第175話『ごめん』
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マーリンは牢から解放された喜びに満ちた顔を見せた後、思い出したかのように慌てて周辺に何かの魔法をかけた。
『マーリンさん? 何やってるんですか?』
『ああ、これは私が脱獄した事がすぐに看守にバレないようにね、幻覚魔法をかけたんだよ』
ああ、幻覚魔法か。
幻覚魔法……その用途は、さっきのマーリンのように、エスケープのために看守の目を欺くためだけではなく、戦闘においてもその効力は絶大だ。なんせ相手は幻覚に苛まれて、まともに戦えなくなるのだ。強すぎる。ぶっ壊れ魔法にも程がある。
今回の場合、この周辺の通路を通った者は、誰もいないはずの牢にマーリンがまだ収監されているように見えてしまう。かく言う俺も、一瞬そう見えてしまったが、慧眼魔法で正常の視界に戻した。
非常に強力な魔法だが、その分魔力の消費も凄まじい。最高魔術師のマーリンですら、30分くらい経ったら解けてしまうそうだ。
『と、言うわけで……さっさと行こ行こ! 案内してあげるから!』
マーリンは、そう言って、急げや急げと俺とケールさんの背中を押して進む。
――それから10分後……。
マーリンの案内に従い、まずはここから1番近い牢に収監されているブロンズちゃんの元へ順調に進んでいった。なんでもマーリンは、記憶力と洞察力がずば抜けていて、どこに誰が収監されているか、看守の会話やこれまで聞いた足音とその時間だけで、全てを把握したそうだ。す、凄すぎる……チート頭脳じゃねえか……。
『あそこだよ』
マーリンは、ブロンズちゃんがいる牢に指を指す。
『!!』
ブロンズちゃんに会えるという思いが俺を突き動かし、血相を変えて、ブロンズちゃんの牢の前まで駆けつける。
『ブロンズちゃん!!』
牢の中を見ると、ブロンズちゃんは両手両足を鎖に縛られながら地面に横たわって眠っていた。特別大きな傷や汚れは無く、さらわれた後に更に酷いことをされてはいないようだ。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
マーリン曰く、この国では捕まえた罪人に判決を下すまでは手を出してはいけないルールがあるそうだ。罪人だからと言って、必要以上の暴力をしてしまえば、それは結局、愉快犯と変わらないからだ。
あのクズ共がルールを守るわけないと思ったが、この国の信条は“常に正義であること”。つまり裁く側にルール違反を検知されれば、ルールを破った者は悪になってしまう。まあこれは至極当たり前の事だが、正義を名乗っているだけあって、ルール違反者には、日本では考えられない厳しい判決を下される事になるらしい。
なるほどな……だからあいつらは自分が悪と裁かれないように、ブロンズちゃん達に手が出せなかったというわけか。
正義教団のルールなんて絶対ロクなもんじゃないって思ってたが、腐っても正義というわけか。そのわりには幹部達は今のところクズばかりだが……。
『おっと、早くブロンズちゃんを解放しなきゃな……』
看守の見張りをケールさんとマーリンに任せて、俺は金属魔法で鍵を生成して牢を開け、ブロンズちゃんの近くに寄った。
『ブロンズちゃん』
ブロンズちゃんの耳元でそう囁くと、ブロンズちゃんのキレイな瞼が徐々に上がっていった。
『んん…………ん……?』
寝起きの顔が可愛すぎて、天使かよって思ったが、今はそんなこと考えてる場合じゃない。俺は緩んだ顔をすぐに直した。
『ブロンズちゃん、目覚めた?』
『ん? あれ? ここは……?』
まだ寝起きだからなのか、頭がボーッとして状況が理解できていないようだ。俺がここにいる事すら、ちゃんと認知してないだろう。
『ここは正義教団の国の牢屋の中だよ』
正義教団というワードに反応したのか、ブロンズちゃんは突然、目を見開きいた。
『まーちゃん! ゴールド姉! シルバー姉! みどりちゃん! アミお姉ちゃん! アリスちゃん! どこにいるの!?』
ブロンズちゃんは血相を変えて、鎖のジャラジャラ音がうるさくなるくらい暴れ始めた。この音が看守の耳に入るのではないかと危惧したが、ありがたいことに、後ろでマーリンが、こちらの声が漏れないように何かの結界を張ってくれていたようで、その心配は杞憂に終わった。
『ブロンズちゃん、落ち着いて』
俺はブロンズちゃんを落ち着かせるために、両手を優しく掴んだ。
『って、え……? お兄ちゃん……?』
ようやく落ち着いて、状況を理解し、俺の存在も認知してくれたようだ。
『助けに来たよ』
俺がそう言うと、ブロンズちゃんの目から一筋の涙が流れる。
『なん……で……?』
『ん?』
『なんで助けに来たの……?』
『なんでって……ブロンズちゃん達を助けたいからだよ?』
多分、あの夢の事を引きずっているのだろうな。一応夢の中の出来事とはいえ、必死に俺を引き留めようとして、俺はそのまま振り払ってしまった。そんな俺がまさか自分を助けに来てくれるなんて考えてもなかったのだろう。
『あの夢の事覚えてる?』
この際、気まずいとか言ってる場合じゃない。ちゃんと話し合って決着つけなければ。
『……えぇ、覚えてるわ』
その時、ブロンズちゃんの表情が険しくなった。やっぱり俺の事を恨んでいるようだな。
『お兄ちゃんのバカ! バカバカ!』
ブロンズちゃんは、俺を殴ろうと暴れているようだが、鎖で縛られているので、俺に拳は届かなかった。
『ブロンズちゃん……』
俺はあらかじめ作っておいた鍵で鎖の鍵を解錠し、疲弊しきっているブロンズちゃんを抱き抱えた。
『ごめん』
俺がそう謝罪すると、ブロンズちゃんから流れた一筋の涙が大粒の涙に上書きされ、年相応に号泣しそうになった。看守に聞かれないようにしているんだろう。
『大丈夫だよ。後ろのキレイなお姉さんが、音が漏れない結界を張ってくれてるから』
俺はそう言って後ろを向くと、マーリンがウインクしながらグッと親指を立てた。
『だから今だけは思いっきり泣いてもいいし、俺を叩いてもいいよ』
俺はそう言って、ブロンズちゃんを抱きしめた。
この後、ブロンズちゃんは大泣きして俺を叩きながら罵倒するだろう……そう思っていた。
『嫌よ』
『あれ?』
ブロンズちゃんのまさかの反応に、俺は首を傾げた。
あれだけ泣きそうになっていたのに、何事もなかったかのように真顔になっている。
『お兄ちゃんの思い通りに動くのが、何か嫌』
『え? あれ? うん? あ、あぁ……そう……?』
『うん』
『……』
何か微妙な空気になってしまった。どうしよう……? 本来なら俺がブロンズちゃんの涙を受け止めて、かっこ良く決めるはずだったのに……。
どうしてこうなった?
『ぷっ……もう、お兄ちゃんったら、分かりやすいんだから』
ブロンズちゃんは、何かおかしかったのか、突然笑いだした。
『え?』
『私ね、今なぜか心を読めないけど、顔に出すぎて、お兄ちゃんの下心が簡単に読めちゃうわ! あはははは!』
『え? そんなに顔に出てた?』
『ええ、それはもう惜しみなく、まるで心を読んでくれと言わんばかりにね!』
『マ、マジかぁ……』
会話を聞いていたのか、後ろでケールさんとマーリンがぷぷぷと笑ってやがる。
『は、ははは……はぁ……』
俺は、もはや苦笑いするしかなかった。
『でも、助けてくれてありがと、お兄ちゃん』
そう言ったブロンズちゃんの表情は、どこか照れくさそうで、でも嬉しそうだった。
『……!』
ブロンズちゃんのこんな表情初めて見た。マジで写真に収めたいくらい可愛かった。
こちらこそブロンズちゃんの最高に可愛い笑顔を見せてくれてありがとう……なんて言えないな。
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次回は、14日(日)~16日(火)に投稿予定です。
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