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第289話『教師になるということ』

大変お待たせ致しました。

第289話の執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。

『何で転入生じゃなくて教師なんだ?』


『だって君達、魔法に関してはもうほとんど熟知してるでしょうし、だからわざわざ教えを乞う必要なんてないと思うけど?』


『いや、まあ確かにそうだが……っていやいや、俺は年齢的にはまだ高校生だぜ? パーシヴァルはともかく、同い年くらいの奴に教師面されたくないだろうよ』


 ――と、思ったけどよくよく考えたら俺、300年以上は生きてたんだった。肉体的にも精神的にもまだ16歳くらいだが、正確には316歳だ。


 それなら年齢的には問題ない……のか?


 いやいやでも――


『それ以前に俺には教員免許が無い。それが無くちゃ教師なんてできないだろう?』


『普通の学校ならそうだよ。でもこの学校は魔法さえ完璧に使いこなせさえすれば教員免許はいらないんだ』


『え、そうなのか?』


『うん、こうして学院長(わたし)と面接して人格的に問題なければ、無事教員として採用できる』


 人格的に、という所が引っかかる。


 俺のこの腐りきった性格は客観的に見ても評価されるとは到底思えない。いじめられていたとはいえ、何の関係もないそのいじめた奴の妹である桐華を人質にとって、仲間をぶん殴らせた挙げ句自害までさせるクズ野郎だぞ?


 その桐華とはもう和解しているが、とはいえ俺が人質に取らなければ普通に楽しく過ごせてたかもしれない時間を……俺は奪ってしまった。それは桐華の人生を変えたのと同義だ。


 そんな俺が教師になって、生徒を正しき方へ導くだと?


 ――なんだそれ。笑えない冗談だ。


 それにやはり俺にうまく教えられる自信はない。母校で散々問題をおこしてきた俺が教師になんてなる資格はあるのだろうか? 否、あるわけがない。


『なあ、マーリン』


『だから私はスーパーハイパーウルトラ――』


『悪いけど俺には無理だ』


『……どうしてだい?』


 マーリンは俺を見る。責めたような厳しい目でも呆れたような哀れめいた目でもない。ただただ優しい目だった。まるで意地を張っている子供をなだめる親のような目をしていた。


『会ったばかりのマーリン(おまえ)には分からないかもしれないが、俺は最低の人間なんだ』


 決してネガティブモードに突入しているわけではない。ただ俺は俺に教師の資格はないと分かっているからそう言っている。


 客観的に自分を見た時、とてもではないが生徒の見本となる存在になる事なんてできないと思ってしまう。


 ()()()()のせいで――


『そうなの? 未来の私から君の事は色々聞いてるけど、全然最低な人間なんかじゃなさそうだけどな……』


『それは俺がやらかした過去の話を未来のマーリンは知らないだけだ』


『ふーん、君がやらかした過去というのはどんなものなの?』


『ああ話してやるよ。あれはこの世界に来る前、ダストになる前の俺が学校に通っていた時の事だ』


 俺は嫌われる覚悟で話した。俺をいじめていた奴の妹を人質にとってしまったこと。兄を自害させてしまったこと。結果的に何の関係もない妹が精神的な傷を負って、この世界で再び会ってから、改めて俺に復讐しようとしたこと。何もかも包み隠さず話した。


 この話が世間にバレてしまえば、俺は傷害罪やら脅迫罪とかで逮捕されるだろう。ただ性格が悪いでは済まない。犯罪者だ。


 人を傷つける人間のクズだ。


 俺はそういう人間なんだ。


 真っ当な人間ならば、俺の経歴を知った時点で嫌悪感を向けたり、追い出したりするはずだ。そこまで行かなかったとしても関わらないようにはするだろう。


『――というわけだ。これで分かっただろう。俺がとんでもないエゴイストだということが』


『……君の罪歴(やらかし)はよく分かったよ。確かにそれは褒められたことではないね。それを踏まえた上で1つ質問してもいいかい?』


『質問? 何を聞きたいんだ?』


『君はそれをやってしまったことを後悔していないかい?』


『後悔……? それはもちろんだ。何であんなことやってしまったんだろう、もっと冷静になって対応していれば(トウカ)を傷つけずに済んだかもしれないのにな……といつもいつも考えているよ』


『ふむふむ、なるほどね。君はその桐華という娘に償いたいんだね』


『ああ。そのつもりだ。でもまあそれには少なくともあと1万年は生きなきゃいけないんだけどな』


『うん、君の事はよく分かった』


『ああ。そういうことだから悪いけど俺は力になれな――』


『採用だ』


『は? 人の話聞いてたか? 俺は前科持ちの人間なんだ。生徒達を思うなら悪い見本である俺を教師にしちゃマズいだろ』


『確かに教師であるなら、常に正しい見本として生徒に振る舞い続けなきゃならない。でもね、教師だって人間なんだ。時に間違えるし、大人気なく喧嘩しちゃうし、授業中なのに突然泣いちゃう先生だっている。そうじゃなくても生徒(こどもたち)への対応に悩むこともある。みんなしっかりしてるように見えて実は裏では苦悩しているんだよ』


『……』


 ……。


 ……。


 ……。


『他の同世代の子たちよりも色々な事を経験してきた君なら分かるはずだよ。大人なんてただ子供より身体が大きくて経験が豊富なだけだって』


『……』


 俺は反論の余地がないまま、口を開くことはなかった。ただマーリンの言葉を耳の奥の脳に刻み込むくらい聞き入っていた。


 参ったな。こればかりはマーリンの言う通りだ。


 俺が見てきた生徒を導く教師達。そのだれもが偉そうで、上から目線で、あたかも自分が正しいと主張しているようだった。


 しかし、どの教師も全然正しくはない。


 いや場合によっては正しいのかもしれない。でもやっぱり正しくはない。


 矛盾しているようだが、それもそうだ。


 本物の正義が何なのかなんて、どんな大人だって分かっていない。


 結局は自分の価値観に準じて生徒を導いているに過ぎない。


 正義を知ろうとすればするほど、ますます分からなくなっていく。次第に自分の正義(しんねん)を見失う。


 正義とは何だ?


 分からない。


 分からない。


 正義教団の国王ルシウス・ペンドラゴンですら正義ではなかった。


 正義教団にはガウェインやトリスタンという、とても正義とは呼べない連中もいる。しかも、そいつらがどんな悪事を働こうが処罰を与えないどころか完全に放置している。


 それ自体が正義教団……いやルシウス王の(ミス)だ。


 ――そうだ。俺達は人間である限り間違い続ける。


 それは教師とて例外じゃない。


『――そうだな。確かにそうだ』


『そういうものだよ大人ってやつは』


『だがやっぱりまだ俺は教師になるべきじゃないと思っている』


『なぜだい?』


『この時代にもあるか分からないが、俺の中には壊れた歯車(ワールドキャンサー)というとても危険なスキルがある。これはいつ暴走してもおかしくはない。その時もし生徒と授業中だったら……』


『それに関しても未来の私から聞いてるよ。だからこそ()()というものがあるんだ』


『研修……?』


『社会人なら誰もが知ってるクッッソダルい奴だよ』


 クッッソダルいとか言うなよ。仮にも学院長だろアンタ。


 俺はまだ社会人じゃないが、研修自体はなんとなく知っている。要するにこれから業務していく上で必要な知識を得るってことだろう。


『……その研修とやらが俺の壊れた歯車(これ)とどう関係があるんだ?』


『行ってみれば分かるよ』


 また行ってみれば分かるよ、かよ。未来のマーリンもそうだが、こいつ説明という義務を放ったらかしすぎでは? それでも教師かよ……。


『それで、研修はいつがいいかな? 明日とかだと急だからもうちょっと日が経ってからでもいいよ』


『ちょっと待て、俺はまだ教師になるって言ってないぞ』


 思わず流れに流されそうになったが、話を戻させた。どんなに考えてもやはり俺に教師は無理だと思うから。


『――君を採用したいと思った1番の理由はね、過去に大きな過ちを犯して、今も尚、それを悔いていることなんだよ』


『それが1番ダメなんじゃないのか?』


『だからこそだよ。その後悔を生徒達に味わせないように、君がその後悔を生徒達に()()()()()()


 俺がこんな(人質を取って)こと(自害の強要)をしてしまったばかりに(桐華)を傷つけた。その経験、後悔自体が生徒の助けになるとマーリンは言っている。


『後悔を教える……?』


『そうさ、そうすれば君は生徒達の未来を守れる』


『俺が生徒の未来を守る……?』


『いいかい? オーガスト君……いやダスト君。君はただ悪いだけの人間じゃない。君のその経験、その後悔そのものが未来の子供達を正しく導いていける架け橋になれるんだ!』


 マーリンは今にも泣きそうな顔で熱弁をかました。いや何でアンタが泣きそうになってんだよ。


 というかマーリンが言う生徒達の未来を守るというのは、前提として俺が生徒達全員に慕われていなければいけない。そうじゃなきゃ俺がいくら話したところで誰も話を聞かないだろう。


 少し都合が良すぎる。これは理想論だ。


 いくらどの教師も完璧ではないと言っても、こんな陰キャで才能もなくてクズな俺の教えを受け入れる生徒がいるとは思えない。


 やっぱり断ろう。俺にはどうしても無理だと。俺を教師にすれば、かえって生徒達を不幸にしてしまうと。


『マーリンが熱心なのは分かったよ。そうまでして俺を買ってくれるのは素直に嬉しい。でもすまないがやっぱり――』


 と、4回目くらいの断りを入れようとした時、泣きそうだったマーリンの目からとうとう涙が流れていた。


 それは嘘泣きでも子供のようなギャン泣きでもない。


 彼女(マーリン)は静かに泣いていた。


 なぜだ、なぜそんな目をする。

第289話を見て下さり、ありがとうございます。

皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)

もっと更新のペースを上げたいところですが、精神が不安定なのか最近あまりにも仕事の疲労が強く、頭も回らなくて……といったところで、なかなか執筆がしづらい状況にあります。

それでもなるべく早く更新できるようにはしたいと思っています。前にも言いましたが絶対に完結させます。放置なんてしません。

長くなってしまって申し訳ございません。

こんな色々と不安定な作者ですが、何卒宜しくお願い致します。

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