰かと問うまでもない。君は魔王城の幹部であり赤髪ちゃんの妹のあおいちゃんだ。格好も魔王城に居たときのままメイド服を纏っている。
あおいちゃんと会うのはずいぶん久しぶりな気がするが、はてさて最後にあおいちゃんと会ったのはいつだったか。
赤髪ちゃん、バレスさん、ケイデス、ヒナさん、そしてトウカちゃんが滞在していたあの街で、俺はあおいちゃん……いや悪魔か。決着をつけようとしたけど俺以外の全ての時間が止まって、どうしようもなく1人で街を去った。あの時以来か。
まさか、こんなタイミングでしかも俺の精神世界に現れるなんて微塵も思わなかった。俺は想定外の展開に驚きを隠――いや、これまでの傾向を考えるとありえるか。ダークネスやらマーリンやらブロンズ様やら色々な奴らが俺の夢の中に現れては好き勝手やりまくってたから、よくよく考えたら別に珍しいことじゃねえわ。
って、そもそも人の意識の中に現れる事自体おかしいんだけどな!
全く何なんだよ、何でそんな1人1人こんなところに集まってくるの? 俺の夢の中と精神世界はみんなの公園じゃねえんだぞ? 人のプライバシーを何だと思ってるんだ……。
『あおいちゃん……久々ですね。何でここに?』
『ダスト様が1万前の過去に行ったとマーリンさんという方からお聞きしまして……何か私でもお力になれないかと参上した次第でございます』
ん? ということは今ここにいるあおいちゃんは俺を助けるためにわざわざ1万年前に飛んで来たってことか? マーリンからは何も聞いてないが……。
それにあおいちゃん……いやシアンは――
『なるほど……分かりました。わざわざ助けに来てくれてありがとうございます、あおいちゃん――いや、アンタどっちだ?』
もし、最後に対面した時のようにあおいちゃんの姿をしたシアン(悪魔)の方なら、また俺を殺しに来た可能性がある。ここは現実ではないので身体に実害は出ないが、この精神世界で俺の意識がシアンに操られたり、封印されたりなんてことがあれば俺の身体は乗っ取られたも同然だ。
俺の質問に対し、あおいちゃんは意外にも穏やかな表情でこう答えた。
『私は、お姉様が大好きです。お姉様の強さ、可憐さ、優しさ――お姉様の全てが愛おしい。そのように思っています方の私です』
おお……確かにこの赤髪ちゃんへの愛を語っている感じは本物のあおいちゃんっぽいが、あおいちゃんのフリをしている可能性もある。悪魔があおいちゃんの身体を乗っ取った際にあおいちゃんの記憶や性格の情報を取得している可能性も無くはないからな。
『本当か?』
『本当です』
『本当に本当か?』
『ダスト様、私を信用して頂けないのですか……?』
あおいちゃんは目をうるうるさせながら上目遣いで見つめてきた。かわいい。
“疑ってしまってごめんなさい。俺はあおいちゃんを信頼します! ええ一生信用しますとも! だってあなたがかわいすぎるから!“
なんて言ってしまいそうな口を止めて、代わりに俺の正直な思いを伝えた。
『まあ、俺はあなたに……いや正確にはあなたの姿をした悪魔に1度殺されかけたんでね。信頼したくても信頼しきれないんだ』
『そうですか……いやそうですよね……私みたいなブスで得体の知れない女なんて信頼できないですよね……』
あおいちゃんは途端に表情が暗くなり、久々のネガティブモードを披露する。
『ん? あれ、あ、いや、その……』
『あはは……いいんですよ、こんな暗くて頭悪くて中途半端に乳が大きくて、スカートの下は地味な下着しか履かなくて、だからお姉様の下着を盗……参考にしてばかりで何も培ってない私なんて最初からいないほうが良かったんですよ……』
いや、もうどこから突っ込めばいいんだか……。
後半シリアスな悩みじゃなくて、ただの姉狂いのド変態じゃねえか……。
うん、じゃあ本物だわ。ここにいるあおいちゃんは悪魔じゃなくてちゃんとあおいちゃんだわ、間違いない。偽物にここまでクオリティの高いネガティブと変態を演じれるとは到底思えない。疑ってごめんなさいね。
――さて、本物だと分かったところで、あおいちゃんに何て言おうかね。
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