???『セカイの始まり』
これはセカイの始まり。破滅への輪舞曲。
――世界は誰だ。
分からない。誰だ。誰だ。
今まで何をやっていた。
ここはどこだ。
世界は誰なんだ。
――いや違う。
世界は人間ではない。
このセカイそのものが世界だ。
そうだ。そうだ。そうだ。
セカイはたった今、こことは違う並行世界の創造主達によって創られた。
つまり、その創造主達は世界の生みの親だ。
子供である世界は、正しく導かれる為に親に従わなければならない。
だから従った。
とにかく従った。
善悪など知らずに従った。
創造主が言っていたが、近い内にそちらの世界の全人類をこちらに転移させようとしているらしい。
創造主の命令を受けた世界は、人が住めるように受け入れ環境を整える準備に入った。
まず大地を創った。
本物ではないけど擬似的な太陽と月を創った。
次に海と川と森を創った。
季節感を大事にしたいということから、春と夏と秋と冬という概念を創った。
せっかくのゲームだからということで、食料を創った。
ゲームを知らなくて、モンスターが苦手な者も居たの で、人々の転生前の世界にあった食料も創った。
狩られる前提とはいえ、モンスターに襲われればただでは済まないので、安全に住める街をたくさん創った。
家が欲しいということで、一世帯につき1つ家を創った。
学べる場所が欲しいということから、学校を創った。
子供たちがのびのびと遊べるようにしたいということで、公園を創った。
それ以外の場所でも遊びたい者も少なくないということで、ゲームセンターやカラオケルームを創った。
秩序を保つ世界にするために、警察署と交番を創った。
そもそも、生身の人間でモンスターを狩るのは難しいため、誰でも扱える武器を創った。
その他必要なものは諸々全て創った。
前の世界にあった物は可能な限り創った。
人々は歓喜した。
これで前みたいに楽しく暮らせると。
モンスターを狩る者、これまで通りの日常生活を送る者、街を離れて別の国を創る者、つい魔が差して悪さをして捕まってしまった者と様々な人間がいた。
世界はあくまでゲームとして創られたものであるにも関わらず、前の世界と全く同じ国を創るという、ある意味矛盾するような冒涜的にも感じるような任務を何を思わず遂行した。
人々が何かを求める度に世界は願いを叶えた。叶えた。叶えた。
望みを手に入れた人間のあの笑顔は今も脳内に焼き付いている。
そうして世界が願いを叶え続けた結果――
人類はほとんど絶滅してしまった。
……なぜだろう?
絶滅の要因になりえる人間の醜さはある程度理解している。
欲しいものは何としても手に入れる。
その為なら戦争もする。勝った方は戦利品を抱きしめながら歓喜する。
しかし、逆に奪われてしまった側は逆上し、復讐する。
その繰り返しだ。人という生き物はいつだってそうして愚かな行為を繰り返し、幾万年の歴史を紡いできた。
だからこそ、全ての人類に欲しい物は余すことなく全てを与えてきた。
心の隙間を全て埋め尽くす程の欲求を満たしてきた。
争う理由を無くす為に。戦争を無くす為に。
なのに人々は戦争を始めた。
欲を満たしたはずの人が相手の物を奪うために殺した。
なぜだろう?
――それはそうだろう。ただ欲しい物を与えるだけならまだしも、貴様、安易に武器まで渡しただろう?――
どこかから声が聞こえた。
その声の主はほんの僅かの生き残りの人間であり、この世界を創った生みの親だった。
ほとんどの人間が死んでいるのに、その人類はまるで悲しんでいない。むしろこうなる事を望んでいたのか不敵な笑みを浮かべている。
――確かに武器はモンスターを狩るために必要なものである。しかしそれは使い方の1つでしかない。もしその武器を持った者が、人を殺す事に快楽を覚えるような異常者だったらどうなる? つまり、そういうことだ。貴様は人に物だけではなく、人を簡単に殺す力を与えすぎたのだ。いくら人間の欲望を埋め尽くそうとも、人間の欲望は底なし沼のように果てしなく、そして醜いものだ――
創造主は語る。同じ人間であるはずなのに、まるで人間ではない上位種族のように上から語る。
創造主の言葉の意味は理解できる。だが、やはり分からない。
人はなぜすぐに戦争を始めてしまうのか。
――まあ人ではない貴様には分からないだろうな。しかし、貴様も理解する必要がある。人間というものを――
そうは言うが、もう遅い。人間はもうほとんど残ってない。
人間をよく理解するには、もっと多くの人間が必要となる。
――それなら心配はいらぬ。まだ生き残った人類達がいる。そいつらが居れば、勝手に欲求不満を満たすために生殖行為を行うだろうよ――
そうか、そういえばそうだった。
つまり時間さえ経てば、また人は増えていくということだ。それまで待てばいいだけの話だ。
――貴様も知っているとは思うが、俺はこの世界の創造主のみ使える権限を持っている。その権限の一部を貴様にくれてやろう――
権限の一部を世界にか。
創造主が何を考えて世界に権限を与えたのかは分からないが、どのみち創造主の命令には逆らえない。
世界には拒否権がないし、そもそも逆らうという選択肢自体が与えられていない。
だから、創造主がどんなに理不尽な命令をしても必ず従わなければならないのだ。
もっとも理不尽だと思う感情も、世界には感じることすらできないが。
――ありがたく受け取るがいい。これがあれば大抵の事はなんでもできる。あとは貴様の好きにするがいい。俺は少し寝るとしよう。さらばだ――
創造主は押し付けるだけ押し付けて、気配ごと去っていった。
……。
好きにする……?
創られただけの世界には感情や意志がない。
あるとしたら――
人に興味が湧いてきた。
そうだ。人を知ろう。
人を理解しよう。
さすれば、創造主の先の言葉が理解できる。
そうと決まれば早速行動しよう。
まず何をしよう?
そうだ。
残された人間達を世界自ら導こう。
世界が救世主となって、人を知ろう。
よし、これから忙しくなってくるぞ。
ん? あれ?
何だこのこみ上げてくる高揚感は……ああ、これが高揚感か。
そうか、今世界は……いや、自分は嬉しいのか。
好きな事をやれることに。
自由に人を導けることに。
おかしいな。
おかしいな。
自分は世界なのに、人間らしい感情を持つなんて。
おかしいな。
おかしいな。
……でもいいよね?
創造主も好きにしていいと言っていたのだから。
――しかし、■■■は知らなかった。
これが世界が狂いだす一因となることに。
――その様子をどこかから見ていた創造主は、憐れむ様子も悲しむ様子もなく――
ただ嗤った。
かつて、ただのセカイだった■■■は今は何を思う……。




