第287話『窓に映るもの』
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『申し遅れました。私の名前は新井零士と申します。私立東都魔法学院の学院長の執事をやっている者です』
この新井さんという執事の方は自己紹介をした後、丁寧にお辞儀をした。
聞き間違いでなければ魔法学院と言ったな。名前通りであれば魔法を学ぶ学校ということか。
魔法という概念がある世界であれば、そういう学校があっても不思議ではないのは分かっているが、実際にあると分かるとどうしてもワクワク感が止まらない。2次元にしか無いものだと思っていたからかな。
でもその前に聞きたいことがある。まずこの疑問を解消しなければ話しにならない。
俺は絶賛躍動中の心を抑えながら、新井さんに質問をした。
『なぜ俺達の名前を知っているんですか?』
『我が学院の学院長がダスト様とパーシヴァル様とご友人だとお聞きしておりまして、お2人をお迎えにと言伝を預かっております』
学院長が俺達とご友人だと?
いやいや、未来人の俺達がこの時代に知り合いなんているわけがない。
もうこれは完全に人違いだろう。
たまたま同じ名前の人達と間違えているんだ。
って考えてみるが、これを偶然と片付けるのはあまりにも不自然だ。
ここは一応日本だ。ダストとかパーシヴァルは明らかに日本人の名前ではない。
この時代の事情はまだよく知らないが、外国人が住んでいる可能性も十分ある事も考慮しても、たまたま他のダストさんとパーシヴァルさんの2人組がたまたまこの日本の商店街にいる可能性はあまりに低すぎる。
ということは新井さんは人違いをしていない。
紛れもなく俺達に用がある。そう考えた方が自然だろう。
とはいえ魔法の学校の学院長に会った覚えはないし、というか過去の人間と知り合えるわけがない。
もしかして未来の事情を知る協力者なのだろうか? でもマーリンは協力者がいるなんて言ってないが……?
『あの、俺達その学院長という方の事を知らないんですけど、本当に俺達の友人なんですか?』
『はい。間違いありません』
『その学院長の名前はなんと言うのですか?』
『はい。学院長の名前はスーパーハイパーウルトラ超絶美少女マーリン様と言います』
『……はい????????』
聞き間違えでなければ、スーパーなんとかかんとか美少女マーリン様と言ったか? 違うよな?
生徒の模範である教師を導く学校内の学院長がそんなふざけた名前のわけないよな?
でも、あのマーリンならわりとやりかねないけど、違うよな? そもそもマーリンは1万年後の人間だし、この時代にいるわけないよな?
『長い名前なので覚えづらいのも無理はありません。もう1度復唱しましょう。スーパーハイパーウルトラ美少女マーリン様です』
どうやら聞き間違いでは無かったようだ。
本当にそんなバカみたいな名前だった。
マーリンの説明がやたら雑だったのはそういうことか? この時代にもマーリンがいるならそう言っとけや。本当に本人なのかは知らんけど。
『……』
『覚えましたか? もう1度復唱しましょうか?』
『いえもういいです。それよりも、その学院長はなぜそんな長くて自己肯定の塊のような名前をしてるのですかね……』
『ああ……申し訳ございません。私では分かりかねますので、それについてはスーパーハイパーウルトラ超絶美少女マーリン様にお聞きになって下さい』
新井さんは声のトーンを変える事なくそう言っているのだが、どこか学院長に対する怒りを感じた。
新井さんも、この長くてふざけた名前なんて言いたくもないし覚えたくもないけど、仕事だから覚えなきゃいけなかったんだろうな……。
そう思うと新井さんに少し同情を覚えてしまった。
『あ、はい。なんかすみません』
『いえ、こちらこそ……』
うちのバカ学院長が本当にすみません。後でキツく言っておきます。言って効くような相手ではないけどな。
『ダスト様、パーシヴァル様。ここですと目立ってしまうのでどうぞ車の中へお入り下さい』
と、新井さんは執事のような振る舞いで車のドアを開けた。
ドアを開けてもらうだなんて、まるで金持ちになった気分だな。
新井さんを疑いたいわけではないが、俺は周りを警戒しながら一応、慧眼魔法を発動し、車の中を隈なく見てみたが特に怪しいものは無かった。
『では、お邪魔します』
『お、お邪魔するぞ』
パーシヴァルは車を見るのは初めてなのか少し戸惑いながらも俺の後に続いて車に乗った。
元の時代にもク・ルーマと呼ばれる車もどきがあったが、そういえばパーシヴァルが生きた時代にはそんなものはなかったのだろうか?
『安全のため、シートベルトをご着用下さい』
『あ、はい』
俺は日本の車でもお馴染みのシートベルトを引っ張り、カチャッと固定した。
『し、しーとべるとってなんだ?』
『これだパーシヴァル』
『ああこれか』
『大丈夫ですか?』
『はい大丈夫です』
『それでは出発します』
アクセルを踏むと、車は静かなエンジン音と共にその場を離れていく。
『おっおおっ!』
パーシヴァルは、おそらく生まれて初めて乗ったであろう車に驚愕を隠せない様子だ。
どうやって動かしているんだ!? と言いたげに車の中を見回している。
俺はそんなパーシヴァルを尻目に、移り変わる景色を映画のように上映する窓を眺めた。
『……』
色とりどりの建物。淡々と道端を歩く人々。
懐かしい。
全てが懐かしい。
しかし、ここは日本を模したゲームの世界。
とある世界線が世紀末を迎え、危険な世界から逃げるために避難場所として使われた仮想世界。かつて俺が過ごしていた日本とは似て非なるもの。
開発者もまさかこんな使われ方をするとは思わなかっただろう。
どんな気持ちなのだろうか?
今頃どう思っているのだろうか?
仕方がなかったとはいえ、ゲームの世界をゲームらしくない使い方をされてどう思っているのだろうか?
『……』
『ダスト様、深刻なお顔をされておりますが何かありましたでしょうか?』
新井さんはバックミラー越しに映った俺の心配そうな顔を見兼ねたのか、そんなことを聞いてきた。
『あ、いえ何でもないです』
『そうですか。何かあれば言って下さい。できる限り対処させて頂きます』
どこまで対処してくれるのか少し興味があるが、さすがに悪いのでやめておこう。
――それから10分ほどが経過した。
『そろそろ着きますよ』
『お、着きましたか……あれ?』
俺は窓の外を見た。
あれはなんだ?
俺はあれを見た瞬間、頭がパニックでオーバーヒートするところだった。
『どうかされましたか?』
『まさかだとは思いますが、俺達が目指している私立東都魔法学院ってあの建物の事ですか?』
俺は震えながらその建物に指を指した。
『はい。そうです』
『マジか……』
俺は驚愕した。
まさか、この日本とほとんど同じ世界にあの建物を見るとは思わなかった。
この日本にはそぐわない洋風デザインの建物。イカにもモンスターが出てきそうな雰囲気を醸し出している。
『主人どうしたのだ? そんな鬼が滑って金棒を喰らったような顔をして』
『いやどんな顔だよ――ってそうじゃなくて、あの建物……』
『あれか。この時代にしてはずいぶん風変わりな建物だな。あれがどうしたんだ?』
そうか。パーシヴァルは中には入ったことあるけど外からは見たことなかったっけな。
『実はあの建物な……元の時代に俺が住んでいた所とそっくりなんだ』
『へえ、そうなのか』
そして俺を召喚した場所。この世で1番居心地が良い場所。
――そう、あの建物は……どう見てもあの魔王城だ。
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