第265話『事件の始まり』
皆様
大変お待たせしました。
色々ありましたが、第265話の執筆が完了しました。
更新が遅くなってしまい本当に申し訳ございませんでした。
――ダストの死体が発見される直前の昼時、食堂にて。
『うまいな、このゴオヒィ? というやつは。この苦味がくせになる』
朝からずっと食堂に入り浸っているケイは生まれて初めて飲んだゴオヒィの旨さに感動を覚えた。
『そうか? 俺それすげえ苦くて砂糖めっちゃ入れちまったよ』
同じく朝食を食べた時から食堂にずっと居続けたフランが、苦い顔をしながらそう言った。
一緒にいるケンとシュタインはそんな兄を微笑ましく見ていた。
『フランは苦いのは苦手か、まあまだ子供だもんな』
『う、うるせー! 俺だってゴオヒィくらい……!』
フランは意地を張って、砂糖なしゴオヒィを勢いよく飲み干した。
『うっ……に、苦いいいいいいい……!』
『もう……無理すんなよ兄貴』
『そうよフラン。それ私だって砂糖なしじゃ飲めないもん』
『うぅ……』
フランは、大人の階段を登れなかったのが悔しくて、両手で握り拳を握りながら、机に突っ伏した。
一方でそんなフラン達を横目にアリスはアミさんとケーキでも食べながら談笑していた。
『このケーキ美味しいね』
『そうですね! アミさんを見ながら食べるケーキは最高です!』
『アリスちゃん?』
一方、厨房にいるゴールドちゃんとシルバーちゃんはそんな光景を見守りながら、みんなの昼ご飯と夕ご飯の準備をしている。
『ここは平和だな』
『お姉ちゃん? 突然どうしたの?』
『え、あ、いや、外はすげえ大変な事になってるのにさ……ここではあんな風に笑い合ったりしてるのを見てたら……なんて言えばいいかな、なんか温度差って言うのか……?』
ゴールドちゃんは、思っていることがうまく言葉にできなくて口がうまく動かないようだ。
シルバーちゃんは、そんなゴールドちゃんの手を握ってこう言った。
『お姉ちゃんの言いたいことは分かるよ。そうだよね、なんか不思議だよね』
『そ、そうだ! なんか不思議というか変な感じだよな! ってことを言いたかったんだ!』
確かに外は今、ゼウスの大量の雷のせいで世界は破壊されようとしている。それをここにいる魔王城のみんなは知っている。
しかし、ケイやフラン達のようにこうして食堂で笑い合ったり、ケイデスとブラックとレッドと桐華のように、ゼウス達に対抗するために少しでも力をつけようと修練場で鍛錬を積んでいる者もいる。
もちろん食堂組だって、世界が滅んでいいとは思っていない。ただ今は身体と精神を休ませたいだけなのだ。
ただでさえ先日まで正義教団の国で戦ってばかりでかなりの疲労を背負っている。
それは修練場組も一緒なのだが、疲労のしかたも重みも考え方も人それぞれだ。故にどういう過ごし方をしようが文句を言われる筋合いはないのだ。
まあ幸いなことに、この魔王城にいる人達はそんないちゃもんをつける奴なんていないので、そこで言い争いが起きることはない。
このままこの28人で絆を深めて力を合わせてゼウス達に立ち向かっていく。不安もあるがその先にあるものは勝利であると誰もが信じている。
しかしこのあと、非情にもその絆にヒビが入るような悲惨な事件が起こることも知らずに……。
『ゴールド姉、シルバー姉。そろそろ代わるわ』
ブロンズちゃんとプラチナが食堂の当番を代わろうとエプロンを着用しながら厨房に入ってきた。
『お、もうそんな時間か』
『ゴールドちゃん、シルバーちゃん、お疲れ様。ちゃんとお仕事できて偉いわ』
プラチナは頑張った娘たちの頭を撫でた。
『えへへ、お母さんありがとう』
シルバーちゃんは照れ混じりに笑顔を向けた。
『な"に"そ"れ"か"わ"い"い"!!!!!!!!』
プラチナは、シルバーちゃんの尊さにデスボイスのような声で叫んだ。その声は食堂の方にも聞こえており、みんな一斉に厨房の方へ顔を向けた。
『お母さん!?』
思わず喉が壊れてよろけかけたプラチナだったが、なんとか踏みとどまった。
『アブナイアブナイ……シルバーノアマリノカワイサニタオレルトコロダッタワ……』
プラチナの声はまるで風邪を引いた老婆のように枯れていた。
『ママ大丈夫? あ、大丈夫そうね』
ブロンズ様はプラチナの『そう不安にならないで、大丈夫、絶対に良くなるから』という心を読んだ。娘たち曰くプラチナがそう言う時は大体本当に大丈夫な時らしい。
『ブロンズちゃんが言うなら大丈夫そうだね。行こうお姉ちゃん』
『あ、ああ、そうだな』
ゴールドちゃんとシルバーちゃんはエプロンを脱ぎ、休憩に入ろうとしたが、その前に少し青ざめた顔をしたブロンズちゃんが2人を引き止めた。
『ねえゴールド姉とシルバー姉』
『どうしたの?』
『……ううん、やっぱなんでもない』
『そ、そう? 本当に大丈夫? 何かあったらいつでも相談してね。私だってお姉ちゃんなんだから』
『シルバー姉……ありがと。大好きよ』
『私も』
シルバーちゃんは、みんなにバレないように下を向いてこっそり頬を染めながら、その場をあとにした。
『可愛いわ、シルバー姉は』
シルバーちゃんが実は照れていることは、心を読まずともブロンズちゃんにはバレバレだった。
『アタシも休憩に入るよ。じゃあまたあとでな』
ゴールドちゃんも、シルバーちゃんの後を追う形で厨房をあとにした。
『さて……と、じゃあみんなの昼ご飯と夕ご飯の準備しよっかママ』
『うん、そうね』
ブロンズちゃんとプラチナは、それぞれ調理の準備に入った。そこで――
『あれ?』
ブロンズちゃんは調理器具置き場を見てある事に気づいた。
『どうしたのブロンズちゃん?』
『いや、あのね――』
ブロンズちゃんが何かを言いかけたところで、魔王城中に大音量で緊急アナウンスが流れた。
『みんな!!! 緊急事態だ!!!』
天井から魔王の声(幼女の方)が響き渡った。中には幼女フォルムの魔王の声を聞き慣れていない者も多数いるので、一体誰がアナウンスしてるんだと首をかしげている者もいた。
『なんだ? どうしたんだ?』
緊急事態という言葉を聞いては誰もが話しを止めて、そちらに注目する。
『なに、やだ……怖い……』
この時点で考えられる緊急事態とは、敵がこの魔王城に潜入してきたとか、ゼウスがこちらへ向かっている等、人によって様々な予想を張り巡らせるだろう。
しかし、その中で誰もが想像すらしない……いや想像したくないような事が起きた。
『ダスト君が……ダスト君が奥の廊下で血を流して死んだ!!!』
『え……?』
この衝撃的な事件は誰もが受け入れ難いものだった。
特に分かりやすいくらいダストに好意を持っていたブロンズちゃんや、ダストを知る魔王城メンバーや、旅の途中で出会ったメンバーと、平行世界でダストを尊敬できる隊長として慕わっていたメンバーも怒りや悲しみで震えていた。
――ただ1人を除いて。
第265話を見て下さり、ありがとうございます。
活動報告の方でも書かせて頂きましたが、体調・精神不安定の為、また更新が遅くなる可能性がありますが、幸い今は回復傾向にあるので更新ペースが戻ることもあると思います。
まあこればかりはどうなるか分からないので断定もできませんが、余裕がある時は一刻も早い更新を心がけて臨んでいきたいと思います。
色々と不安定で本当に申し訳ございませんが、完結までお付き合い頂けると幸いです。
何卒宜しくお願い致します。




