第249話『己の正義の為に』
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第249話の執筆が完了しました。
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※今回は文字数多めです。
森の女神の話によると、正義教団になる前のまだ名前のない国だった頃、初代国王はとある女神と共に聖剣を創り上げた。この聖剣を正義のために使い、世界を正義で染め上げようと初代国王はそう掲げた。
しかし、ある日聖剣が何者かに盗まれる事件が発生した。初代国王は聖剣を盗んだ者をしらみつぶしに探したが目撃情報も一切無く、見つかることはなかった。
そんなある日突然、聖剣が何事も無かったかのように初代国王の部屋のベッドの上にあったのだ。当然、実は最初からここにあったというわけではない。確かに昨日の夜までは無くなっていたのだ。
初代国王は歓喜以上に疑問があった。なぜ聖剣が戻ってきたのかと。盗んだ何者かがこっそり返しに来たというのもおかしな話なのでそれはないと思った。
疑問が解消されないまま数ヶ月が経つと、また聖剣が盗まれた。今度は厳重に保管していたはずなのにいつの間にか姿を消していた。
初代国王はまたもや、しらみつぶしに探したがどこにも見つからなかった。そしてある日突然、またベッドの上に聖剣が置いてあり、今度は血まみれになって帰ってきた。
これは自分の血でもないし、王国の者でも国民も誰の血でもなかった。
さすがに不気味に思った初代国王は、今度は聖剣を肌身離さず持ち歩き、様子を見た。
そして事件は起こった。いや、正確には気づいた頃にはもう起こっていた。
とある深夜、初代国王は眠ったまま身体だけが起き上がり、外に出て国民の無差別大量虐殺を始めたのだ。この時、初代国王に意識はない。まるで聖剣が操ってるようだった。
そして朝になり、初代国王はやけに重い身体に違和感を覚えたまま目を開けた。
すると初代国王は愕然とした。就寝していたはずの自分がなぜか血まみれの聖剣を持って外に出ていただけではなく、ほぼ全ての国民や兵士、そして愛する王妃までも死体となって死屍累々のような惨状になっていたからだ。
初代国王は確信した。自分が寝ている間に聖剣に操られて大量虐殺をしたのではないかと。
そう思った初代国王は拭いきれない罪悪感と、ありったけの怒り、悲しみ、後悔で、すぐに心が壊れ、やがて自害した。
こうして聖剣よって1つの国が滅びた……と思いきや、生き残りがいた。
その生き残りとは、まだ幼き子ども……後の2代目国王だった。
まだ幼き子どもだった故、この凄惨な状況を理解しきれず、ただ泣き叫んでいた。
それを見兼ねた、ある女神(初代国王と共に聖剣を作り上げた女神)が、どこから連れてきたのか分からない大量の子どもを連れてきて、1から国を作り直すことにした。
このような惨状を繰り返さない為にルールを徹底することにした。ルールは絶対。ルールは正義。
子ども達は、その女神にそう刷り込まれた。
すると子ども達は、その女神が神々しく見えたのか、それとも洗脳されたのか、女神の教えを生涯守り続けると心の底から誓った。
そうして出来上がったのが、“正義教団”。
一切の悪を許さず、正義のみを信じる集団。
そして、国民を大量虐殺した聖剣は正義を背負う国にはふさわしくないと判断し、その女神は罪を隠蔽するために、森の女神が管理している森の湖に勝手に封印した。
これには森の女神も勝手な事をされて激怒し、聖剣を抜こうと触れてみると、聖剣から溢れ出る悲しみを感じ取り、森の女神は魔法でそれに纏わる記憶が全て頭に流し込み、真実を知った。
森の女神は考えに考えた結界、今はその時ではないと判断し、時が来るまでは聖剣を封印しておくことにした。
それから数?――?年の月日が流れ、今に至る。
『ん? 今何かおかしくなかったですか?』
『何がですか?』
『今何かが変だったような気がしたんですが……』
『?』
『いえ、気のせいですね……忘れてください』
気が休まらなくて疲れてるのか、おかしな感覚がする。
『あらあら、赤髪ちゃん大丈夫?』
ヒナさんが、心配そうにそう言った。
『え、ええ、大丈夫です……』
私とあろうものが……これからダスト様と合流してゴールドさん達を助けなければいけないというのに……。
『あの本当に大丈夫ですか? すみません。やはり疲れてますよね。休憩を入れてからにするべきでした』
森の女神はそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
確かに私が言い出さなければ休憩していた頃だが、そうも言っていられない状況なのも事実。むしろ話が早く進んで助かっている。
『いえ大丈夫ですよ。私こう見えて頑丈なので』
今の私の強さでこの聖剣を振るったら一体どれほどの威力なのか早く試してみたい。もしかしたら私1人で皆さんを救えるかもしれない。それが例え正義教団の得体の知れない聖剣であろうと。
この時、私は私に誓った。
――過去のトラウマを乗り越える。逸し続けてきた、嫌悪し続けてきた過去と向き合う時だ。
私は仲間たちを救いましょう。正義教団のような“決められた正義”ではない“己の正義”の為に――
『――』
『ん?』
『どうかしましたか?』
『誰か何か言いました?』
って言うと、どうせまたおかしな顔をされるだろうと思っていたが――
『それはおそらく“聖剣の声”でしょう』
『聖剣の声ですか……』
聖剣の声……確か聖剣には意志があって、主を選ぶ時に声がすると聞いたことがある。
『心の中で何かを決意したりしましたか?』
『え、あ、そうですね。仲間を救うと誓いました』
『聖剣は赤髪ちゃんさんのその想いに答えようとしているのでしょう。基本的に聖剣は主の願いを叶えるように働くのですから』
『そうですか』
私にとって聖剣は、ただの殺戮兵器でしかない。初代国王の話を聞く前からそう思っている。
『さて次ですが……』
森の女神が指パッチンすると、突然目の前に、巨大イノシシやゴブリンと狼の軍勢、巨人にドラゴンまで現れた。
『な……!?』
さっきまでモンスターの気配なんて全くしなかったのに急に現れるなんて……。
そうか、森の女神ならこの空間を自由自在に操れるから、このようにこのモンスターの軍勢が急に現れてもおかしくはないが……おかしいだろう……なんだこれ、めちゃくちゃだ。
『そのモンスター達は私が用意しました。聖剣の試し斬りにはちょうどいいと思いまして』
だからってドラゴンまで出してくるとは……。
ドラゴンといったら、モンスターの中でも稀少で最強種だ。命がけで挑むのならまだしも、試し斬りなんて……。
とか思いつつ、私は試しにドラゴンを斬ってみると、見事に真っ二つに斬れた。
『え?』
本気で斬ったわけじゃない。どのくらいの斬れ味か確認するために軽く剣を振っただけなのだが……。
『これは……すごいですね……』
あまりの斬れ味に驚愕を隠せなかった。
ヒナさんと森の女神も想定外の斬れ味だったのか私と同じように驚愕している。
私は更に剣を振り続けていると、あれだけ居たモンスターの軍勢がいつの間にか全滅していた。決してモンスターが弱すぎたわけではなくこの聖剣が強すぎるのだ。
『まさかこれほどとは……封印したくなるのも分かった気がしますよ』
確かに、こんなものが世に出ればどんなに剣の才がなくても、剣豪のトップに立つことができてしまう。
これは殺戮兵器どころの騒ぎじゃない。下手をすると世界そのものまでも壊せてしまうのではないか……?
『でも、赤髪ちゃんさんなら安心して預けられます』
『良いんですか? 私に預けても』
『はい。確かにあなたには邪気を感じましたが、それは……全てただのスケベ心で、それ以外の欲望はほとんど薄く、根は善人で、強靭な精神を持っていることが判明しましたので大丈夫です』
『ス、スケベ心って……』
まあ確かに私はゴールドさん達のような美少女や、ヒナさんのような大人な女性のあんなところやこんなところを盗……撮影したいという気持ちはないこともないですが。グヘヘヘへ。
『また邪な事を考えてる顔ですね。全く……ってそんなことより赤髪ちゃんさんの仲間達が全滅の危機ですよ!』
『え!?』
森の女神はどうやら魔法で外の世界の様子をさっきから見ていたようで、ダスト様率いるチームに何が起きているかを詳しく説明してもらった。どうやらランスロットに追い詰められようとしているところだ。
『早く行かなくては……!』
『それなら私が異空間ホールを作ってそこまで送ります。ただし現場には変な結界が張ってあるので、できる限り天井に転送することしかできません』
『私なら無事に着地できますから、それで十分です』
『分かりました。今、異空間ホールを開けます』
森の女神は目の前に異空間ホールを作った。そこに入れば、すぐにダスト様達を助けられる。でもその前に霧をある程度払いのける必要がある。着地した先に敵が居れば、空中で無防備を晒している状態で攻撃される恐れがあるからだ。まあそれでも私ならなんとか大丈夫な気はするが、万全であることに越したことはない。
『あ、ヒナさんはここで待ってて下さい。ここから入ると危ないですから』
『うん、ごめんね。本当は私もダスト君達が心配だから今すぐ一緒に行きたいけど……あとから私もそっちへ行くからね』
『はい、あとで合流しましょう!』
私はヒナさんを置いて、異空間ホールへ飛び込んだ。
――そして私は今、ランスロットと剣を交わしている。
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