第278話『かつて正義だった悪党の独白』
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《エレック視点》
俺様は正義教団の国に生まれ、ただの国民として家族と平和に過ごしていた。
何も最初から悪党だったわけじゃねえ。ある出来事がきっかけで俺様は……悪になった。
――俺の名前はエレック。母さんと妹の3人で暮らしていただけのごく普通の人間だ。……ただ俺には騎士としての才能があった。
ルシウス・ペンドラゴン。
あの人が俺の元にやってきたある日。そいつは俺の才能を一目で見極め、俺に入隊を薦めてきた。
その当時の俺は戦いや血を流す事が好きではなかった。でも騎士になったら嫌でも戦わなければいけない。だから最初は断ろうと思ったのだが、もし俺が入隊してくれれば報奨金をたんまりくれるとのことだった。
母さんが悪いわけじゃないが、うちはお世辞でも裕福とはいえず生活も苦しくなるばかりの日々だった。だから俺は乗り気じゃなくても母さんが少しでも楽になれるのなら……と思い、入隊を決意した。
それからの日々は大変だった。毎日毎日ひたすら訓練訓練訓練。訓練以外の時間は正義とは何かを勉強させられる。今思えばあれは洗脳だったんだろうな。じゃなきゃ、正義の為なら人を殺すのも仕方がないとか、強さとは正義なんてふざけた事を抜かさんだろう。
全くバカバカしい。内心ではそう思いつつ、俺は良い子ちゃんみたいに上に従った。このまま俺が我慢し続ければ俺の家族はみんな幸せになると信じて。
……まあそんなわけなかったけどな。
ある日、訓練していた時、突然俺に拘束命令が下され、5人がかりで拘束されてしまった。俺が何をしたんだと叫ぶと、俺を拘束してきた内の1人が『お前の妹が挨拶をしなかった。挨拶をしないのは正義じゃない。だからその犯罪者である家族のお前も罪人だ。分かったな?』と訳の分からない事を言ってきた。
この国では挨拶をしない事は罪になる。ただ厳重注意を1回行って更生してくれば罰はある程度緩和するという猶予がある。
しかし俺の妹は注意を受け入れるどころか逆らってしまった。だから妹は犯罪者になってしまったというわけらしい。
いや確かに正義の授業では“たとえ家族であっても犯罪者であればその家族も容赦なく罰する事になる”とかほざいていた。
だから俺はたまに家族の元へ帰ると、口を酸っぱくしてルールだけは絶対守ってくれと懇願するように母さんと妹に言った。
母さんも妹も俺の話しを真剣に聞いてくれたし、頷いてくれた。
それに元々2人共真面目な性格なので、とても犯罪をするようには思えなかった。
だから俺は何かの間違いではないのかと訴えた。妹が理由もなしにこんなことをするはずがないと。
しかし誰1人聞く耳も持ってはくれなかった。
……後日、裁判が下され、妹の家族である俺と母さんは3か月間のただ働きを、妹には死刑が宣告された。ただし、妹はこれまで犯罪履歴は一切無かったので、妹が完全なる悪人だと認定された場合ではないと死刑は執行されないことになった。
認定されるまでは地下牢に収監される事になる。
俺も母さんも納得できなかった。ただ働きされられることじゃない。妹に死刑宣告が言い渡されたことにだ。
なぜ挨拶をしなかっただけで死刑にされなきゃいけないのか?
いくらルールとは言っても、俺達は人間だ。時には間違うことだってある。しかもたかが挨拶だ。人を殺めたわけでもないし、他の誰かに迷惑をかけたわけでもない。猶予くらいくれてもいいのではないか。
だが俺のその訴えは即座に取り下げられ、俺は判決に逆らった罰として、気が失うまで正義の鉄槌を受け続けた。
目が覚めると、俺は灯りもない暗い部屋の真ん中で椅子に座らされロープで縛られていた。
なぜ俺はこんなところにロープに縛られている? 無論俺にこんな趣味はないので自分でやった覚えもない。まさか正義を掲げるこの国が必要以上の監禁を容認するわけもない。もしかして他の誰かに誘拐されたのかと思い、ロープを解こうとすると、ドアの開いた音が耳に入り、誰かが足を踏み入れたのを感じた。
入ってきたそいつは誘拐犯ではなく、この国に仕える騎士で、どうやら今回の俺の尋問担当らしい。残念ながらこの国は思ったよりも闇が深いと感じた瞬間だった。
そいつは早速、俺に色々と聞いてきた。妹はどんな奴だとか過去にどんな犯行をしてきたとか。
仕方ないので俺は正直に妹の事を話した。
妹が理由もなしにそんなことをするわけがない。根はとても真面目でルールも破ったことがない。そんな妹が挨拶をしなかったのは何か訳があると言った。
しかし尋問担当はやはり聞く気もなく、妹の悪い所をなんとしても炙り出そうとする。
だけど妹に悪い所なんてない。何度も言うが妹はとても真面目な奴だ。犯罪なんて絶対起こさない。正義という言葉に最もふさわしい人間なのだ。
それなのに……。
なかなか妹の悪評を話さない俺に尋問担当は苛立ちを覚えた。
こいつからすると、なんとしても妹の下劣な部分を兄の口から吐かせて、妹を悪人にしたいのだろう。そうじゃなければこんな無理やり過ぎる尋問はしないはずだ。
なんでそこまで妹を悪人にしたいんだろう? いくらルール絶対主義の国とはいえやり過ぎではないか? むしろ無理やり妹を悪人にさせようとしているあたり、そちらの方がよほど正義らしくないのではないか?
そもそも、この事態をルシウス王は知っているのだろうか?
あの王はこの尋問クソ野郎と違って話しが分かりそうだ。
俺は王との対話を求めた。しかしタイミングが悪く、今は遠くの地へ赴いているようだ。いやむしろこのタイミングを狙ってこんなことをしているのかもしれない。
罪人を罰すればその分手柄になる。上を目指したい者であれば手柄は多ければ多いほど幹部へ昇進する可能性も上がる。しかしそれはあくまで正当な方法でなくてはならない。少なくともこうして無理やり妹を罪人にしようとしているのは正当ではない。こんなことがバレれば逆に罪人にされてしまう。
だが王のいない今なら、バレなければ全てが正当となる。この尋問も知られなければこいつが罪人として罰せられる事もない。
じゃあ俺がこの事実をいつか帰ってくる王に話せばいいのではないかと思ったのだが、王が帰ってきたとして、仮に俺が妹が無理やり罪人にさせられようとしていると訴えたとしても、王は尋問担当の言い分を信じるだろう。
この国はいわゆる縦社会だ。上が絶対であり、正義である。もちろん決定的な証拠とかあれば話しは別だが 俺より階級が上の尋問神官がそうやすやすと証拠を残してくれるわけもないだろう。
だから、今俺ができる事は妹はやってないと言い続けることだ。
そう思った俺は妹の罪の緩和を求め続けた。何を言われようとも、たとえ俺が犯罪者になろうとも――
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