第254話『ぐちゃぐちゃの感情』
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『久しぶりじゃの』
悪人面のふざけた爺さんが声をかけたきた。
『魔王様!?』
まさかこの場所でこのタイミングで再会するとは思いもしなかった。今まで何やってんだと文句でも言いたいところだが、それはどちらかと言うと、私が言われる側だろう。なんせ私は300年間も失踪して、魔王様に心配をかけてしまったのだから……。
『2人共、無事でなによりだよ』
魔王様は微笑みかけるような優しい表情でそう言った。
そんな魔王様を見た瞬間、私は久々の再会だからか感情がおかしくなりそうだった。
いや、いつになく真面目な顔つきだからイラついているからか? あ、もしかして……この魔王様……偽物か? 魔王様にしては、ふざけてる雰囲気が一切無いので偽物かもしれない。いや、魔王様はシリアスな雰囲気でも必ずふざけた事をしでかすので、これは偽物だ。間違いない。はい。斬ろう、いや斬りまくってやろう。
私は魔王様に剣を向けた。
『えーと、何で儂に剣を向けるのカナ?』
魔王様は慌てて汗をかいている。私が剣を向けたのがよほど予想外だったのだろう。残念だったな! この偽物め!
『え、なんか怒ってる? だとしたらごめんね。原因はもしかして……あれかな? 実は300年前魔王城に居たときに赤髪ちゃんのプリンを食べちゃったこと?』
『いえ、断じてそんな理由ではありませんが……ってそんなことしてたんですか? そういえばあの時……道理で買っておいたプリンが無いと思ったら……』
プリンと同時に魔王城に住んでいた頃の記憶が蘇ってきた。まあ主に魔王様がやらかした思い出ばかりだが。
なんか思い出したら腹が立ってきた。プリンの事もそうだが、急に行方不明になった日の事も、きっちりと説明して貰わなければいけませんね。
そう思っていたところで魔王様が、まるで反省をしていないとしか思えない、ふざけた発言をする。
『もうはるか大昔の話だし、時効だよね?』
この発言を聞いた私の中にあった何かがプツンと切れる音がした。すると熱が身体中を迸り、今は飲み込もうとした言葉を感情と共に吐き出した。
『は? そんなわけないでしょう! 人のプリンを食べてしまってお詫びも無いどころか謝罪すらしないなんて非常識です! 食べ物の恨みは恐ろしいのは人類共通! もはや自明の理でしょう! あと急に行方不明になっていた件も余すことなく説明して頂きます! 覚悟の準備をしておいて下さい! あとで問答無用で裁判を開廷させて頂きます! 私へのお小遣い増量の準備もしておいて下さい! いいですね?』
『えっと……あの……』
『い・い・で・す・ね?』
私は顔を近づけて圧をかけた。
『は、はい……』
観念した魔王様はしょんぼりと顔を下に向けた。
『ひ、ひぇ……余計な事言っちゃったよぉ……また儂のポケットマネーがぁぁ……』
魔王様は財布が軽くなってしまうことに絶望し、跪いた。自業自得です。
全く、こんな状況でもこんな――あ、このふざけた感じ……本物だ……私としたことが……本物を偽物だと思ってしまうとは……。
『魔王様、剣を向けてしまった事は謝罪します。申し訳ございませんでした』
『……もうホントじゃよぉ……怒られるを通り越して殺されるかと思ったんだからのぅ……まあ儂の財産は殺されそうじゃが』
いやあなたなら私の剣術も見切ってるし、使える魔法の数も魔力量も私より上でしょう。財産は知りませんが。
『ねえ〜、それでマーブルちゃんはどうしてここに〜?』
『あ、そうだったそうだった。こんなことしてる場合じゃない。2人を魔王城まで転移させようと思って、また来たんだ』
『魔王城〜? なんで〜?』
『それは――』
魔王様がその理由を説明しようとしたその時――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
と、建物が揺れた音がした。それもわりと強く。
『ん、何の音〜?』
『それに地面が揺れてませんか?』
どこかで誰かが戦ってるのか? それともこの建物、もうじき崩壊するのだろうか?
『2人共! 急いで儂の転移魔法で――』
転移魔法が発動される前に、天井が複数の稲妻によって崩れ去り、この世の地獄のような空が見えた。
『な……なんですか……あれは!?』
空は、複数のまるで蛇や龍のような長くて巨大な黒い雲に覆われ、その雲から無数の稲妻が常に大地を穿ち、建物や森を、あらゆる文明を破壊せんとしていた。
まるで世界の終わりを見ているようだった。
そんな光景を見て、私はもちろん、ずっと無表情だったケールさんも眉をひそめる。
『ねえ、マーブルちゃん、これって……』
『ああ、ゼウスの仕業じゃ』
ゼウス……確か神の居城の最高守護神。確かにあんな所業は神でもなければできないことだ。しかし、なぜあのようなことを……?
『危ない!』
魔王様が私達にそう叫んだ。どうやら天井から複数の大きな瓦礫が私とケールさんと今は眠っているキリカさんにと、それぞれに襲いかかろうとしていたようだ。
しまった……反応が遅れた。自分を守る分には問題ないが、キリカさんを助ける猶予があまり残されていない。間に合うか……?
私は、まず自分に落ちてくる瓦礫を聖剣で真っ二つに斬ってからすぐにキリカさんの元へ全力疾走した。間に合わないかもしれないが、私はキリカさんの所に落ちてくる瓦礫を斬ろうと、再び聖剣を構えた。
間に合え……間に合え!
しかし、もう既に瓦礫とキリカさんとの距離は僅か10センチ。一方、私と瓦礫の距離は20メートル以上。今から私が聖剣で斬れば瓦礫に届かなくはないが、どう斬ったとしてもキリカさんに瓦礫がのしかかる未来しか見えない。
ダメだ……間に合わない……。
それでもキリカさんを助けるつもりで剣を振ったその時、ケールさんが光の速さで瓦礫を蹴り上げ、次に拳銃を宙に浮いた瓦礫に向かって撃ち込んだ。すると瓦礫は粉々に砕け散り、残り滓のみがパラパラと地に落ちた。
『す、すごい……!』
素直に感心せざるを得なかった。あのスピードと身のこなし、瓦礫を簡単に蹴り上げるほどのパワー、そしてその瓦礫を全て撃ち抜く射撃精度の高さ。どれをとっても、私が勝ることはないだろう。
世の中にはこれほどまでの強者がいたとは……。私もまだまだですね……。
そして……やっぱりケールさんは、パンツがよく見えますね! グヘヘヘ、眼福眼福。
『赤髪ちゃん、ま〜た私のパンツ見てたでしょ?』
『はっ! またバレてる!?』
『もう〜、ダスト君よりエッチだな〜赤髪ちゃんは〜』
『ごめんなさい……』
ダスト様もやっぱりケールさんのパンツを見てたんですね……けしからん話ですが気持ちは分かりますよ、気持ちは。
『2人共、大丈夫!?』
魔王様が心配そうな顔でこちらに来た。
私とケールさんは大丈夫と返事をすると、魔王様は良かったと言って安堵した。
『それじゃ早く行こう! いつここも崩れるか分からないからな!』
『そうですが、先にダスト様やブロンズさん達を探しに――』
『それなら大丈夫! ダスト君もブロンズちゃんもゲームに参加させられていた人達も捕まってた人達もあとプラスα、みんな既に魔王城へ避難させてあるから! あとは君たち3人だけ!』
『そうでしたか! それなら良かった!』
ああ、だからみんないなくなってたのか。魔王様の転移魔法は万能だが1度に多くの人を運ぶことはできないから戦ってた私は後回しにしたということか。
ん? じゃあランスロットを倒したのは結局誰だったんだ? 魔王様? あとで本人に聞いてみましょう。
とにかく、これで心置きなく避難できる。こんな国からおさらばだ。もう2度と来たくない。
『あ、ホントだ〜、私の分身も“魔王城にいるよ〜”って連絡来てた〜』
『うん、それじゃ……転移魔法発動!』
こうして私、ケールさん、キリカさん、そして魔王様は、忌まわしき正義教団の国をあとにし、300年振りとなる魔王城へ帰還した。
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