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壊れた歯車は異世界に行っても壊れたままだった  作者: カオス
4.5章〜魔王城殺人事件編〜
289/726

第280話『絶望とそれから』

遅くなってしまい申し訳ございませんでした。

お待たせしました。

第280話の執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。


※文字数多めです。

 ――突然だが魔王城は崩壊寸前に陥った。


 一体何が起きたのか?


 隕石でも落ちてきた? エレックが再び暴れだした? ゼウスの雷がついに魔王城を守っていた結界を貫いた?


 ――いずれも違う。


 そんな()()()()ものではない。


 魔王城の皆が大人しく“ある男”を待っていた最中、考えうる限りの最悪が訪れたのだ。


 そう――その最悪とは――


 神の居城(ヴァルハラ)誇る守護神(ガーディアン)の中でも最強を誇るゼウスとプロメテウスとヘラの3神が魔王城を包む結界を破壊し、襲いかかってきたのだ。


 そんなバカな。


 誰もがそう思った。


 誰も予想できなかった。


 ただでさえ滅多に下界に降りてこない守護神(ガーディアン)がやってくること自体が稀有であるにも関わらず、わざわざ人間界の魔王城に、しかも同じ守護神(ガーディアン)であるプロメテウスとヘラも連れてきている。


 その神々しさは計り知れない。


 この場に神を信じて生きている者がいれば、即座に跪き、神が我々を気にかけて下さったと泣いて歓喜するだろう。


 しかしそうでないものからしたら、これは明らかな異常事態。まるで世界の終わりを見るような絶望感が身体中を侵食する。


 ――もうダメだ。


 ――勝てるわけがない。


 もう既に戦いは始まっている。


 まずケールが他の皆を逃がす為に時間を稼ごうと自ら前に出たが、為す術もなく地に伏して、起き上がることはなかった。


 “あのケールさんが勝てなかった”


 あの最強のケールさんが、無敗だったケールさんがあっさりと敗北した。その事実だけで心を折るには十分すぎた。


 それでも1人でも多く逃がそうと桐華やルキウスを中心に陣形を組み、立ち向かったが一瞬にしてその陣形は崩れ去り、1人残らずゼウスの雷やプロメテウスの炎の餌食となった。


 ――もうここはダメだ。逃げよう。でもどこに? 


 外は雷の嵐。一歩でも外に出れば雷に貫かれて一巻の終わり。


 雷に耐性があったり、魔法でどうにかできたとしても、あまりにも数が多すぎる。


 対応しきれない。


 どんな超人でも傘が無い状態で降りかかる雨に一滴も当たらずに避け続けるのは不可能だ。


 それに、そもそもゼウス達が出口を塞いでいる。彼らを倒さない限り、どうやっても逃げ出すことは不可能だろう。


 それなら魔王の転移魔法なら逃げられるのではないか?


 そう思った者もいるが結論から言うと不可能だ。


 なぜならゼウスとヘラによって魔法封じの結界を張られているからだ。


 こうなると、もう他に逃げる方法はない。もう詰んでいる。生きることを諦めるしかない。


 ――今まさにゼウス達は……魔王城ごと全てを破壊し尽くすつもりだ。


『……』


 守護神(ガーディアン)達の理不尽すぎる強さに太刀打ちできず、まるで虫けらのようにバタバタと倒れゆく仲間達を虚ろな目で見つめるブロンズちゃん。


 お兄ちゃん(ダスト)にも会えず、大事な家族や仲間を守れず、ただ絶望の淵に立たされるだけ。


『……』


 ほんの数分前まで魔王城は賑やかだった。外が地獄と化しているにも関わらず絶望していなかった。


 ゴールドちゃんが口にした“ある男”という名の希望。


 これがあったからだ。


 これさえあれば誰も絶望しない。


 これさえあればみんな助かる。


 だが総員油断していた訳ではない。エレックのような刺客が来ないとも限らない。あるいは真っ正面から襲ってくる場合もあるかもしれない。そうなる可能性を考えて皆、常に警戒していたのだ。


 気を張りつつ、希望に満ち溢れていたのだ。


 ――しかし、その希望が届くよりも先に守護神(ガーディアン)という名の絶望が押し寄せてきたのだ。


『くそ……』


 ゼウスの雷を喰らって尚、自身の思いだけでなんとか耐えて起き上がり、槍を構え、(ゼウス)に殺意を向けているケイデス。相手が実の父なのもあり、彼の中にある憤怒の感情は計り知れない。


 しかし、ケイデスはもう限界だった。せっかく起き上がったのはいいが、あまりにダメージが大きすぎた。もう槍を満足に振るうこともできなければ、ゼウスの攻撃を回避するのも難しいだろう。


『さらばだ。()()()()()()()()()()


 ゼウスは相手が実の息子であっても容赦なく雷を巨大なビームの如く放ち、ケイデスは光の中へ飲み込まれた。


 また1人倒れてしまった。これで残ったのは私1人だ。


 ブロンズちゃんは言葉や感情すら出せずに、ただ絶望のあまり膝を崩してしまう。


『あとは貴様だけだ。愚かな人類よ』


 ゼウスは今度は鉾の形を成した雷を作り出し、ブロンズちゃんを一撃で仕留めようとする。


『これで終わりだ』


 そして、ブロンズちゃんは――




 ――――時は数日前に遡る。


 この日は、ダストが殺されてから3日経った頃だった。もう既に事件は解決し、暴れようとしたエレックは鋼の精神を持ったケールによって倒され、別室で監禁している状態だ。


『エレックの様子はどうだ?』


『特に変わったことは無いかな〜』


『そうか』


 エレックも現時点では無力だ。監禁室から抜け出す事自体はできるかもしれないが、常に監視の目があるので下手な事はできないし、そもそも魔王城の外に出ることも今の状況ではとても無理だろう。


 この魔王城にはもう他に敵はいない。


 外の世界はもはや終末と呼べる程に破壊し尽くされてしまったが、魔王城には再び平穏が訪れたのだ。


 あとはここに来る例の“ある男”を待つだけだ。


 ……にも関わらず、この食堂ではあれから言い争いが絶えないようになってしまった。


 なぜなら今後の方針がなかなか決まらないからだ。


 ゴールドちゃんの言う通り、全てを解決してくれる“ある男”がここに来るまで全員大人しく待つというのがベストなのは確かだが、それに反対する者もいる。


 ゴールドちゃんを信頼していないわけではないが必ずしもその男が来るとも限らない。そもそも現在進行形で世界の隅々を砕いている雷の雨が降っている中で、どうやってここまで来るのか? 多少腕の立つ冒険者ならば様々な手段で雷そのものは防げても、そうしながらここまで移動するのはあまりにも至難の技だ。その辺にも疑問を持っている者もいる。


 それならばいっそゼウスの元へ直接赴き、平和的交渉をするという手段もあるのではという意見も挙げられた。


 ちょうどこの場には神の居城(ヴァルハラ)の行き方を知っている者もいる。


 だがケイデス曰く、ゼウスが簡単に自分の考え方を変えるとは思えないと言った。確かにケイデスはゼウスの実の息子だ。そんな彼が言うのだから間違いはない。


 しかし、だからと言って、このまま世界が滅ぶのを待ってはいられない。

 

 それならいっそ特攻した方がいい。


 いやいや命を粗末にするな。


 このままだとその命を散らすことになる可能性があるんだぞ。


 でも――。


 それでも――。


 それなら――。


 ……と言ったような口論がずーーーっと絶えないのだ。


 ここに来るたびに誰かが口喧嘩をしている。酷い時はラップバトルのように罵倒し合う時もある。その度に冷静な誰かが止めに入っている。


 今はみんな冷静さを取り戻しつつあるのか多少収まっているが、口々にこうした方がいいのに……とブツブツと独り言を唱えたり、どうしても待ってられなくて勝手に外に出ようと準備する者もいた。


 大人数いるだけあって意見も考え方も多種多様だ。


 どれも決して間違ってはいない。それぞれの価値観や信念に基づいて言っているのだろう。


 だからこそ葛藤する。


 だからこそ衝突する。


 どうすれば正解なのか。どうすれば皆を助けられるのか。皆同じことを考えているのに、意見が1つになることはない。


 きっとこの後、数時間後か数日後にでも誰かがしびれを切らして魔王城を飛び出して、ゼウスの元へ行くだろう。


 もしそうなれば雷の雨に撃たれて死ぬか、なんとかゼウスの元へたどり着いたとしても、ケイデスの言う通りゼウスが人を信頼するわけもなく、交渉も決裂し、守護神(ガーディアン)に逆らった罰として(さばき)を受けることになるだろう。


 そうなればどちらにせよ確実に命は無い。


 そんなのは誰も望まない。


 かといって、このまま誰も行かなければいずれ世界は滅ぶ。


 それならいっそ――


 皆の怒号(意見)が飛び交う中、小さな身体の彼女(ブロンズちゃん)は涙を流してこう叫んだ。


『おねがいだから……おねがいだから、ゴールド姉を……信じてよ!!!!!!』


 ブロンズちゃんの涙の訴えに誰もが驚愕し、ブロンズちゃんの方へ顔を向けた。


『もうこれ以上……誰も死なないで!!!』


『……!』


『ブロンズちゃん……』


 誰も死なないで欲しいと優しい心を持った故に流した涙。それは何よりも美しく、憤った者達の目を覚まさせるには十分すぎるもの。


 それに、こんなに可愛いお姫様(ブロンズちゃん)を泣かせては騎士としても冒険者としても何より大人として恥であり最低だと反省させた。


『ごめん、儂らが悪かった……』


『私も熱くなりすぎてたよ……』


『こんな可愛いお嬢さんを泣かせるなんて、俺も正義失格だな』


『みんな……』


 天使(ブロンズちゃん)の涙によって怒号の嵐は止んだ。先程まで罵倒しあってたのが嘘のようにシーンと静かになった。


『ブロンズちゃん』


『まーちゃん?』


 さっきまで眉間にシワを寄せ、憤っていた魔王は優しい表情へと変わり、ブロンズちゃんに目線を合わせ、肩に手を置いてこう言った。


『そうじゃな。ブロンズちゃんの言う通りじゃ』


 魔王は立ち上がった。


『みんな、ここはゴールドちゃんの言う通り、ここで信じて待とう。今、外に出てしまったら必ず死者が出る。それじゃあいけない。ここにいる誰かが1人でも欠けちゃいけない。みんな生きて笑顔でこれからを楽しもうよ! じゃないと人生もったいない!』


 魔王の言葉に全員の心が動かされた。


 全員で生き残ること。それは現時点では難しい事なのかもしれない。でもそれでも、やはりみんなには生きてほしいから……みんなが笑い合える未来を作るために――


 ……数日後――その未来が圧倒的な力によって崩れ去ってしまうなんて誰も知らずに――


第280話を見て下さり、ありがとうございます。

皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)

次回も宜しくお願い致します。

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