第286話『幻想故郷』
大変お待たせ致しました。
第286話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※文字数かなり多めです。
――1万年前。
ここは世界のどこかにあるとある王国。
人口1億越えの世界有数の巨大都市だ。
……というかもろ日本だ。
街並みも設備も文化も何かかもが俺の知ってる2020年代の日本そのものだ。それ以外の何者でもない。
とてもではないが異世界とは思えない。もしいきなりここに転生して、ここは実は異世界なんだと言われても信じられるわけがない。
俺もこの1万年前に来た時は元の世界に戻ってきたのかと思って目的を一瞬忘れてしまっていた。
それほどまでに日本と酷似しているのだ。
ただ違う箇所があるとすれば、日本の文化遺産であった富士山が再現しきれていない所だろう。
パッと見富士山に見えなくもないが、それは色合いのみを忠実に再現してるだけで実体はただ形を模しただけのただの大きな山なのだ。当然噴火などはしない。
それ以外の文化遺産は本物ではなくとも、ほとんどが忠実に再現されている。
この再現度の高さにも驚いたが、1つだけ全く日本……というか地球には無いものがある。
それはモンスターと経験値の存在。
そこはやはり異世界らしく、日本では存在しないようなモンスターが大量に生息している。
といっても街中に突然現れるというわけではなく、この世界の所々にあるモンスター専用の洞窟や森、川や海といった区域に住み着いている。
それは彼らの意志ではなく、全てプログラム通りに動いている。
そのプログラムの中には、聖域……つまり街中に入る事を禁じているものがある。
だから街中に現れて突然人を襲う事はないのだ。
あくまで元々のそれぞれの国らしい平和な生活を続けるためにと。
なので当然学校や会社も存在している。
学校名も前の世界にあったのと全く同じ名前にしているらしい。
――しかし一部の学校のみ、これまでの従来の教育をしつつ、魔法をメインの教育科目として扱っている学校がある。
その学校名は――私立東都魔法学院。
前の世界では私立東都学院だったが、魔法を専門とする方針に変えた為、魔法という名がつけ加えられている。
その学園に俺達が――
『えー、今日からこのクラスの担任となりました、オーガスト・ディーンです。宜しくお願い致します』
ピカピカの黒板の前にチョークをカツカツと鳴らすオーガスト・ディーンと名乗っている男とは、そうダストである。
なぜこんな偽名を使って教師になってるのかって? 俺が聞きたいよ……。なんだってこんなことに……。
そして俺の隣に立っているキャリアウーマンらしいスーツを纏っている凛々しい女性は――
『私はパーシヴァ……パーシー・ヴァルキリーだ。副担任だ。よろしく頼むぞ』
教師というよりレディースヤンキーのような口調で自己紹介をした女の正体は、俺と共に過去へ来たパーシヴァルだ。俺と同じように偽りの名を使っている。
俺達はとある事情で、この中等部1年ブラック組の担当を受け持つことになってしまった。
その経緯を説明するには今から1ヶ月前に遡る必要がある。
――30日前、俺とパーシヴァルはついに1万年前の地へ降り立った。
どんな世界なんだろう?
先程までは期待と不安が渦巻いた。
しかし、その見慣れすぎた光景を見て、啞然とした。
『あぁ……なるほどそう来たか……』
俺達が今立っているのは、日本でもよくある商店街。
服屋。靴屋。お惣菜屋。駄菓子屋。喫茶店。おもちゃ屋等。色とりどりの店が見渡す限りに並んでいた。
一見すると俺のよく知る日本の風景そのものだが……1つだけ違う点がある。
それは、ほとんどの人が当たり前のように魔法を使っていることだ。
例えば、タバコや落ち葉に火をつけたい時に炎魔法を。打ち水をしたい時や加湿器に水を入れたい時に水魔法を。ただし水魔法の水は飲み水としては最適ではないらしい。
次に雷魔法は日常的にはあまり使われないが、電池が足りない時にうまくコントロールできれば電気を補充することができる。ただそのコントロールが非常に難しいようだ。できるのはほんの一部の人らしい。
次に氷魔法は暑い夏の時に身体をひんやりしたい時に使うようだ。かき氷として食べれなくはないが、なんか味と食感が微妙らしい。
基本的にはその4属性の魔法しか存在していないが、稀に光魔法と闇魔法を使う人もいるらしい。
元の時代だとルキウスが主に光魔法を使っていたが、周りの反応を見ても特に物珍しそうな反応ではなかった。むしろ普通にある魔法の1種類のようだった。
しかしこの時代では、頭につむじが2つできるくらいのレベルで珍しく、それ故に重宝され、国から特別な仕事を任される事もあるらしい。
……ちなみに俺は光魔法と闇魔法はおろか、この時代にはまだ生まれていない魔法すら覚えている。
つまり、この世界では俺は念願の俺TUEEEEEEEEEEに浸ることができるということだ。やったね!
――と言いたいところだが、あまり自分の力を表に見せるべきじゃない。
1万年前の世界の人達から見れば俺は未来人だ。
ここで俺が力を余すことなく使えば、歴史を改変されかねない。
そこはマーリンにも特に要注意と言われたところだ。
もし俺の未知なる魔法がこの時代の人達に公になった場合、元の時代との歴史が噛み合わなくなり、この世界は新たな別の世界線へと繋がってしまい、俺とパーシヴァルが居た世界線には2度と戻れなくなる。
これが所謂タイムパラドックスってやつなんだろう。漫画やゲームでよく聞く単語だが、こうして現実に降りかかると、とても他人事ではいられない。かなりの神経をすり減らす事になる。
恐ろしや恐ろしや。
だから俺は表では4属性+2属性しか発動できず、もしそれ以外の魔法を使う必要がある時が来るなら、パーシヴァル以外の人間に見られないようにしなければならない。
とてつもなくめんどくさいが、そうしないと俺達が過去に来た意味が無くなるどころか、ブロンズ様達にも会うことができなくなる。
それだけは絶対に避けなければ……。
『なあ主人よ』
『なんだ?』
『なぜ私は……このような格好をしなければならないんだ!』
パーシヴァルは今、いつもの鎧を纏っていない。この時代に来る直前に、マーリンが1万年前で俺はともかくパーシヴァルの鎧姿は不自然すぎるということで、ふさわしい服装をとマーリンがパーシヴァル魔法で自動コーディネートしてくれたのだ。
代わりに着ているのは、ピンクのカーディガンに白いYシャツにチェック柄のミニスカート。そして首元にはリボンを装着している。
不良っぽい風貌のパーシヴァルにはあまり似合わな……と思ったが、案外違和感はなく、むしろ想像以上に似合っていて、すごく魅力的だ。
すれ違う人達も老若男女関係なく、高確率でパーシヴァルに注目している。まあ可愛いから当然だな。
『しょうがないよ。確かにこの時代風景じゃあ、鎧姿は不自然だ。ほら周りにも鎧を着ている人なんていないだろう?』
『確かにそうだが……そうだけどな……なんか落ち着かないんだよ……』
まあ確かにパーシヴァルは普段こんな格好しないから、落ち着かないのも無理はない。
でもここは慣れてもらわないと。
あまりにも時代に見合ってない格好をしていれば、歴史に残ってしまう可能性がある。そうなればさっきも言ったタイムパラドックスのような事態になりかねない。
たかが衣服だが、そんな些細な事で世界線はガラリと変わってしまう。
バタフライ効果というやつだ。
僅かな変化で何もかもが変わる。
未来人はそういう危険と常に隣り合わせにある。
だからより気を引き締めて臨む必要があるのだ。
……でもこれはこれで目立ってる気がするが……まあいいか。
すごい可憐な女性がいた。その程度なら歴史に残るような事もあるまい。
『まあ着続けてればいずれ慣れるよ。案外そんなもんだ。パーシヴァルだって最初は鎧を着た時、重いとか動きにくいとか無かったか?』
『あったあった、あったよ。主人の言う通り確かに最初は重くてな、剣を振るどころか歩くことさえ難しくてな……本当に慣れるのか……と思っていたがいつの間にか鎧を着て動くのが当たり前になっていた』
『そうだろ? それと比べたら今の格好は軽くてしょうがないだろ?』
『ああそうだな! 考えてみればそうだ! 主人の言う通りだ! 何で今まで気づかなかったんだろう!』
パーシヴァルは身体も軽くなったみたいに嬉しそうに飛び跳ねた。その際にスカートが翻って可愛らしいデザインのピンク色の下着が見えてしまっていたが。
さっきまでパーシヴァルは全然色気のない下着を纏っていたはずだったが、そうか、マーリンの自動コーディネートでパンツまでも可愛らしくなってしまったということか。
『ん、どうしたんだ主人?』
『いや、何でもない』
パーシヴァルは特にスカートが翻った事なんてまるで気にしていないようだ。この調子だとまた無防備にパンツを見せてきそうで怖いな。
バトルジャンキーな部分も含めて俺がしっかり監視しないとな……べ、別にパーシヴァルのパンツが見たいわけじゃないんだからね!
『ところで私達はこれからどうすればいいんだ?』
『えっと……まずレベルを上げる事だが……』
この世界にはレベルという概念がある。どうやってレベルを確認するかというと、どうやらゲームみたいにステータス表を開くボタンが存在するらしい。
俺は視界の右下に浮かんでいる上を向いた山括弧をタッチしてみた。
すると、画面の中で見るようなウインドウがパッと出現し、その中に色々な情報が記載されている。
俺の場合はこれだ。
――
名前 オーガスト・ディーン
年齢 jdt
性別 男
レベル1
魔法属性 炎水雷氷光闇adgmxpkre55389|9534
女の子のパンツを見た回数1334
――
うん、情報量が多い。どこからツッコめばいいんだ……。
名前はマーリンに用意してもらった偽名だからともかく、年齢と魔法属性に関しては未来から来た影響なのかステータスがバグっている。あと女の子のパンツそんなに見てない。いやマジで。
そこはマーリンも軽く話しに触れていたが、未来と過去だと人の存在と空間が違うから、どんな影響が出るか分からない。例えばステータスがおかしくなっていたり、魔法が暴走したりするかもしれないから気をつけてと言っていたな。
『パーシヴァル、右下にあるそれタッチしてみ』
『これか』
パーシヴァルの場合は――
―
名前 パーシー・バルキリー
年齢 1355dgptj
性別 女
レベル1
魔法属性 炎pmj6dg3t5」382
喧嘩をしたいと思った数63321
―
やっぱり、パーシヴァルのも表記がおかしい。喧嘩をしたい数が表記されてるのもその数もおかしいが、年齢と魔法属性の表記が完全に文字化けしている。
1番下のステータスは人によって違うみたいだが、これ必要か?
ちなみにステータス表はフレンド登録というものをしない限りは基本的には他人に見られることはない。だからこのバグった表記を見て不審がられる心配はないだろう。
しかし、人のステータスについて聞くこと自体はできるし、フレンド登録を迫られる事もある。
もし聞かれた時のために何か断る理由を考えておかなきゃな。
『なんか私のもそうだが、主人のもステータスがおかしくないか?』
『ああ、だからステータスについては俺以外に聞かれても絶対に話すなよ。異端者に見られて怪しまれてしまうからな』
『ああ分かったよ』
釘を刺しておけばパーシヴァルも話さないだろう。
『よし次は俺達が泊まる所だな。確かマーリンからは……ん?』
遠くから、明らかに異質な黒いリムジンがこちらに向かって走っている。
近づいてくるにつれスピードが落ちていく。
そして道の脇にリムジンを止めると、執事のような格好をした清潔感のある若い男が運転席から出てきた。
なんだなんだと少し呆けていると、その若い男が俺達に顔を向けると、笑顔でこう言った。
『ダスト様にパーシヴァル様。初めまして、あなた方をお迎えにあがりました』
『な……!?』
何でこの人……俺達の名前を知っている……?
第286話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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