第277話『鋼の精神』
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見る見る内にエレックの身体はおぞましい化物へと変貌を遂げる。
『ハーハッハァ! ドウダコノウツクシイスガタハ! オソレオノノケゴミドモガァ!!!』
エレックは殺戮ショーの始まりだ! と言わんばかりに咆哮を上げた。
その咆哮によってとてつもない強さの風圧が流れ、椅子や机、厨房の調理器具等はもちろん、頑丈な壁や天井の一部が破損した。
『くっ……なんて風圧だ……』
大抵の人はその強すぎる風圧には抗えず吹き飛ばされないようにするのが精一杯だ。……最強クラスの3人を除いて。
『ハハハハハハハハハハハハ!!! サテ、マズハダレヲコロソ――』
エレックが本格的に暴れ出すほんの5秒前――ケールが放った弾丸がエレックの頭を貫いた。
その後、エレックは息を吹き替えす事なく化物になったまま静かに眠った――かに思われた。
『あれ?』
ケールは違和感を覚えた。
気がつくと、先ほど射殺したはずのエレックが化物の姿ではなく人間の姿の状態で、先ほどと同じようにルキウス達に剣を向けられていた。
(これさっき見た光景だよね〜? どういうこと〜?)
周りをよく見ると、先ほど破壊されたはずの椅子や机等がまるで何事も無かったかのようにキレイな状態に戻っていた。
(これってもしかして……)
ケールは、エレックが化物に変わる直前に言っていた事を思い出した。
“本当なら俺様の時魔法で俺様が勝つまで永遠に時を戻し続ける禁断の魔法をてめら全員にかけるつもりだったが“
(察するにこれが時魔法か……恐らく自分を殺した相手のみを対象に時が戻るということかな? 私以外の皆もさっきと同じ動作しかしてないから覚えているのは私だけみたい。……なるほどこういう魔法なんだね。……でもエレックはいつ魔法を発動したんだろう……?)
個人差はあるが、壊れた歯車が発動してる状態だと、暴走状態にあるため理性が無くなりやすい。故に自分自身が覚えている魔法を発動しづらいのだ。にも関わらず発動できたということは、鋼の精神を持っているか、何か別の力が働いていると考えていいだろう。
『フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! 本当なら俺様の時魔法で俺様が勝つまで永遠に時を戻し続ける禁断の魔法をてめら全員にかけるつもりだったが、どうやらそれも対策されてるようだからなあ! あいつから貰ったこの力でてめら全員皆殺しにしてやるよ!!!』
(あ、この台詞……さっきと同じだ。ということはまた同じように――)
ケールは銃を構え、ヘッドショットを決める体勢に入った。
『壊れた歯車起動! タイプは……“ベルゼブブ“!!』
見る見る内にエレックの身体はおぞましい化物へと変貌を遂げる。
……案の定、3分ほど前に見た光景と全く同じだった。
ケールは試しにもう1度弾丸をエレックの頭に撃ち込んだ。
すると――
『エレック、なぜだ……確かに今のエレックは昔のエレックのように素行が悪いし、いつも他の騎士に喧嘩ばかり売っているような問題児だったが、決して弱い者を狙ったりしたこともなく、ただ自分の意志で正義教団の非道なやり方に異を唱えていたお前が……なぜこんなことを!』
『そりゃお前、他の誰のためでもないこの俺……俺様の目的のために決まってるだろうが』
『なんだと……? でもお前は――』
またしてもエレック(人間の姿)はルキウス達に取り囲まれていた。台詞も一字一句違えることなくループ前のやり取りと一致している。
(う〜ん、またかぁ……机と椅子もまだ無事だし……)
『フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! 本当なら俺様の時魔法で俺様が勝つまで永遠に時を戻し続ける禁断の魔法をてめら全員にかけるつもりだったが、どうやらそれも対策されてるようだからなあ! あいつから貰ったこの力でてめら全員皆殺しにしてやるよ!!!』
(この台詞も3度目だよ〜)
その台詞のあと、エレックは例の如く化物へと変貌を遂げた。
そしてケールはまたエレックの頭を撃ち抜く。
すると――
『人の為になんて誰が動くかよ! 人様の幸せなんざクソ喰らえだ! 幸せになっていいのは俺様と――』
(これで4回目だ。やっぱり一字一句全く同じやり取りだ。またエレックを撃っても同じことを繰り返すことになる……となると……今度は撃つタイミングを変えてみようかな。そうすればこのループを脱することができるかもしれないし)
ケールはそう思い、今度はエレックが化物に変化する前に頭を撃ち抜いてみた。
しかし、またしてもループした。
次はエレックが化物になってから少し経ったところで頭を撃ち抜いた。
しかし、またしてもループした。
次はエレックが化物になった瞬間に足を撃ち抜いてから、頭を撃ち抜いてみたが――
またしてもループした。
その後もケールは考える事を止めず、銃を握る手を一切緩めずに撃ち続けた。少し時間をずらしながら、撃つ部位を変えたり、時には桐華の武器を借りて止めを刺したり、魔王に頼んでエレックを修練場に転移させてから撃ったり、赤髪ちゃんにパンツを見せてから撃ったりと思いつく限りのパターンを片っ端から試した。
――常人なら10回を超えたあたりから音を上げ始め、20回あたりで感覚がおかしくなり、50回あたりで精神崩壊を起こすだろう。
――しかしケールがこなしたその数なんと1082回。しかもほんの一時すら心が折れることなく、ただループを脱する事だけを考え、撃ち続けた。どんなに希望が見えなくても諦めることは無かった。
まさに鋼の精神。
力だけではなく精神すら最強。
そこがケールの魅力の1つであり、狂気でもある。
(ふぅ……これで何千回目だろう……もう250超えた辺りで数えるのをやめたけど……まだダメか。うーん、魔法無効の結界も試したし、無理やり外にも出てみたけどやっぱりループしたしな……ん?)
『はぁ……はぁ……なんだこれ……?』
ここでいつもならエレックは醜悪な笑みを見せながらルキウス達に包囲されいるのだが、今回に限っては苦しそうに息を切らしていた。これは今までに無いパターンだった。
『どうしたエレック?』
エレックの様子が変だと気づいたルキウスは剣を向けたまま近づこうとする。
『……いや何でもない。とにかくお前らをな……今からこの俺様が……殺してやるよ……』
いつもの殺戮宣言もまるで覇気が無く、こちらに緊張感が走らない。
エレックは恒例の化物に変化する儀式のようなものを行い、予定通り化物に変貌を遂げた。
(結局いつも通りか)
ケールはエレックの頭に銃弾を撃ち込んだ。
すると――
またしてもループした……しかし――
『ぐっ……』
今度は息切れではなく、まるで腹を殴られたようにお腹を押さえて踞ってしまった。
『どうしたエレック!』
『う……うおおおおおおおおお!!!』
エレックは叫びながらいつもの化物に変わる儀式を行った。
(やっぱりさっきと何か違うね……もう1回やってみるとどうなる……?)
ケールがまた弾丸を撃ち抜くと、またループしたが――
『エレック……?』
エレックは無表情で呆けたまま……突然血を吐いた。
『…………ぐはっ!』
エレックは何も喋ることなく、壊れた歯車を発動することなく、そのまま地に伏せた。
その後はループすることなく、ただ倒れたエレックを皆が困惑しながら見つめ、運び込まれる光景が流れるだけ。
――こうしてケールは1084回目にしてついにループを脱することができた。
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