第299話『研修編⑩』
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あれからカレンちゃんとパーシヴァルを捜索し続けてきたがその姿を見ることなく時間だけが過ぎていった……。
先ほどトランシーバーで新井さんから連絡が来たが残念ながら見つけられなかったようだ。
しかもほんの些細な手がかりすらもない。
だがそれも無理はない。このバカみたいに広い広い森の中で人を探すのは世界一大きい図書館でマイナーすぎる1つの本を探すくらい困難だ。どれくらい広いかは正確には分かっていないが、100人がこの森に住んでもほとんど誰とも鉢合わせすることがないレベルだろう。ホントマッッッジで広い。
ああクソ! なんで朝パーシヴァルに塗装魔法をつけ忘れてしまったんだ! あれがあればもうちょっと捜索が楽になったのに!
俺は心の中で自分を責めた。自分で自分をぶん殴りたいと思うレベルで苛ついているが、そうするとルカちゃんを動揺させてしまうかもしれない。
それはやめておこう。でも心の中ではいっぱいいっぱい殴っておこう。
『……もう夕方か』
葉と葉の合間から茜色の空が見える。
もうじき太陽は1日の役割を終え、月が夜という闇色の空を背負って代わりに役割を全うする。
辺りもそれに応じるように薄暗くなっていく。
自然の象徴とも言える木々もまるで魔物にでもなったかのような不気味な雰囲気を醸し出している。
早く小屋へ戻らなければ、この辺りでルカちゃんと野宿することになってしまう。
それは色々な意味でヤバいので、残念だが今日のところは引き上げて明日また捜索を再開するとしよう。
幸い俺の足跡には塗装魔法がついていたのでこの跡を辿っていけば迷わずに小屋まで行ける。
ルカちゃんには俺の靴にはすごいくっきり残るペンキをつけてたんだと説明しよう。
……でもその前に。
『ルカちゃん、もう暗くなりそうだから今日のところは引き上げよう。モンスターに襲われない小屋があるんだ。俺と一緒に泊まることになるけど、それ以外に選択肢はないんだ。部屋はちゃんと別々にするから一緒に小屋まで戻ろう?』
『……うん』
10歳くらいの子供なら駄々をこねそうなところをルカちゃんは、表情こそ暗いが受け入れてくれた。
ルカちゃんもこれ以上自分の都合でディーンさんを困らせちゃダメだと思っているのかもしれない。
多分だがそんな顔をしているんだと思う。
なんて大人な考え方なんだろう。本当の大人だってここまで冷静になれない人はいる。俺だってもし異世界に召喚されたばかりの頃にここに迷い込んでしまったら、まず取り乱して泣き叫んでしまうかもしれない。それからもう嫌だと駄々をこねて何かの拍子で壊れた歯車を発動させられてしまうかもしれない。
『カレンちゃん……』
ボソッとルカちゃんが泣きそうな声でそう呟いた。
俺に聞こえないように小さい声で発したつもりなんだろうが、俺の耳はしっかりと感知してしまった。
……くそ……俺は何をやってるんだ……。
俺達は言葉を交わさないまま小屋まで重い足を運んだ。
もしかしたらパーシヴァルも小屋に戻ってるかもしれない。しかもパーシヴァルが偶然にもカレンちゃんを見つけて保護してるのかもしれない。2人が小屋の中にいるのかもしれない。そんな期待を少しは持ってしまった。
――しかし理想というものは叶うことのない幻想だ。
小屋の中を見るがいい。カレンちゃんも居なければ、パーシヴァルも戻ってきていない。そこにあるのは数時間前に人が生活していた跡だけだ。
少しの期待だったはずなのに、それが無いと分かるとここまで落胆するとは……。
『だよなぁ……』
ため息をついた俺は電気を点けた。
ルカちゃん、ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し? なんてこんな時にそんなどこかで聞いたことがあるような事を思いついてしまったが、そんな気分でもないし、それどころでもない。
『ルカちゃん、そういえばまだご飯食べてないんじゃない?』
『あ、確かにまだ食べない』
ルカちゃんは思い出したかのようにお腹に手を当てた。
『何食べたい? と言っても食材があるだけで料理は作れないけど』
『そうなの? それなら私が作る』
『え、本当に?』
『うん、私、料理作れるから』
声色1つ変えずにそう言い切った。ルカちゃんは見栄を張るタイプでは無さそうだし、本当に作れるんだろうな。
まだ10歳なのにすごいな。
『それならお言葉に甘えて作ってもらおうかな』
『任せて』
ルカちゃんはそう言った後、慣れた手付きで淡々と調理を始めた。その姿はママのお手伝いをする子供ではなく、料理人としてのプライドを背負った猛者そのものだった。
10歳とは思えない貫禄に俺はますます打ちひしがれることに……。まあ頼もしいのは良い事なんだけどな。
よくよく考えたらルカちゃんよりも少し歳上であるブロンズ様三姉妹も料理上手なんだよな。それも店を作れるレベルでな。
この世界の少女はみんなハイスペックだなぁ……。
俺の方が歳上なのに何もできない俺が情けなくなる。
なんかそう考えると俺は世界で1番ダメなやつに見えてきた。ヤバいネガティブになりそう……。
俺はなんてダメなやつなんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
はぁ……なんかさっきからヤケに後ろ向きに物事を考えてしまうな。
どうしてしまったんだ俺……。
――しっかりしろ俺。
そんな姿をルカちゃんに見せたりしたら心配してしまうだろう。
ルカちゃんだって友達がずっと行方不明で気が気でないはずだ。にも関わらず冷静で居てくれるだけではなく俺の為に料理まで作ってくれてるんだ。
そんな娘に余計な負担をかけさせるべきではない。不安定なルカちゃんを守るのは他でもない俺の役目だろう。
そうだ。その為に俺は――
『調理中にごめんね、ルカちゃん。話しかけていい?』
俺がそう言うと、ルカちゃんは一旦手を止めて――
『いいけど、どうしたの?』
『ちょっとさ、ルカちゃんの事を知りたくて、良かったら話してくれない?』
ルカちゃんは表には出さないが精神はかなり不安定だ。イメージとしては常に嵐が吹き荒れている中で船が沈まないように抵抗してるような情景が浮かんでくる。船はルカちゃんの心そのものだ。嵐は意図的には止まない。カレンちゃんという天の女神様が現れない限りは。それならば航海士が船が沈まないようにちゃんと指示を出して時間を稼ぐしかない。
――ルカちゃんの心が壊れないようにするには、俺が少しでも長くルカちゃんの話し相手になることだ。これでも応急処置でしかないがやるしかないだろう。
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