第301話『研修編⑫』
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――3日目の朝。研修最終日だ。といっても研修どころじゃない気がするが。
俺はベッドから出て、身支度を整えてから静寂に包まれたリビングに出る。
『ルカちゃんはまだ寝てるみたいだな』
現在の時刻は7時58分。平日なら慌てて通学または通勤する時間帯だが、休日ならばまだ寝ていてもおかしくない時間帯だ。
ルカちゃんも昨日は身体的にも精神的にも大変だったし、この時間まで寝てるのも無理はないだろう。まだ寝かせておこう。カレンちゃんも今のところは無事なようだしな。
――さて朝ごはんを用意しようか……と言いたいところだが、残念ながら俺には料理の才は皆無。俺にできることと言えば、せいぜいパンを焼いてバターかジャムを塗ることと、フリーズドライされた麺にお湯を注ぐことくらいだ。
まあそれくらいならやろうか。朝食までルカちゃんに甘えるのはなんだか気が引ける。
俺が今日の朝食に選んだものは――
① パン
② インスタントラーメン
③ パーシヴァルのパンツ
――いや、ちょっと待て。何でこんなところにパーシヴァルのパンツがあるんだよ。
俺は食在庫の中からパンかインスタントラーメンを取ろうとしたのだが、なぜか食材の上にパーシヴァルのパンツらしきものが乗っかっていた。
『はぁ……』
俺はパーシヴァルのパンツをひとまずポケットの中にしまった。こんなところルカちゃんに見られるわけにはいかないからな。後でパーシヴァルの部屋の荷物に入れておこう。今、パーシヴァルの部屋にはルカちゃんがいるので後にしておこう。
――じゃあ調理を始めようか。
それから10分が経つと、ルカちゃんが少し眠そうにあくびをしながら部屋から出てきた。
『ディーンさん、おはよう』
『おはようルカちゃん』
俺は既にトーストされたパンを机に置いていたところだ。あとは飲み物と適当におかず(冷凍食品的なやつ)を置けば完璧だ。
『朝ごはん作ってたんだね』
『あ、ああ。ルカちゃんみたいにうまくはできないけどね』
『それなら私のこと起こしてくれても良かったのに』
『そうしたかったけど、そういうわけにはいかないよ。ルカちゃんも色々あって疲れただろうし』
『私のこと気づかってくれたんだ、ディーンさんって優しいんだね』
『そんなことないよ、俺は俺のしたいようにしてるだけだからさ』
俺が優しい……か。
『勝手に作っちゃったけど、ルカちゃんってパン好き?』
『うん、好きだよ』
『それなら良かった、飲み物は何がいい?』
『何でもいいけど、牛乳ある?』
『あるよ』
俺は冷凍庫から牛乳を取り出し、それをコップに注いだ。
『ありがと』
ルカちゃんはそのコップを取り、机の上に置いた。
『よしそれじゃ食べようか』
俺とルカちゃんは椅子に座り、出来たばかりの朝食を口に運ぶ。
ルカちゃんも美味しいと言ってくれたので作ったかいがあったというものだ。
朝食を食べ終えると、ルカちゃんは率先して俺と一緒に皿を片付けをしたり、皿洗いをしてくれた。
なんて良い娘なんだと感心した。
片付けが終わると、俺達はすぐさま外に出る……カレンちゃんを迎えに行く準備をした。
ルカちゃんも心待ちにしていたであろう。ついにカレンちゃんと会えるのだ。冷静なルカちゃんであっても、なんだか落ち着かない様子だ。
――そして10分後。
『ディーンさん、準備できました』
ルカちゃんは昨日と同じ服装でやってきた。昨日はボロボロだった服だが、小屋で洗濯して綺麗になっている。
こうして見ると、今のルカちゃんはどこにでもいるような10歳の可愛らしい女の子という印象だ。そんな娘がこんなモンスターの出る危険な森にいるなんて信じがたいが、これが現実だ。
どんなに無垢な子供だって、少し道を踏み外せば危険な場所へ来てしまう。特に子供は好奇心旺盛だ。目を離すとすぐにどこかへ行ってしまう。教師になれば数十人という子供をちゃんと見ていなくてはならない。
俺もこの研修が終わったら、晴れて教師となる。覚悟を決めないとな……。
『よし、それじゃ行こうか』
俺達はモンスターが蔓延る外へと足を踏み出した。
すると早速――
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
昨日一昨日には見たことがない獣人系モンスターが奇声を上げながら、俺に襲いかかってきた。
鋭い5本の武器が俺の皮膚を抉ろうとする。
避けようにも、もし避けてしまえばルカちゃんが代わりに攻撃を受けてしまう。
かといってこのまま攻撃を受けてやるわけにはいかない。だから俺はいつ襲われてもいいようにこっそり左手で風魔法の発動準備をしていた。これでいつでも風魔法を放つことができる。
『これでも喰らえ!』
俺は風を纏った左手をモンスターに突き出すと、風は渦巻き状の形へと変貌し、竜巻ようにモンスターを巻き込んだ。
ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
モンスターは悲鳴を上げながら、竜巻によって遠くまで押し出され、最終的に背中が木に激突し、そのまま意識を失った。
『ふぅ、危ねえ危ねえ……』
もし俺が警戒して反撃の準備をしていなければ、俺は傷を負い、下手したらルカちゃんの身も危なかった。
やはり警戒はしておくものだ。改めて俺はそう思った。
『ルカちゃん大丈夫?』
『は、はい……』
そう返事したルカちゃんの顔は青ざめていた。
初めて見たモンスターに恐怖を感じたのだろう。たったいま彼女は自分の命が危機に晒されていた事を自覚した。
昨日はモンスターに遭遇しなかったため、モンスターに対する恐怖感そのものはあっても実感はなかった。だがそれを実感した彼女は震えていた。己の弱さを知った。戦場においての残酷さのほんの一部を見て戦慄した。
彼女が戦う事を命のやり取りを覚悟した兵隊ならばしっかりしろと発破をかけていたところだが、ルカちゃんはまだ10歳の子供だ。兵隊でも無ければ大人ですらない。何かの間違いでこの場所へ誘われた被害者だ。そんな彼女を誰が責めよう。もしそんなルカちゃんを責めるような奴がいるならば俺の元へ連れてこい。俺がそいつをぶん殴ってやる。
『はぁ……はぁ……う、うぅ……』
ルカちゃんはその場でへたり込む。身体の震えは止まらず、歩き出すのも時間がかかるだろう。
『ルカちゃん、もし怖いなら小屋に戻ってて良いんだよ?』
『……ううん、戻らない。私は……早くカレンちゃんに会いたい……いち早く私がカレンちゃんを抱いてあげたいから……!』
『ルカちゃん……』
今のルカちゃんにはたとえ自分の命が奪われそうになったとしても、絶対にカレンちゃんと会うという確固たる意志があった。ここで俺が危ないから小屋に戻ってなさいと説得しても聞かないだろう。というか俺がいなくても1人でカレンちゃんに会おうとするかもしれない。
そんな娘を放っておけるわけがないだろ。
『……分かった。ただし俺から絶対に離れないで。理由はもう分かるよね?』
『うん、もちろんだよディーンさん』
『よし、じゃあ行こう。カレンちゃんに会いに』
へたり込んだルカちゃんの足は強い意志を軸にして立ち上がった。
『うん!』
ルカちゃんの目には一切の迷いがない。ただまっすぐに森の中を見つめている。
もちろん恐怖心もあるのだろう。だがそれ以上にカレンちゃんを思う気持ちは強い。
少なくとも彼女が冷静な判断力で行動し、俺を見つけなければ、俺に助けを求めなければ、俺がカレンちゃんを探す事自体をしなかった。そうなればカレンちゃんはこの広い森の中でモンスターに襲われるのを待つしかなかったのだ。
ルカちゃんはとても強い娘だ。戦闘力が無くとも心は強い。彼女のその強さが俺を味方につけるというこの状況を作った。
俺にルカちゃんを守りながらカレンちゃんを見つけ出すという選択肢を取らせた結果がこれなのだ。
これを巧妙な戦略と言わず何と言う。もちろん彼女自身はそうは考えてはいないだろうが、俺はその術中に見事にはまってしまったのだ。
ルカちゃんのためにも、俺も……俺自身のためにもカレンちゃんを迎えに行きたい。ルカちゃんとカレンちゃんが一緒にいる未来をこの眼に焼き付けたいと思ったんだ。
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