第279話『かつて正義だった男の決意』
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第279話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※今回は文字数かなり多めです。
どうやっても口を割らなかった俺に心が折れた尋問担当は、俺にある提案を出した。
それは、妹の求刑を死刑から有限の懲役に、母さんの懲役期間を減らす代わりに、それまでこちらの命令に従えとのことだった。
どんな命令かは知らないが、それに従え続ければ妹と母さんは助けられる。それなら迷う必要はない。
俺はその提案を受けた。
一体どんな命令が下されるのか――いやどんな命令だろうと関係ない。家族を救えるのなら――
――それからというもの、俺は命令を受けてはそれを遂行し、報告をする。そして、またすぐに命令を下され、報告する。それを繰り返す日常を送っていた。具体的な内容としては、法で裁けない犯罪者の暗殺や、近くの国や盗賊団の侵攻・殲滅。他の騎士への嫌がらせをしたり喧嘩をふっかけたりして問題を起こさせたりした。その度にルキウスが止めに入ってたのを思い出すな。
あと、研究の為のモンスターの捕獲や、ガレスをこの国から追い出せとかいう、よく分からない命令も下された事もあった。
罪悪感は無かったといえば嘘になるが、今はそんな罪悪感は消え去ったがな。
……まあ、そんなことはどうでもいい。
それよりもこれで妹も母さんも救えるんだ。
俺はたとえどんな犠牲を出しても家族を救うと決めたのだ。その為なら俺は正義になる。
そう決意した。
しかし、ある日事件は起きた。
妹と母さんが事故に巻き込まれ、植物状態になってしまった。
原因は妹と母さんの牢屋の天井が崩れて下敷きになったからとのこと。2人は同じ牢屋だったので一緒に巻き込まれた形だ。
残念ながら、この国の医療技術では2人を救うすべはなかった。
生きているのに死んだような状態がこの先何ヶ月も何年も、下手すれば死ぬまで続くようだ。
俺は絶望した。
せっかく2人を救えると思ったのに。懲役期間が明けたあとはまた3人でいつも通りに暮らせると思ったのに。
それがもう叶わないなんて……。
更に俺は後に偶然知ることとなる。
妹と母さんを襲った天井崩落は単なる事故ではなく、ある人物によって仕組まれていたことを。
それを知った後はどうしたかって?
そりゃお前……そいつを殺しに行ってやったわ。
我慢できるわけねえだろ。
俺にとっては大切な家族だったんだ。
それを奪われて、のうのうと過ごすなんてできるわけがねえ。たとえ反逆の罪になってもな。
でもな……結局そいつを殺すことはできなかった。俺の殺意が甘かったわけじゃねえ。そいつが強すぎたんだ。
そいつの名はヘリス。当時の正義教団の幹部だった男だ。
ヘリスは表面上は紳士的な男だが、その裏ではとんでもない悪事を働く。今の俺様ですら引くレベルの悪党だった。具体的に何をやってたかは聞かない方がいい。とても口では言えないような事なんでな。
それで俺はヘリスに傷1つつけられずに無様に返り討ちにされた。その後俺はヘリスに拷問されて、人生で1番の苦痛を味わった。どんだけ叫んでも誰も助けに来てくれなかった。どうやらそこはどんなに大きな音を立てても外に漏れることがない防音部屋だったらしい。
しかも部屋をよく見ると、所々に血痕がついていたり、何やら血のついた道具なんかもあった。
……そうここは拷問部屋だ。1度ここに連れてこられてしまえば2度と外の世界に出ることが叶わない地獄のような部屋だ。
ヘリスはとにかく残忍な男だ。どんなに人が傷ついても何とも思わない。むしろ人が苦しんでいる姿を見ると歓喜の感情が身体中を巡る程のとんだサイコ野郎だ。正義感の強い男を演じているとんでもないモンスターだ。
そんな奴が俺を哀れんで解放してくれるはずもない。俺が死ぬまで苦痛を与え続けるんだろう。俺もここで死ぬんだ。もう妹や母さんに会えないんだ。そう思った。
そんな時突然、拷問を止めに2人が乱入してきた。その1人の名はルキウス。正義教団の幹部にして、なんと王の実の弟でもある。もう1人はその王の妃であるネヴィア王妃だった。
にも関わらずヘリスは何食わぬ顔でまだ俺を拷問するつもりだった。
この時、俺の身体はもう既に悲惨な状態だった。大量のナイフを身体中に刺され、手足も取れてしまうくらいに抉れるほど斬られていた。そんな状態でよく死ななかったなと思った。
とはいえ、もう意識は朦朧。もはや息を吸うことすら満足にできなくなるくらいだった。
まさに死の直前、ルキウスはヘリスに体当たりをして、ネヴィア王妃は俺に回復ポーションを飲ませ、血を止めたあと、取れかけた腕を氷魔法で一時的にくっつけてもらった。
ルキウスとネヴィア王妃によって、間一髪なんとか生き延びることができた。
その後、俺は集中治療室で身体中の傷を全て癒やしてもらい、腕も完全にくっついた。
ある日、ルキウスが俺のお見舞いに来てくれた。
俺の調子を聞いたり、最近起きた国のニュースを話してくれたり、自分の思想を語ったり、美味しそうな果物もくれた。
ルキウスはとにかく良い奴だった。
ヘリスに罪があったとはいえ怒りのままヘリスを殺しにいってしまった俺も俺なのに、ルキウスは俺の味方をしてくれた。
どうやらルキウスもネヴィア王妃も、ヘリスが妹と母さんを植物状態にさせた事は分かっていたらしい。
だからこれからヘリスに問い質しに行こうとしたら、ヘリスが俺を連れて防音室に行くという情報を掴んで、急いで防音部屋へ乱入し、ヘリスを止めてくれたというわけだ。
俺がもっと冷静だったら、ヘリスは捕まって俺は拷問を受けずに済んだのに……。
今ヘリスは行き過ぎた正当防衛の罪で尋問を受けて牢屋に収監されているらしい。その後裁判があるが、防音部屋の血痕の数と年季の入った道具を見る限り、拷問をされたのは俺だけではなく、きっと多くの人が犠牲になったのだろう。
ここまでの事をやれば恐らく死刑になる。正義教団はそういうのには本当に厳しいからな。
案の定ヘリスは死刑になった。調べてみるとどうやら犯罪者だけではなく、何の罪もない一般人や騎士にまで手を出したらしい。
その罪はあまりに大きい。正義教団じゃなくたって、犯罪者とするだろう。
――で、それからはまた命令を下されるだけの日々に戻った。妹と母さんは相変わらず植物状態のままだが、まだ生きている。医療的には2人を治すのは難しいが、世の中には未知の魔法がある。その魔法で治せる可能性が残されている。それだけでまだ俺は動ける。
ある日、俺に命令をしてきたあの尋問担当は突如姿を消した。
なぜかは分からないが、書き置きも無しに急にいなくなったそうだ。
なので、そいつの代わりにネヴィア王妃が俺に命令することになった。
その際に、ネヴィア王妃は俺だけに自分の正体を明かした。
その正体を聞いた時も頭がおかしくなりそうなくらい信じられなかったが、今もとても信じられない。他の奴に話してもきっと信じてもらえないだろう。それほどまでにありえないことなのだから。
ネヴィア王妃は今後の方針を話した。
まず俺は指示があるまで“イーブル”と名乗ること。
これから正義教団の国から脱国し、とある盗賊団に入って、盗賊団団長の指示通りに動くこと。この盗賊団団長はネヴィア王妃であり、その目的はただ単に盗賊業をするってわけではなく、ネヴィア王妃が敬愛する“ある人”の為だそうだ。ちなみにその“ある人”とはルシウス王の事ではない別の誰かのようだ。
その“ある人”の名は■■■■■。俺もそいつとは後に対面することになり、俺に色々な魔法を教えてくれる。
■■■■■の目的は、これから現れる“ある男”の抹殺。その為にまず盗賊団を作って舞台を整えるとか言っていた。具体的にどういう計画なのかまでは話してくれなかった。万が一にも計画が漏れれば全てが破綻するからだと。
まあ分からんでもない。俺ももしその立場ならそうするかもしれない。
ただその抹殺対象者の情報は少し貰った。
外見はパッとしないごく普通の16歳の少年。
身長166センチ、体重は45〜50キロの痩せぎすの男。
そいつの名は――――ダスト。
よく分からないが、こいつを殺すことで■■■■■の目的は果たされるらしい。
そして、この計画が成功すれば、その報酬として妹と母さんを元の状態に回復してくれるそうだ。
俺は決意した。たとえそれが正義に反する行為であっても、俺は――いや俺様は悪になって、目的を果たして、日常を――家族を取り戻すんだ!
――それから俺様は盗賊団のイーブルとして、様々な場所に赴き、破壊し、盗賊団らしく盗み、時には魔王城で聖剣使いを襲うフリをしてターゲットに不意をついたり、その仲間達を襲ったりもした。
300年後には正義教団へ戻り、再びエレックとしてダスト達と敵対した。これも全部あいつの言った通りの結果となった。
そして今、■■■■■の言った通り、魔王の転移魔法で魔王城へ避難させられ、命令通り、時魔法を使ってダストを精神的に追い詰めてから殺そうとしたが何者かに先を越されて失敗した。ダストは殺されたから目的は果たされたように思えたのだが、どうやらこのタイミングでその何者かに殺された場合は、ダストは死なずに過去に戻ってしまうので失敗だそうだ。というか、そもそもこうなる前に殺してほしかったようだ。
そうなった場合のプランとして、ダストととても親密なプラチナとブラックの娘たちをダスト殺しの犯人だと言って殺そうとしたのだが……ケールとかいう女がやってもいないのにやったとか抜かしたせいで、これも失敗に終わり、それならせめて■■■■■から貰った壊れた歯車の力で皆殺しにしようとしたら、突然頭の中にケールに銃殺された記憶が流れてきた。それも1083回も同じような記憶が俺に襲いかかってきた。
どうやら俺の時魔法が発動したままになっていたらしく、時魔法がバグるまでループし続けていたようだ。
そのせいか力が入らなくなり、身体にとんでもない激痛を覚え、血を吐き、倒れた。
――今はどこかの部屋で1人監禁されている。そりゃ仲間を襲ったんだから当然か。
■■■■■やネヴィア王妃からの連絡も無いし、俺様も自力でここから抜け出せないし、そもそも外に出れないから詰んでる。もうどうすることもできねえ。
――だが、この状況も■■■■■の想定通りだ。こうなった場合のプランもちゃんとある。
もし俺が時間内に誰も殺せなかった場合、あいつがここにやってくる。
あいつが来れば確実に魔王城は終わり。そうすれば目的を果たしたも同然だ。
ハハハ、楽しみだぜ、その時が。
第279話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




