第266話『死人に口なし心もなし』
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ダストの死亡が魔王城中にアナウンスされてからすぐのことだった。
その事実をどうしても受け入れられなかったブロンズちゃんは、ダストの遺体が運ばれた医務室へ誰よりも早く走っていった。
『嘘だ』『そんなわけない』『どんなに危ない所でもなんだかんだ生き残って帰ってきたあのお兄ちゃんが死ぬわけなんてない』
今のブロンズちゃんにどんなに言い聞かせようとしても、そう言い返して聞く耳を持たないだろう。
ブロンズちゃんが息を切らしながら医務室の扉をバンッ! と勢いよく開けると、そこには悲しげな表情を浮かべる魔王(幼女)と相変わらず無表情だがどこか悲しげに見えるケールが、ダストを乗せたベッドを囲んでいた。
『ブロンズちゃん……』
この時、魔王とケールは何を思ったのだろう。予想はしていたが、とうとうダストの元へやってきてしまったブロンズちゃんを見て、なんとも言えないような気まずい空気になってしまった。
ブロンズちゃんは2人の心を読む前に、ベッドに横たわるダストの身体をじっと見た。するとブロンズちゃんは笑みを浮かべた。
なぜなら、先程のアナウンスによるとダストは血を流して死んでいたはず。しかしそのダストは血を流してなんていなかった。つまりこれはドッキリなんだ。普段いたずらばかりする私を逆に驚かせてやろうと魔王城ぐるみで騙していただけなんだ。ブロンズちゃんは自分を騙すようにそう思い込んでいた。
だが残念ながらこれはドッキリでもなんでもなく事実だ。ダストが今、血を流していないのはただ単にケールが止血したからに過ぎない。
少し冷静に考えればわかることだが、今のブロンズちゃんは冷静さなんて一片も持ち合わせていない。何を言われようと都合よく解釈するだろう。
『ブロンズちゃん……ダスト君は……』
『分かってるわ、本当はただ寝てるだけでしょう? もうみんなで私を騙そうだなんて』
『……ううん。ダスト君はもう――』
『嘘つかないでよ、まーちゃん』
『嘘だと思うなら儂ら3人の心を読んでみてよ』
『分かったわ』
ブロンズちゃんは魔王に言われた通りに3人の心を読もうとした。しかし心を読めたのはダストを除く2人だけだった。
『あれ……おかしいな。なんでお兄ちゃんの心は読めないんだろう……』
ブロンズちゃんはダストの心を読もうとしたが、どう頑張ってもダストの声は聞こえなかった。
心が読めないということは、そこに心が無いということだ。人は生きている限り心があるものだ。心が無い人間などいない。
それを意味するものはつまり――ダストが死んだという確実な証明。思い知らされた非情な現実。
『あはは…………嘘だよね? 私をからかってるのよね? 分かったからもうやめてよ……こんな冗談は……』
冗談であればどんなに良かっただろう。魔王もケールもそう思った。
ブロンズちゃんもようやくダストの死を受け入れはじめたのか、目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
『ブロンズちゃん……これは冗談なんかじゃ――』
『なんで……なんでよ……なんでお兄ちゃんが……』
ダストが死んだと完全に受け入れたブロンズちゃんは膝から崩れ落ちた。
それと同時にゴールドちゃんとシルバーちゃんとプラチナも医務室にやってきた。
『う……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
ブロンズちゃんは魔王城全体に響き渡るような勢いで泣き叫んだ。これまで流した涙とは比べ物にならないくらいに号泣した。
『……』
しばらくしてブロンズちゃんの涙は枯れ果てた。だが心の中ではまだ涙を流しているのだろう。
誰よりもダストに好意を抱いていたブロンズちゃんの悲しみは計り知れない。
『……しばらくこもる』
立ち上がった後そう言って、足元がおぼつかないまま自室へ戻ろうとした。
『ブロンズちゃん!』
あまりにも不安定なブロンズちゃんを放っておけないと、シルバーちゃんは率先してブロンズちゃんの側に寄り添った。
『シルバー……姉……』
虚ろな顔でお姉ちゃんを見た。
シルバーちゃんも300年以上も妹と過ごしていたが、こんな顔は初めて見たのでどう接すればいいのか少し迷っている。
シルバーちゃんもダストの死が悲しくないわけではないので内心かなり動揺している。なんなら今にも泣きたいくらいだろう。
かつてダストから“泣いたっていいんだよ”と言われたことがある。
確かにこういう時は泣いたほうがいいのだろう。そうすれば楽だからだ。正義教団はそれを許さなかったが、ダストはそれは悪じゃないと言ってくれた。
でも今はブロンズちゃんを支える時だと、私だってお姉ちゃんなんだと自分を鼓舞した。泣くのは後にして、今はブロンズちゃんに精一杯寄り添うと決めた。
『……行こう、ブロンズちゃん』
シルバーちゃんは泣きたい気持ちを抑えて、代わりに優しい表情を浮かべながらブロンズちゃんに肩を貸して、その場をあとにした。
それからケールは事件解明の為、ダストの死体を調べ上げた結果、死亡推定時刻を今から1時間前と断定した。
1時間前に何者かがダストの胸に刃物のようなもので刺したのだと思ったが、その刃物はどこにもなく、犯人が持ち去った可能性を考えた。
早速、持ち物検査をしようと、ブロンズちゃんとシルバーちゃんを除く全員を食堂にアナウンスで集めたのだが――。
『あれ? パーシヴァルとマーリンは?』
ぞろぞろと人が集まる中、2人の姿だけが無かった。
『そういえばいないな。朝からずっと』
パーシヴァルもマーリンも食堂で朝食を取っていたところは何人かが目撃しているが、それ以降の姿を見ていなかった。
『パーちゃんは、元々ダスト君に魔力を送ってもらって生かされてたから……恐らくはもう……』
パーシヴァルは元々死人だ。ケールの言う通り、ダストの蘇生魔法“アンデッド”によってパーシヴァルは生かされていたのだ。しかしそのダストが死んだとなると、必然的にパーシヴァルの生きる源が断ち切られ、すぐに死を迎えることになってしまうだろう。
『じゃあマーリンは?』
『マーリンは知らない。自室にはいなかったのか?』
『さっき調べてみたけどいなかったぜ』
『他の部屋にもいませんでしたね』
『娯楽施設や浴場にもいなかったよ』
『えぇ……じゃあどこにいるの……?』
『マーリンさん……もしかして……』
マーリンがこのタイミングで行方不明になった事で、みんなからのマーリンへの疑いの目が強くなった。
だがルキウスは、そんなマーリンを擁護する発言をした。
『あの、確かにマーリンはろくでもない人ですが、罪のない人を殺すような外道ではありません』
『じゃあ、なんで呼んだはずなのに来ないんだ?』
『おそらくまた魔法の実験に熱中するあまり、アナウンスが聞こえてないのでしょう。マーリンはそういう人です』
『なるほど……確か秘密の部屋に居たときもそうだったよな』
『ええ、ですが今回は自室にはいないということでしたね』
『そうだね……』
『ということは……どこかに誰も通らなそうな空き部屋とかありませんか?』
『あるよ……ダスト君が殺された付近の部屋がね』
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