第260話『無人の図書室』
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第260話の執筆が完了しました。
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※文字数多めです。
『なんだか悲しい夢を見た気がする』
朝、目が覚めて身体を起こした俺は眼をこすりながらそう呟いた。
久々の天井。久々の魔王城での朝。
どれもが懐かしい。
前に魔王城で過ごしたのはいつのことだろうか?
あれから数百年と、あまりにも時間が経っている。
にも関わらず、魔王城で召喚されてから過ごした数日間を今でも鮮明に覚えている。
『さて、食堂に行くか』
洗顔をし終えた俺は身なりを整え、食堂へ向かう。
ドアを開けてみると、偶然にもケイが通りかかっていたところだった。
『おはよう、ダスト』
『おお、おはようケイ』
まるで同級生の友達のように挨拶を交わすと、俺はケイと軽く雑談をした。その後で、俺はバレスさんについて話しをしようとしたが――
『悪いがそれはバレスに聞いてくれ。いつかバレスから自分の正体について話してくれるだろうから』
あくまでその話しをするのは本人だと言う。バレスさんもどうやら複雑な事情があって、打ち明けるには勇気がいるようだ。
『おお、分かった』
俺も無理にケイから言わせる気などない。そういうことならバレスさんから話してくれるのを待つつもりだ。
話している内に食堂へたどり着いた。
ドア越しからでも騒がしい声が聞こえる。もう既に十数名居るようだ。
ドアを開けると、昨日まで治療室で寝ていたはずのゴールドちゃんとシルバーちゃんが、まるで何事もなかったかのように忙しなく厨房で料理を作っていた。
よく見ると、治療室で治療を受けていた人たちと看病していた人たちのほとんどが食堂で談笑しながら、それぞれ朝ご飯を食べていた。
昨日重症者が出たとか言っていたが、どうやらそれも無事解決したようだ。
全員命を落とさなかったのは最高だが、みんな回復力ありすぎでは? 食べると全回復できるありがたい豆でも食ったのかと疑いたくなる。
『ダスト君〜、こっちこっち〜』
1人で黙々と食べていたケールさんは俺を見るなり、ここに座ってと言わんばかりに、隣の椅子を3回叩いた。
『ダスト、美人のお姉さんのご指名のようだな。じゃあ俺はバレスの所に行くよ』
空気を読んだケイは、そう言ってガレ……バレスさんが使ってるテーブルの方へ行った。
バレスさん、1人で黙々と食べてるな。なんか雰囲気も暗いし何かあったのかな? それこそ悲しい過去を思い出したり……ってあれ? バレスさんからでもケイからも聞いたことないのに、何で急にそんな事が頭に浮かんだんだ?
……まあ今はいいか。それもいずれ分かることだろう。
さて、俺はケールさんの誘いを断る理由もないので、俺はケールさんの隣の椅子に腰掛けた。
ケールさんは相変わらずの露出度で胸元全開なので、ついそこに目線が行く。ケールさんの胸に釘付けなのは俺だけじゃなくて男女問わず周りのみんなもそうみたいだ。
だがやはりケールさんはそんなことなど一切気にしておらず、料理を次々とブラックホールの如く口に運んでいる。積み上げられた皿の数を見る限り、もうこれで10品は完食したことになる。それだけ食べれれば大したものだが、それでも箸の動きが衰えることはなかった。
ケールさんの大食いっぷりやべえ……。
これ魔王城の食料尽きたりしないだろうか……?
少なくなった食料を巡って争うの俺やだよ。それで最後の1人になるまで殺し合うのも嫌だよ? 漫画とかで見る分にはいいけど、現実で起こるのはホント勘弁だ。
『ダスト君、頼まないの〜?』
『あ、そうでした。えーとどれにしようかな?』
パン派の俺はトーストことストロングカリカリを頼んだ。
『それだけでいいの〜?』
『はい十分です』
食料問題を考えると多少はね?
『せっかく神の居城から食料分けてもらったんだから、遠慮なんてしなくていいのに〜』
『あ、そうなんですか?』
『うん〜、神様が今の状況じゃ食料の調達ができないだろうからって〜』
それはありがたい。
『でもそうなると、神の居城の方は大丈夫なんですか?』
『大丈夫だよ〜、あっちはこことは違って、全ての食料が無限に調達できるから〜』
『全ての食料が……?』
その全ての食料というのは、文字通り全てだ。肉、魚、果物、野菜等、我々人類が欲しているもの全てがある。その調達方法についてはケールさんもよく知らないらしい。
うーん、まあこの世界は元々ゲームの世界だし、そういうこともできるか。うん、深く考えるのはやめよう。これ以上は情報過多で吐き気がしそうだ。
俺は思考を一旦放棄し、ストロングカリカリを平らげ、ケールさんと軽く談笑した。
それから数分経つと、ケールさんはやっと箸を止めて、手と手を合わせた。
『ごちそうさま〜』
食べた料理の数は24。積み上がる皿を見て、周りの人達は驚愕を隠せない様子だった。
そうだよなぁ……俺も最初見たときは夢でも見てる気分だったな。まあ俺も今見てもまだ驚いているが。
『ねえダスト君、この後時間ある〜?』
『え、あ、はい。大丈夫ですが』
スケジュールは真っ白なので、時間ならありまくりだ。ぼっちなら普通普通。
『誰も来ないような所ってどこかにあるかな〜?』
『誰も来ない所ですか?』
『ちょっとあまり人に聞かれたくない話しなんだけど〜』
あまり人に聞かれたくない……もしかして……!?
『告白じゃないよ〜』
『あ、デスヨネ』
まあ分かってたよ。ケールさんはあまり恋愛に関心なさそうだし。
それに本当に告白されたら嬉しいんだけど、それはそれで本気で困る。今の俺はただでさえかなり複雑な心境にあるからな。
『うーん、誰も来なさそうな場所といえば、知ってると言えば知ってますが……』
その場所とは幻の図書室だ。以前、地の女神アースが居候していた場所だ。今、アースが居るのかは分からないが、どちらにしてもここならほとんど誰も来ないと思う。1番来てそうなシルバーちゃんも今は食堂で多忙を極めている。あと幻の図書室の存在を知っていて食堂にいなかったのは、ブロンズ様くらいだが、人とお喋りする事が好きなのに、わざわざ人の寄り付かない幻の図書室に行く理由なんてまず思いつかない。
『まあとりあえずその場所へ案内しますよ』
とはいえ、やはり誰かいる可能性もあるが、まあそれは行ってみないことには始まらない。
『分かった〜、よろしくね〜』
俺はケールさんを連れて、幻の図書室へ向かった。
その道中ですれ違ったのは霧の女神と幻の女神だけ。少しだけ話したが、どうやら娯楽施設で遊んだ後らしい。2神は俺達の行く先に興味など微塵も示さずにどこかへ行った。
俺達も2神の事は気にせずに階段の前まで来た。
『この階段降りるの〜?』
『はい』
娯楽施設の隣にある先の見えない暗い階段。相変わらず不気味な雰囲気が漂っている。
俺は光魔法を使い、足元が見えるようにした。
『ありがと〜』
俺のちょっとした気遣いにケールさんはお礼を言った。
俺達はゆっくりと階段を下っていった。
階段を下り切るまではお互いに口を閉じた。
そして最後まで降りると、俺は壁に触れ、図書室への入口を手探りで探した。
『えっと確かこの辺に……』
すると、俺の手が壁に吸い込まれかけたのを感じた。久々だな、この感覚。
『ここです』
『へぇ〜、この壁なんか変だと思ったら、そういうことになってたんだ〜』
ケールさんなりに違和感を覚えていたらしい。俺は何も感じなかったが。
『ええ、それじゃ入りましょう』
俺達は吸い込まれるように壁の中に入った。
中に入ると、そこは300年振りに見た幻の図書室だ。本当に時間が経ったのかと疑いたくなるくらい中は何も変わっていない。唯一違うところがあるとしたら地の女神アースがいないことくらいか。
そういえばアースは今何をしてるんだ? まだアクタと一緒に行動しているのだろうか?
『静かな場所だね〜、何だか風情があって良いね〜』
ケールさんはこの場所がすこぶる気に入ったようだ。俺もこういう静寂な所は嫌いじゃない。
『ここなら恐らく誰も来ないと思いますよ』
『そうだね〜』
『どこか座りましょうか』
俺達は向かい合うように椅子に座り、大事な話しを始めた。
『話しって言うのはね、実は私じゃなくて神様からなんだ〜』
『神様?』
どうやらケールさんが俺と話したかったわけじゃなくて、神様からの呼び出しってだけか。まあ神様は他の人に迂闊に存在を知られるわけにはいかない。確かにこうでもしなきゃちゃんと話せる機会なんてそうそう無いだろう。
『お〜い神様〜、もういいよ〜』
ケールさんが天井に向かってそう言うと、この異世界には似つかわしくないタブレット端末のようなものが音もなく机の上に突然現れた。
『お、きたきた〜』
ケールさんはタブレットの電源を入れると、数多のアプリの中からビデオカメラのようなマークのアプリを押した。すると画面の中に神様が映し出された。
『やあ、なんだか久し振りだね。2人共』
『神様〜、久し振りです〜』
俺は前に神様と会ったのは2日前くらいだから、実はそんなに久し振りでもないが、なぜか久し振りに会ったという感覚を覚えている。なんでだろう?
『それで話しというのは?』
俺がそう言うと神様は途端に険しい顔をしてから少し間を置いてこう言った。
『……単刀直入に言おう。この世界はあと14日で滅ぶ』
『え……?』
第260話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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