第180話『心優しき騎士』
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『正義を持つ者よ! 悪を排除せよ!』
先頭の青い甲冑を纏った騎士が入ってくるなり、そう鼓舞すると、その後ろにいる29人の騎士が、喚声と共に扉から押し寄せてきた。
だが慌てるほどでもない。ほとんどの騎士は特に何か魔法をかけているわけでもなく、生身でただ突撃してきただけだ。
『行くぞ!』
アミさんとみどりちゃん(猪)とゴールドちゃんが主に前に出て、騎士29人をあっさりとなぎ倒した。そのため、後衛組の俺達は、全く出番がなかった。
『こんなもんか』
『ああ……あの男以外は』
問題なのは、先頭の青い甲冑の騎士だ。こいつだけは、ただならぬ強いオーラを感じる。
『ルキウス……様……申し訳……ございません……』
ガラードは顔に悔恨の色を表しながら、青い騎士にそう謝罪をした。
更にガラードは、醜態をさらしてしまったと合わせる顔もないと思っているのか、今度は地面を向きながら、下唇を噛んだ。
ルキウスは、そんなガラードを見兼ねたのか、まるで瞬間移動でもしたのかと思うほどのスピードで、ガラードの元へ駆けつけた。
『は……いつの間に……? 全然見えなかった……!』
この中では、ケールさんとマーリンだけは、ルキウスのスピードを目で追えていたようだが、それ以外は全く目が追い付かず、呆気に取られてしまった。
『ルキウス様……?』
ルキウスは、ガラードの肩にポンと優しく手を置き、こう言った。
『気にするなガラード。それより大丈夫か。足を怪我しているようだ』
『お気になさらないで下さい! 大丈夫です! これくらい!』
そう言っているが、足を銃弾で撃ち抜かれている。当然立ち上がれるはずもなく、地面から膝が離れることはなかった。
『ダメだ。見ていられない』
ルキウスは、ガラードに治癒魔法をかけて、足の怪我を治した。
『おお……ルキウス様……こんな私なんかに……ありがとうございます!』
『私なんかではないぞ。ガラードは大事な仲間だ。絶対死なせたりなんかさせない』
『ルキウス様!!!』
なんだこのイケメンは……? 絶対嘘ついてるだろと思うだろうけど、とても嘘をついているようには見えない。だって、乙女ゲーに出てきそうな美しい顔立ちに一切の邪気を感じさせない穏やかな表情のイケメン騎士……。くそっ……そんな顔に生まれたかったぜ……。
『……後で倒れてしまった部下達にも治癒魔法をかけなくてはな……この戦いが終わったらな』
ん? 今、死亡フラグ建設しなかった?
『今治癒しなくてもよろしいのですか?』
『そうしたいが、今治癒すれば、彼らはまた、勝てもしないのに、あの悪人共に挑もうとするだろう。もう彼らにこれ以上傷ついて欲しくないんだ。今はどうか休んでてほしい。そして目覚めた後には、皆で暖かいご飯を食べて、疲弊しきった心を癒してあげたい』
しかも、めちゃくちゃ良い上司じゃねえか! 思わず涙を流しそうになったわ。同じ正義教団でもトリスタンとか葛木とかいうクズ野郎共とは大違いすぎる……。
『さすがです! ルキウス様! そこまで考えていらっしゃるとは……!』
ガラードは感動のあまり滂沱の涙を流した。分かる。分かるぞ。
『なに、部下の命を預かる者として、当然の事だ』
謙虚! 圧倒的謙虚! もう俺の上司になって下さい。
『あ、でもなぜ私には治癒魔法を……?』
『ガラードの力を借りたいというのもあるが、何より、俺はガラードと共に背中を合わせて戦いたいからだ』
ルキウスは微笑みながら、ガラードにそう言った。すると、ガラードはただ無言で涙を流したまま固まった。これが尊死ってやつか。
『どうしたガラード?』
『……はっ! わ、私の事をそんな風に思って下さっていたなんて……感激の極みです。ありがとうございます……ルキウス様……!』
ルキウスさん、ホント敵ながらマジかっけぇ! こんな人が学校に居てくれたら、どんなに良かっただろうか……。
そんな事を考えていると、ルキウスの口角は下がり、険しい表情でこちらを向いた。
『悪……覚悟はできているだろうな?』
ルキウスはそう言って、俺達を親の仇のように睨み付ける。
そんなルキウスに臆せず、マーリンは平気で前に出てきた。
『久しぶりだね、ルキウス』
マーリンは、そう言って、友達のように陽気に話しかけてきた。
『貴様……マーリンか。ほう、悪になったのか』
『いやいや、私は元々正義も悪も無いさ。私は面白そうな人間の味方だよ』
『そうか。いや、貴様はそういう奴だったな。うん。まあいい』
ルキウスは、仲間に対して、あれだけの優しさを見せても、元仲間であるマーリンにすら、容赦なく剣と殺意を向ける。敵には容赦しないタイプなんだな。
『怖いねぇ』
マーリンはそう言ってるが、恐怖心などあるように見えず、むしろ楽しんでるかのように笑っている。
『行くぞガラード、共に悪を倒すぞ』
『はい!』
ルキウスの剣、ガラードの剣合わせて2本の剣が、俺達を差す。
7対2で人数的にはこちらの方が有利とはいえ、ガラードもルキウスも強い。1対1なら確実に負けてしまうほどに、実力差がある。
それに俺も魔力量が心許ない。慎重に魔法を使っていくしかない。
『来るぞ!』
まずルキウスが前に出て、闘牛の如く剣を向けてマーリンに襲いかかる。
『させるか!』
それをアミさんの剣と虹の剣の双剣スタイルと、ゴールドちゃんのハンマーで受け止める。だが力の差は歴然。圧倒的な差があるというわけでもないが、2人がかりで受け止めても、後ろに押されているのが分かる。
『くっ……!』
そんな2人に、マーリンは筋力増加魔法をかけた。すると力関係は逆転し、ルキウスが押される方になった。だがルキウスの表情は一切変わらなかった。まるで想定内だと言わんばかりに。
『この程度か』
『何!?』
すると、ルキウスの剣が青く光り、アミさんとゴールドちゃんごと弾くように吹き飛ばす。
『うわっ!』
更にルキウスは、弾かれた2人を追い討ちをかけようと、アミさんを、剣でひとつきにしようとするも、マーリンの絶対防御魔法……要するにバリアをアミさんとゴールドちゃんに発動したので、地面に足がつくまで傷1つつかなかった。
『向こうはマーリンのサポートがあってか、なんとか戦えてるようだな』
俺がそう呟くように一人言を喋っていると、ガラードがいつの間に俺の背後に回り、若干の怒りを込めてこう言った。
『余所見をするとは、舐められたものだな!』
ガラードの剣が、俺のうなじを穿とうとする。もはや避けきれるほどの距離でもなく、このままでは俺の首が剣に貫かれるであろう。
『お兄ちゃん!』
『ダストさん!』
ブロンズちゃんとみどりちゃんは、俺を守るためにガラードに攻撃しようとしてるが、間に合わないだろう。
そして俺は、ガラードに皮肉を込めてこう言った。
『なんだよ……正義とか言ってるわりには、悪人がやりそうな不意打ちをするんだな』
『何だと』
もちろんこのまま殺されるつもりはない。どうも俺は不意打ちされやすい体質だということが分かっている。いや不意打ちされやすい体質ってなんだよというツッコミは置いといて、その不意打ちの対策として、戦闘が始まる少し前からある魔法を仕込ませてある。それは――。
『ぐはっ!?』
俺を貫いたはずの剣は、俺に一切触れることはなく、ガラードに刺さった。
そう、俺が発動したのは反射魔法だ。この魔法は相手が俺に物理攻撃、もしくは魔法攻撃をしてきた時に、1度だけ、自分に当たるはずの攻撃を相手にそっくりそのままお返しするという、上級魔術師でも滅多に取得していない超激レア魔法だ。非常に強力な分、魔力消費もバカにならない。少なくとも今日はもう1回発動するのは厳しい。
『な……何が起きた……? 貴様……何をした!!』
案の定、ガラードも俺が何の魔法が発動したのか理解できていないようだ。
『さあ? なんでしょうねぇ?』
わざわざ敵に魔法を明かすほど、優しかねえよ。
『貴様……!』
俺の言い方がよほど癇に触ったのか、怒りを込めて睨み付けてきた。
あー、さてはこの人、煽られるとぶちギレるタイプだな? SNS向いてなさそう。
第180話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、27日(土)か28日(日)に投稿予定です。
宜しくお願い致します。




