第293話『研修編④』
皆様
大変お待たせしました。
第293話の執筆が完了しました。
大幅に遅れてしまい申し訳ございませんでした。
パーシヴァルと剣を交えているモンスターは狼のような顔に猪のような体躯、要するに異質同体のような奇妙な生物だ。背中にはラクダよりも大きなコブが乗っかっていて、より不気味さが際立つ。
そのモンスターはナイフよりも長くて大きい牙を携えている。それをまるで武器のようにパーシヴァルの剣と打ち合いをしている。
強い。
昨日遭遇したモンスターとは格が違う。まるで異世界からやってきた領域外の怪物。昨日までこの森の頂点に立っていたであろうボスモンスターが赤子のように見えてしまう。
――しかしなぜだろう。あのモンスターを見ていると胸がざわつく。頭痛がする。お腹が痛くなる。まるで俺自身があのモンスターに怯えているようだ。
俺は多分知っている。あの怪物を……どこかで見た事があるような気がする。
だけど思い出せない。別に記憶を封印されているわけではない。単に喉まで出かかっているのだが頭に浮かばないだけだ。
『くっ……! やるなお前!』
パーシヴァルは強い敵と戦えて嬉しそうに剣の先をモンスターに向ける。
モンスターも挑発されたと思ったのか激昂してパーシヴァルに超速で突進する。
『うおっ!』
その速さはプロ野球選手の投球すら軽く超えている。人間如きではとてもその領域にたどり着く事はできないだろう。
並の冒険者ならその突進を受け止められず、何十メートル先まで平行に吹っ飛ばれていただろう。
だがパーシヴァルはさすがというべきか、そんな超スピード攻撃に臆することなく剣で受け止めている。
『お前なかなか足が速いようだが、どこに攻撃してくるか丸わかりだ。そんなんじゃ結局――』
パーシヴァルは受け止めた剣をそのまま力で押し返すとモンスターは僅かな時間だが空中に浮いた。
モンスターが無防備になっている間に、パーシヴァルは剣を水平に振ることで三日月型の斬撃を生み出し、それはモンスターの身体を綺麗に真っ二つにした。
『――相手にもならねえよ』
パーシヴァルは軽く戦いを終えると、まるで格ゲーの勝利が確定した時のように剣を肩に担ぐポーズを決めた。
か、かっけえ……。
戦闘狂の部分とパンツばかり見せられてすっかり忘れていたが、パーシヴァルも正義教団の幹部に匹敵する程の強者だ。あれだけのスピードを誇るモンスターだろうと、数分あれば倒せてしまう。
俺はそんなパーシヴァルに思わず見惚れてしまった。
『何見てるんだ?』
『いや何でもない』
『そうか、なら次のやつ倒しに行こう!』
パーシヴァルはまだまだ満足していないようで、近くにいるモンスターと戦いたくてしょうがないようだ。
そのモンスターはまだ何匹か生息している。しかもさっき倒したモンスターとほぼ同格あるいはそれ以上の強さだ。
さっきのモンスターはパーシヴァル1人でたった数分程度で倒したが、さすがに何十匹を一気に相手にするのはかなり辛いので、1、2匹ずつ倒していくのが理想だ。
『分かった。でもさっきのモンスターは1匹や2匹相手ならまだなんとかなるが、何十匹もやってきたら魔力を相当減らす事になる。昨日と今日のモンスターの情勢が変わっている以上、明日もどうなるか分からない。それに備えるために一気に何十匹も相手にするのは避けるんだ。いいな?』
『分かってる。さすがの私も全部相手にしようとかは考えない』
いやまあ、そもそも戦いたくないのだが、そうするとパーシヴァルが勝手に1人で全部のモンスターと戦うという超無茶苦茶な事をやるかもしれない。
そんなヤバイ奴を放っておくわけにもいかない。
きちんと見張っておかないと……あ、いやらしい事を考えてるわけじゃないよ。いやマジでそれどころじゃないんですよ……。
――“ボアウルフの肉”をゲットしました――
フレームの中にはそう記されてあった。
どうやらさっきの奇妙なモンスターの名前はボアウルフというらしい。ボアは猪、ウルフは狼だからボアウルフとは、なんの捻りもないただ合体させただけのネーミングだ。
『美味そうな肉だ……早く食べてみたいが、その前にお客さんだ』
そうこうしている内に、ボアウルフが新たに二匹やってきた。
仲間を助けに来たのか、既に亡骸になっているところを見て、かなり憤慨している様子だ。
そんなことを気にしてる間にもボアウルフは超速でこちらに突進してきたが、あらかじめ張っておいた俺の防壁魔法に守られた。ボアウルフがいくら力を込めて押してきても防壁が崩されないどころか、そこから1ミリたりとも押し返す事ができていない。
『あれは完全にやる気だな! ここは私1人で――』
『いや俺も戦うよ、さっきからパーシヴァルばかり戦ってるし』
『そうか? 私は一向に構わんが、主人がそう言うならそのようにしよう。だけどせめて1匹は私に寄越してくれ。さっきから身体がうずうずしてしょうがないんだ』
パーシヴァルは尿意を我慢してるみたいにもじもじとしながら、戦う事を強く希望している。
『うずうずって……あんなに戦っておいてまだ戦いたいのかよ』
『あぁ……戦いたい……どうしても!』
この戦闘中毒者は興奮して鼻息を荒くしながらそう言い切った。
ダメだこりゃ。
まあでも頼もしくはある。どんな敵が相手でも俺はパーシヴァルと一緒なら安心感が湧いてくる。
――負ける気がしない。
『よし分かった。じゃあ1人1匹にしよう』
『ありがとう主人!』
そう礼を言うとパーシヴァルは防壁を抜けてすぐさま片方のボアウルフを倒しに行った。まあさっきの戦いぶりを見る限り数分で倒してしまうだろうがな。
さて、じゃあ俺も――。
――しかしどうしたことかボアウルフをこの眼に映した時から体調が芳しくなく、重りをつけてるかのように身体がなんとも動きづらい。
とはいえ今の俺なら倒せない相手ではない。
俺はとりあえず雷魔法をボアウルフに放った。
しかしボアウルフは雷よりも速いスピードで回避し、すぐに俺に向かって突進する。
ここまでは読み通りだ。
だから俺は既にとある魔法を発動しておいた。
それは罠魔法。地面に仕掛けておいた。そこに足を踏み入れると、気が付かない間に下へ落ち込む。要するに落とし穴だ。本当に危ないから良い子は真似しちゃダメだぞ☆
グアアアアアアアアアアアアアとボアウルフの悲鳴が鳴り響く。狙い通り、ボアウルフは落とし穴にまんまと嵌まったようだ。
ボアウルフが落とし穴から這い上がる前に攻撃魔法を放とうと右腕を前に出すと――
『え――』
気づいたらボアウルフが目の前にいた。どうやら2秒も経たない内に落とし穴から這い上がってきたところだったようだ。
『あ――』
俺はすっかり失念していた。そもそも超速で動くボアウルフを落とし穴に落としてもすぐ動けるんじゃ意味がない。
もう俺は完全にボアウルフの攻撃射程範囲内にいる。回避しようにも反応が遅すぎて躱すことができない。
――油断した。体調があまり良くなかったからといった理由で一刻も早くボアウルフを倒したいと思ってしまった。今の俺ならなんとか倒せるだろうと慢心してしまったが故に生んだ不覚。
『しまっ――』
追撃しようとして前に出した俺の右腕はボアウルフのするどい歯牙に貫かれ――
死ぬまで共に在ると思っていた右腕はボアウルフによって食い千切られた。人間が魚を食べる時のように簡単に身体から完全に切り離された。
『あ、ああ――――』
第293話を見て下さり、ありがとうございます。
次は少しでも早く更新できたらなと思います。
改稿作業と平行して執筆しているのと、最近作者の身の回りで色々と変化が出て、なかなか執筆に入れないという事態が発生しております。本当にすみません。決して飽きたとか諦めかけているわけではありません。ただ、今はあまりも余裕がないということです。
とはいえ読者様を待たせるのも心苦しいので、できる限り早く更新を目指して臨んでいきたい所存です。
長文失礼致しました。ここまで読んでくださりありがとうございます。
何卒宜しくお願い致します。




