???『いつもの/日常』
深く考えるな。
思考回路を回せば回すほど吸い込まれる。
それがたとえ嘘の世界でも……
――あれ? ここはどこだ?
って思ったがここは間違いなく魔王城だ。俺は今魔王城の食堂の椅子に座っている。
俺はさっきまで何をしていたのだろうか? そもそも俺はなぜここにいるのだろうか? それさえ思い出せない。
『……』
周りには誰もいない。厨房にも明かりはなく、物音1つない。
まるで閉店したレストランのような静けさだ。
『……』
このままここに居ても誰も来ない。なぜだか知らないがそう確信した。
このまま居ても退屈で仕方ないので食堂の外に出た。
廊下を見渡した。
しかし誰もいない。
音もしない。
何も動かない。
逆にこの魔王城で動いているのは俺だけ。
そうか思い出した。俺は取り残されたのか。この世界に。たった1人だけが。
この世界はもはや虚無だ。在るようで何もない。俺は生きているようで死んでいる。
誰もいなければそこには何も生まない。俺1人だけが生きててもこの世界には何の繁栄も許されない。
絶望には色々な種類がある。1つはもうじき死が確定してしまうこと。1つは敵によって自分以外の仲間が殺されてしまうこと。そしてもう1つはこの世界にただ1人……自分だけが取り残されてしまうこと。
この絶望の壁にぶつかるということは、ここで行き止まりということだ。迷路でいう外れた道。前へ進む事を阻むもの。決して壊せない壁。
俺は今まさにその壁を見上げている。
果てしなく大きい壁。見る者を圧倒する巨大怪獣のような巨大な壁。世界の果てのような旅の限界地点。
俺はそこにいるんだと。
この旅はもう終わりなんだと。
俺の物語はここで最終回を迎えたのだと。
――そう思っていた。
あれ?
2階から何か音が聞こえたので様子を見てみると、そこにはゴールドの部屋と書かれた部屋があった。
ゴールド……ゴールドちゃん?
ノックもせずに部屋の中に入ると、そこには満面の笑みでくるくると回るゴールドちゃんの姿があった。何をやっているのか理解できないがとにかく楽しそうだということは理解した。
俺はゴールドちゃんに話しかけてみたが返事がなく、回る事をやめる気配も無かった。
まるで動く人形のようだ。そこにゴールドちゃんの意志は無いのか。そう思っていると、ゴールドちゃんのスカートのひらりと翻って、下着が少し見えた。
その時俺は閃いた。
俺は、おもちゃのように回るだけのゴールドちゃんのスカートの端を摘み、めくり上げた。
スカートの中にあったのは、ブロンズちゃんのゴミを見るような嫌そうな顔がプリントされたキャラクターパンツだった。
『ちょっとお兄ちゃん! 何見てるの! この変態!』
スカートをめくられたゴールドちゃんの代わりに、パンツに描かれているブロンズちゃんの顔が喋った。
すると俺はゴールドちゃんの部屋からいつの間にかシルバーちゃんの部屋に移動していた。
今度はシルバーちゃんが目の前にいた。さっきのゴールドちゃんと違ってシルバーちゃんはちゃんと俺と対面している。
そして――
シルバーちゃんは頬を染めながら自らスカートをめくり上げた。
するとそこにあったのはまたしてもブロンズちゃんの顔が写されたパンツだった。
ゴールドちゃんのパンツは嫌そうな顔だったが、シルバーちゃんのパンツはニヤニヤと悪巧みをした時の顔だった。
『お兄ちゃんったら〜またパンツ見てる〜変態〜』
またしてもパンツに描かれたブロンズちゃんが喋った。
さっきは俺を非難したくせに今度は楽しそうにからかい始めた。
『ベロベロバー!』
なんとベロまで出してしょうもない煽りをし始めた。いや小学生か。
もう訳が分からない。
すると横から赤髪ちゃんとあおいちゃんが一緒にやってきて、またスカートをめくるのかと思ったら案の定スカートをめくった。どうせまたブロンズちゃんの顔がプリントされてんだろと思ったら、今度は普通に下着だった――と思ってよくよく見てみると水着だった――
『海だー!!!』
さて今度はどうしたことか、さっきまで魔王城にいたはずが、この世のどっかのプライベートビーチで俺は水着姿になっていた。
俺だけではない。俺以外の美少女達も水着姿となり、水をかけあったり、追いかけっこしたりして、それぞれがキャッキャウフフをしていた。
そんな中で俺はまるで保護者のような目線で彼女達を見ていた。
すると突然巨大なタコが現れた。
赤髪ちゃん達はそれぞれ戦闘態勢に入った。
これはもしかして……あの触手プレイが美少女達に……とピンク色の期待をしていたが、残念なことにタコは触手の一本すら満足に動かせずにあっさりと成敗されてしまった。
そのタコはあっという間にたこ焼きにされた。
――気がついたら周りからありとあらゆる食べ物の匂いが漂い始めた。
――常に鳴り響く笛の音。リズミカルに鳴る太鼓。踊れや踊れと羽目を外す人間達。
そうこれは――お祭りだ。
『お兄ちゃん』
浴衣姿のブロンズちゃんは俺の裾を掴んできた。既に綿あめを纏っていたであろう割り箸と一個だけ残ってるたこ焼きと透明な袋の中で泳ぎ続ける一匹の金魚を持っているが、まだまだ遊び足りないらしい。
もうちょっと遊んでいくかと俺は言う。
『うん!』
満面の笑みで喜んでくれた。そんな君の笑顔に俺は惹かれて――
惹かれて――
『ダストっち!』
惹かれて――
『ダストさん』
惹かれて――
『ダスト様』
惹かれて――
『ダスト様』
惹かれて――
『――』
俺は――
あれ? ここはどこだろう?
俺は結局何なんだろう……?
――この世界に違和感を覚えた瞬間から世界の全ては歪み始め、やがてデータを削除するように何もかもが消え去った。
…………。
………………。
……………………。
……そうか、これまでの何もかもが“嘘”だったんだ。
まあそうだよな。夢なんてそんなものだよな。
しかして夢で見た映像の素は果たしてどこで拾って来たのだろうか?




