第214話『踞っている男は僅かな変化を見抜く』
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――王室付近の部屋。
と呼ばれているのだが、今のところ用途が皆無のため、人の出入りが極端に少なく、俗に言う空き教室に近い存在だ。
故にガラードはここから侵入しても、誰にも出くわすことは無いだろうと踏んでいた。
しかし……。
『うぅ……』
こんな時に限って、部屋の隅で、泣きながら踞っている男が居た。
しかもその男は、ガラードのよく知る人物であり、出来れば、戦いたくない人物でもあった。
『あなたは……ケイ……?』
『……ん? その声はガラードちゃんかい?』
ケイは、ガラードの声を聞き、顔を上げる。
すると、そこにはケイのよく知る美しき女騎士が1人。
『こんなところで何をやっているのですか?』
『いや、なんでもないよ……』
ケイは、溢れ出る涙をなんとか拭き取ってから、そう言った。
『ガラードちゃんこそ、どうしてここに?』
『えっと、王が心配なので、思わず来てしまいました』
ガラードは、咄嗟に誤魔化した。
『ふーん、心配……ね』
ケイは、そんなガラードに、怪訝な顔を見せる。
『ケイ? どうかされたのですか?』
『いや、本当に王が心配なだけなら普通に階段かエレベーターから来ればいいのに、何でそんな所から来たのかなと思ってね』
そう言われ、ガラードは僅かに動揺を見せた。本当に僅かなので、大抵の人は気づかないレベルだ。
しかし、ケイはその一瞬の動揺を見逃さなかった。
このままガラードがボロを出してしまえば、ケイはガラードの裏切りを王に告発してしまうだろう。
まあ、別に今すぐに告発しようがしまいが、裏切る事には変わりないのだが、ここでケイと戦って、戦力が落ちるのは避けたい。
そう考えたガラードは、何がなんでも嘘を貫き通す気だ。
『実は、私も最初はそれで行こうとしたんですが、侵入者に阻まれてしまって、だからこうして裏の通路から来たんです』
『裏の通路?』
『はい、実は地下牢から、 ここに繋がる通路があったのです』
『へぇ、そんなのあったんだ……ふーん、なるほどね……そういうことなら、ガラードちゃんがそこからやって来てもおかしくはないね』
『は、はい!』
ガラードは、ケイをうまく騙すことができた――と思っていた。しかし――
『でもさ、そんな通路があるなら、何で正義にすぐに報告しなかったの?』
『そ、それは……』
(しまった……そこまで考えてなかった……)
しかし、追い詰められてもガラードは、毅然とした態度を崩すことはなく、一切の動揺を見せなかった。
そして、ガラードは、この僅かな間に咄嗟に思い付いた答えを口に出した。
『じ、実はこの通路、つい先ほど見つけたのです』
『ああ、なるほど。つい先ほどか。それなら納得だね』
ケイは、怪訝な顔から笑顔に変えてそう言った。
ガラードも、露骨に表情には出さないものの、これで疑いが晴れたと安堵する。
『で、その通路はどんなものなのかな? ちょっと見てもいいかい?』
『いいですよ』
『ありがとう。どこにあるんだい?』
『ここです』
ガラードは、秘密の通路の扉に指を指した。
『ほうほう、これが……』
ガラードに許可を貰ったケイは、秘密の通路の扉を開けようとする。
(かかった!)
ガラードはそう思い、思わずニヤリと笑った。
そう、これはガラードの罠だ。
あれはガラード達が急斜面の通路を登りきり、扉を開ける直前の事だ。ガラードは覚悟を決めて扉を開け、フラン達と共に突撃するつもりだった。
しかし、そこには踞るケイがいた。
瞬時――ガラードは、ケイと戦うことの危険性を考慮し、自分以外の全員を扉の向こう側に残した。その際にみんなにこう言った。
“次に扉を開けた瞬間、みんなで奇襲をして下さい”
――そして今に至る。
さて、罠は整った。
このままケイは、扉を開け、フラン達からの奇襲を受ける。
いくら頭のキレるケイでも、あれだけの人数の奇襲を受ければ、ただじゃ済まない。
これで、ケイを打倒することができる。完璧だ。
――そう思っていた。
『あー、やっぱいいわ』
ケイは、突然冷めたのか、扉を開けずに、その場から離れた。
『え』
想定外の展開に、さすがのガラードは、驚愕の表情を露にしてしまった。
『どうしたの? ガラードちゃん? そんな驚いたような顔をして』
『え、いや何でも……何でもないです』
『ねえ、ガラードちゃんさ、さっきから何か隠してるよね?』
『!?』
ケイは再び怪訝な顔を見せた。
『ほら、動揺してる』
『そ、そんなことは……ないです!』
と、ガラードはそう否定するも、やたら多くの汗をかき、身体も震えている。ここまで露になってしまえば、大抵の人は怪しいと思うだろう。もはや弁解は不可能。裏切りがケイにバレるのも時間の問題だ。
『違うなら、そこの扉開けてみてよ?』
『扉を……!?』
『もちろん、ガラードちゃん1人でね』
『くっ……』
(そんなことできるわけがない……もしそうしたら、私がみんなの奇襲を受ける事になってしまう……もしうまく避けたとしても、ケイにその隙をつかれて、みんなが、やられてしまう)
『どうしたの? 開けないの?』
『くっ……ええい、もう仕方がない! 皆さん! 予定変更です! 出て来て下さい!』
ガラードは、剣を抜き、秘密の通路の扉の向こう側に届くくらいの声量でそう言った。
『……』
しかし、扉から1人足りとも出てくることはなかった。
『あれ? 聞こえなかったのか、皆さん、出て来てください!!!』
今度は先ほどよりも大きな声でそう言った。
しかし、それでも扉が開くことはなかった。
『バカな……一体どうなっている?』
すると、ケイが不敵な笑みを見せて、こう言った。
『さっき、その扉に触れた時に、扉を開けられないように結界魔法を張ったんだよ』
『結界魔法……!?』
『ああ、もしかしたらガラードちゃんは正義を裏切って、その扉の向こうに悪を待機させて、扉を開けた俺に奇襲する作戦でも立てたんじゃないかと思ってね、結界を張らせてもらったよ』
『くっ……』
『ほう、その反応は当たりだね』
『それならば……私は……あなたを倒して先に進む!』
『やれるものならやってみな』
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次回は、20日(日)~23日(水)に投稿予定です。
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