第305話『かつてただの人形だった精霊の話』
お待たせしました。
第305話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※今回も前回に引き続き重い話です。あえて表現は伏せてありますが、閲覧注意と言っておきます。
《人形視点》
売店に置いてあったただの売れ残り人形の私は、とある男に買われた。スーツにサングラスの大人。その風貌から見ても、機械のように表情1つ変えない顔から見ても、とても好き好んで人形を買っているようには見えない。誰かに命令されて仕方なく買っている。そういう風にしか見えなかった。
この時点での人形には意志は存在しない。文字通りただの人形だ。小さな子供を喜ばせる為の、大きな人に作られた人の形をした玩具なのだ。散々使ばれた挙げ句、ゴミとなって捨てられる。それが人形の末路なのだ。
もう会うことはない店員に別れを告げることなくプレゼント箱に入れられ、その中で上下に揺れながら光が差す時を待っていた。それから3時間ほど経つと次に私が目にしたのはルカという人間の少女だった。
私がまだ買われる前に売店に来た大抵の少女達は私と同じような人形を見て、欲しそうに目を星のように輝かせていた。私と同じ種類の人形はいっぱいあったので、その中で自分がお客様に選ばれる可能性は必然的に低かった。
故に特に不備のない人形が売れ残ったのは特別不人気だからではなく単なる偶然だろう。他の人形と私には差異はあまりない。あるとすれば色合いや髪型といったところだろう。そこは人の好み次第としか言いようがない。
売店に人形が最後の1つになった時、その男が現れて私を箱に入れたまま、ルカちゃんの元へ連れてきてくれたのだ。
私を買ったあの男と同じ機械のような表情をしていたルカちゃんは最後の人形を友達のように接してくれた。無表情であっても私に対する愛情を感じた。あの男とは違う暖かさが伝わった。
そうか。この娘はきっと優しくて愛に溢れた女の子なんだ。それが人形であれ何であれ優しく抱きしめてくれる。そんな娘なんだ。
人形の私に感情は無いはずなのだが、ルカちゃんに対するこの気持ちは何だろう? この時の私には知る由もなかった。
優しいルカちゃん。可愛いルカちゃん。私を1番に思ってくれるルカちゃん。そんな彼女が今も彼女の両親に――
痛い。痛い。痛い。やめて助けて。もう■■ないで。
そんなルカちゃんの悲しげな声が聞こえた。声と言ったが、実際に言葉は発していない。ただ彼女の心の中でそう言っていたような気がしただけだ。
毎日毎日、両親は彼女を■っては■■を繰り返した。イライラするから。余計なものを押し付けられたから。そんな理由だった。
また泣いている。彼女は1人で泣いている。
――それを金髪の人形はただ見ていた。口も眉も手も足も動かせない人形はただ無表情で■■されるルカちゃんを眺めていた。
ルカちゃんは表情にこそ出さないが、内心は酷く悲しんでいる。赤ん坊のように号泣している。
『………………』
ワタシハナニモデキナイ。
『………………』
ナイテイルルカチャンヲミテイラレナイ。
『……………………………………』
デモウゴケナイワタシナンカジャタスケヲヨビニイクコトモデキナイ。
彼女は……ルカちゃんはこんなにも悲しんでいるのに、こんなにも助けを求めているのに、誰も気が付かないんだ。
気づいているのは私だけ。カレンと名付けられた人形だけだ。
私は無力だ。私は何もできない。何もしてやれない。
ルカちゃんは私に精霊の力を与えることによって、“私”という人格が誕生した。カレンという人形の姿をした精霊へと変貌を遂げたのだ。この力があればあらゆる脅威からルカちゃんを守れる自信があった。
しかしルカちゃんは私に親への攻撃を禁じたのだ。
その理由はルカちゃんとルカちゃんの両親を見てすぐに分かった。
なるほど。そういうことか。
確かにこれでは手が出せない。ルカちゃんが両親を攻撃できないのも納得だ。今は様子を見るしかない。
しかし、このままルカちゃんが■■され続けるのは到底受け入れられない。
ルカちゃんの意志に逆らってでも私はルカちゃんを助けたい。ただの人形の私を友達のように接してくれたルカちゃんを幸せにしたい。
――この時カレンちゃんはある計画を立てた。
それは長期間、精霊の力をなんとかして貯めて貯めて貯め続けて、それを使って異世界への入口を作る。できるかどうかは分からない。そうしようと思ったきっかけは、たまたまテレビで深夜帯の異世界転生もののアニメというものを見たからだ。その主人公は酷い境遇に置かれていて、ある日突然道を歩いていたらトラックに跳ねられて死亡した。その後彼は異世界転生をして、可愛い女の子達と幸せな日々を過ごしたというものだった。
もちろんそれは2次元、非現実的の話だ。人の妄想を物語として書いているだけに過ぎない。だからこれは私の無謀すぎる理想。
――だがこの世界ではルカは決して救われない。もし彼女が自立できるような大人になっても、能力者というだけで常に監視され続けるのだろう。それがあの両親であろうと無かろうと、ルカちゃんが幸せになれないのは決定事項だ。
だからこそ私はルカちゃんの異世界転生に賭けることにした。もちろん事故死させるわけではなく、生きたまま異世界への切符を手に入れる。
ものすごく馬鹿げた話なのは私も当然理解している。いかに精霊の力で色々な事ができるとはいえ、異世界への入口を開けるなんてことが本当にできるのか。それは私自身も分からない。
――でもその異世界に行けばルカちゃんを助けてくれる者が現れるかもしれない。
そう思った私は早速行動に移した。一刻も早くルカちゃんを助けたいから。ルカちゃんが笑っていられる未来を作りたいから。
――そして試行錯誤を繰り返すこと1年……ついに異世界の入口を開けることに成功した。私はルカちゃんを催眠し、異世界へ連れ出すことができた。しかし、その後に事件が発生した。異世界の入口を開けた影響なのか空間が乱れ、ルカちゃんの心と身体は2つに別れて2人になってしまった。そしてその2人共、私から離れてしまい、私も力を使い果たし、そのまま動けなくなってしまった。
でも結果的にそれで良かった。なぜなら今のルカちゃんには自分を守ってくれる英雄がいたから――
第305話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめ……すみません、ちょっと暗かったですね……。
次の話はここまで重くはしない予定ですのでご安心下さい。
宜しくお願い致します。




