第297話『研修編⑧』
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100万円……それは全人類が恋い焦がれるであろう1万円札が100枚もあるということ。
100万円……それは我々庶民なら分かるはず、手にしただけで金持ちになった気分になる幻想のようなもの。
100万円……それはゲームのガチャ回し放題という夢のような時間を手に入れられるということ。推しキャラゲットだぜ!
この時代での金銭事情はまだ従来の日本と全く同じだ。地球で100円で買えたものは異世界でも100円で買える。物の価格は基本的には変わってはいない。
ただその紙幣・金貨のデザインは再現不可能な為、全く別のものに変わっているようだ。
紙幣に歴史上の人物が写っているのは俺がいた日本でも同じだが、その人物を俺は全く知らない。勉強ができなかったから、知識がないからというわけではなく、俺の世界線ではその人物そのものが存在していないからだ。冬日濯岩って誰やねん。
まあそんなことは些細な問題だ。
それよりも100万か……そんな大金をゲットできる機会が来るなんて思っても見なかった。それが自分の物になると想像しただけで思わず口角が上がりそうだ。
――今の俺はどんな顔をしているのだろうか。金欲に溺れる悪い大人のようにさぞかし醜い顔をしているんだろうな。
『あの、報酬100万円なんて言っちゃっていいんですか? そんな勝手に決めてスーパーハイパーウルトラ超絶美少女マーリン様が怒りませんか?』
100万円の衝撃で動揺してるのか、思わずマーリンの事をフルネームで言ってしまった。俺は元々記憶力に自信が無いのだが1秒前の瞬間だけ、たまたま“スーパーハイパーウルトラ超絶美少女マーリン様”とはっきりと頭に浮かんでいた。
……心なしかマーリンがどこかでニヤニヤしている気がする。可愛いけどなんか腹が立ってきたな。
『ご心配は無用です。スーパーハイパーウルトラ超絶美少女マーリン様から状況に応じて研修内容を変えたり、特別報酬を与えてもいいと仰せつかっております』
『そ、そうですか』
なんだろう、今度は私すごい太っ腹でしょとドヤ顔を見せるマーリンの顔が浮かんできた。可愛いけどなんかイラつくな。
まあ、こんな危険な森に無力な子供が2人もいるなんて緊急事態以外の何者でもないからな。たとえ見ず知らずの子供だとしても金を出してでも助けたいと思うのは別に珍しい事でもないし、気持ちは分かる。
スペシャルミッションはあくまで緊急事態の早期解決を図る為に研修生にも協力してほしいから、特別報酬を与えるということなんだろう。
意味はかなり違うが指名手配犯を捕まえるようなものなのだろう。賞金が出るという点だけにおいては全く同義である。
『わ、分かりました。こちらも探せばいいんですね?』
『はい。そうして頂けると助かります。もちろんこちらも全力を保ってルカ様とカレン様の捜索をさせて頂きます』
『――オーガスト様、ご健闘をお祈り申し上げます。では失礼致します』
ここで通話は切れた。
今頃、新井さんは大慌てで捜索隊を派遣してる頃なんだろうが、今すぐに捜索隊が編成されるわけではない。それなりに準備する事もあるだろうしな。
それを待っている間にもカレンちゃんが危険な目に合うかもしれない。モンスターから逃げている最中かもしれない。
だからここは、すぐにでも俺が動かなきゃいけない時だ。
『ルカちゃんお待たせ。見張っててくれてありがとう』
俺が連絡してる間、ルカちゃんは律儀にも1秒も休まずに四方八方見張っていてくれたようだ。なんて真面目な娘なんだと感心を覚えた。もう誰かとは言わないけど、どっかの戦闘狂とはまるで違いすぎる……。
『うん、ディーンさんは誰と話してたの?』
『ちょっと知り合いにね、カレンちゃんを探してくれるようにお願いしてきたところなんだよ』
『そうだったんですね……ありがとうございます!』
ルカちゃんは礼儀正しく俺に頭を下げて感謝を伝えた。
『いいのいいの。――でも俺達も引き続きカレンちゃんを探そう。助けが来るとは言っても向こうも準備する時間もあってすぐにってわけじゃないからね』
『そ、そうですよね。私達も行動しないとですね』
『ルカちゃん今疲れてない? 大丈夫?』
『はい大丈夫です。今すぐにでも100メートル走ってもまだ走れるくらい大丈夫です』
まだまだ体力はあるということか。
ルカちゃんの表情や身体の動きを見る限り、嘘をついているようには見えない。顔色は悪いが、それはカレンちゃんの事を心配しているからだろう。
『お、元気だね。頼もしいよ』
褒められたのが嬉しかったのか照れくさそうにえへへと笑った。
その可愛らしい笑顔に俺は心がキュンとした。
俺達は一刻も早くカレンちゃんを見つける為に休むことはせずに立ち上がった。
――決して100万が欲しいからってわけじゃない。いや確かに欲しいけど、1番欲しいのはこの娘がこれからもカレンちゃんと笑って過ごせる日々そのものだ。俺はルカちゃんの悲しむ顔は見たくないんだ。
――最初は全然別だと思っていたが、やっぱり俺はどこかルカちゃんをあの三姉妹と重ね合わせてるところがある。俺は彼女達の泣き顔を見た。怒る顔も見た。俺はその度にまるでナイフに刺されてるみたいにグサッと心に深い傷を負った。
今も忘れるなと言われてるみたいにズキズキと定期的に痛む。
そんなのはもう嫌だ。後悔するのも嫌だ。もうこれ以上誰かを傷つけるのも嫌だ。エゴイストの俺でも彼女達に対してそういう感情を抱くようになったのはその時だった。
それと同じように俺はルカちゃんには泣いて欲しくない。笑って元気で居てほしい。そんな風に考えている自分がいる。
以前の俺なら考えられなかったな。まさか俺が見ず知らずの子供を助けるなんて……。少女を傷つけた俺が少女を助けるなんて……。
でもこれは贖罪からくるものではない。俺はただ目の前の女の子を助けたいだけだ。それは確信してる。理由なんて最初からいらなかったんだ。俺は自分の守りたいと思ったものを放っておけないだけなんだ――
『行こうルカちゃん! カレンちゃんを探しに――』
『うん!』
ルカちゃんは満面の笑みで元気な返事をしてくれた。その笑顔を見ただけで俺はどこまでも頑張れそうだ。
――あぁ、俺はやっぱり歳下には弱いなぁ……。
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