第276話『……はぁ、もういいや』
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――現在、皆が一堂に会している食堂にて。
“全てが解決する“
ゴールドちゃんのその一言をどれだけ信じられるかは人によって異なるが、少なくとも真剣な眼差しを向けて話していたゴールドちゃんを見て不穏な印象を抱くものはいないだろう。
大抵の者は殺人鬼の言葉など信じるに値しないが、いつもと雰囲気が違うゴールドちゃんを見た時、ゴールドちゃんはきっと何かを背負っている。何か訳があるんだ。そう思わせられる程に信じさせるカリスマ性とただの可愛い女の子とは思えない程の勇ましさとたくましさ。ゴールドちゃんにはそれがある。
故にゴールドちゃんに質問する者はいても反論を唱える者はいなかった。……ただ1人を除いて。
『ある男が解決する……ですか……バカバカしい。何か策があるのかと思いきやまさかの他力本願ですか。せめて自分の罪を誤魔化すならもっとマシな嘘をついてください』
『嘘じゃねえよ。アタシはどっちかと言うと嘘をつくのは苦手なんだよ』
『そんなこと知りませんよ。あなたが今嘘をついていることには変わりないでしょう? そうやって我々を騙そうと――』
『エレック。いい加減にして下さい』
未だに1人だけゴールドちゃんを疑い続けるエレックに少し怒りを覚えたルキウスが話しに割り込んだ。
『ゴールドさんは嘘をつくような方ではありません。もしゴールドさんがそんな非道な方なら、殺人を誤魔化そうともっと言い訳をするはずです。抵抗するはずです。にも関わらず彼女は自らの行いをきちんと話しました。それはゴールドさんが真面目で誠実な方である証明になりませんか?』
『それならなぜもっと早く自白しなかったのですか? 罪から逃れようと思ったからなのではないのですか? ルキウス、正義教団の中ではあなただけはまともな人間だと思っていましたが……残念ですよ。まさか殺人鬼の肩を持つとはね……』
『確かにゴールドさんは本当にダストを殺したのでしょう。殺人自体は私も同感し兼ねます。何の罪の無い尊い人の命を奪うなんて決してやってはいけないこと。それは正義教団であろうがそうでなかろうが同じです』
殺人という罪そのものはあってはならない。責められて当然である。それはルキウスも思っている。
もしゴールドちゃんが自身の欲だけの為に殺人を犯したのならルキウスも絶対に擁護はしないし、むしろエレックと共にゴールドちゃんを取り押さえたり、尋問したりするだろう。
しかし今のゴールドちゃんの誠意な態度を見てルキウスは、ゴールドちゃんがどうしても殺人を犯すような悪だとは思えない。
『でもゴールドさんは私欲の為に人を殺すような方ではありません。それは私が、私の眼が保証します』
これでもルキウスはかつて幹部として何百何千の部下の面倒を見てきた。その1人1人の性格や仕草や得意な戦術なども把握している。それ故に観察眼がこの場の誰よりも優れている。
そんなルキウスがゴールドちゃんを善人だと見ている。これに間違いはない。これがゴールドちゃんが善人であるという証明。紛れもない事実である。
それはエレックもルキウスとはそれなりに付き合いが長いので分かってはいる。だが今の彼にはどうしても譲れないものがある。その為なら彼は――
『……はぁ、もういいや』
もう反論しても無駄だと議論を放棄したエレックは丁寧な口調を崩し、態度もまるで不良少年のように豹変した。そんな180度変わったエレックを見て周りも少し動揺している。
『エレック……? どういうことですか?』
エレックはルキウスの質問を無視し、懐に仕込んでいたナイフを取り出し、近くにいたシルバーちゃんに襲いかかろうとした。
『シルバーちゃん!』
『危ない!』
不意だったのでシルバーちゃんもとっさには動けず、このままではナイフの先端がシルバーちゃんを貫いてしまうだろう。
『そんなことさせるか!』
『まーちゃん! そいつを殺さない程度に腕を攻撃してくれ!』
『……!』
ゴールドちゃんの言葉を聞き入れた魔王は雷魔法を発動し、まさに雷の如く疾くエレックの腕を貫いた。
『ぐおっ!』
これ以上は攻められないと思ったエレックは一旦下がり、雷魔法によって空いた傷口をもう片方の手で塞いだ。
『くそっ……はぁ……はぁ……あの金髪のガキ……どうして分かったんだ? それとも偶然か?』
『そこまでだ!』
エレックは気がつくと、自分よりも戦闘能力が高い者達に包囲され、下手に動けない状況になった。
『動くなエレック!』
ルキウスを筆頭に続々と剣や銃をエレックに向けて牽制した。
『ちっ……なんだよそれ、聞いてねえぞ』
それでもエレックは諦めずに突破口を頭の中で探し続けた。――たとえどんな手段であろうと。
『シルバー!』
『シルバー姉!』
『シルバーちゃん!』
『シルバー!』
シルバーちゃんの家族達は1人残らず、シルバーちゃんの元に駆け寄った。
『シルバーちゃん大丈夫!?』
無論、シルバーちゃんは襲われかけただけで傷1つついてない。
『うん、私は大丈夫だよ』
『良かった……!』
シルバーちゃんが心配でたまらなかったプラチナは、シルバーちゃんを抱きしめた。――もう離さないと。
そんな家族の愛を爆発させている一方で、エレックを取り囲んでいるルキウス達は――
『エレック、なぜだ……確かに今のエレックは昔のエレックのように素行が悪いし、いつも他の騎士に喧嘩ばかり売っているような問題児だったが、決して弱い者を狙ったりしたこともなく、ただ自分の意志で正義教団の非道なやり方に異を唱えていたお前が……なぜこんなことを!』
『そりゃお前、他の誰のためでもないこの俺……俺様の目的のために決まってるだろうが』
『なんだと……? でもお前は……』
『人の為になんて誰が動くかよ! 人様の幸せなんざクソ喰らえだ! 幸せになっていいのは俺様と――』
と言いかけたところでエレックは口を閉じた。
『――いいや何でもねえ。とにかくだ、俺はどうしてもここにいる全員を殺さなきゃならねえ。その為なら俺は――』
エレックはシャツを脱ぎ捨て、自分の身体に刻まれた“羽のついた怪物”のような奇妙な紋章に先程流した自分の血を染み込ませてから、人の耳ではとても聞き取れない高速詠唱をし始めた。
『おい何だ……それは……?』
『エレック……?』
刹那――エレックの身体の紋章からドス黒い色のオーラが勢いよく噴射し、身体全体を包み込んだ。
『なんだ……? 何が起きてる!?』
この場の誰もが見たこともない不気味な光景に、一同は戸惑い、恐怖し、警戒し、己の武器を向ける。
『フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! 本当なら俺様の時魔法で俺様が勝つまで永遠に時を戻し続ける禁断の魔法をてめら全員にかけるつもりだったが、どうやらそれも対策されてるようだからなあ! あいつから貰ったこの力でてめら全員皆殺しにしてやるよ!!!』
エレックの身体を包む闇のオーラが消え去ると、エレックの背中に黒い羽が生えていて、腕も人間のものではない黒い、とにかく黒い、まるで羽虫のように先端が細く尖っている。
もはや怪物。いやこれは――
『“壊れた歯車”起動! タイプは……“ベルゼブブ“!!』
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