第172話『プライドの咆哮』
お待たせしました。
第172話の執筆が完了しました。
残酷かなと思うシーンがあるので、人によっては閲覧注意です。
宜しくお願い致します。
ダストの記憶上でも、葛木の暴挙を嫌というほど見ている。葛木がいたその世界は、俺がいた世界と酷似しており、ダストだけではなく、アミさんやスカーレットさんといった知り合い連中も存在し、その誰もが魔法という概念を知らず、俺と同じように一般人として平和に暮らしていた。
で、その葛木だが、ダストに日常的に暴力を振るったり、小さい子どもを泣かせて公園を占領したり、根暗のクラスメートの女子や女性教育実習生を脅して犯したり、優先席に座っていた老人達を強制的に立たせて、それを見ながら嗤って占領したり等……どれもこれもガチクズ行為で、中には明らかにガチの犯罪もやっているのだが、葛木の父親は警視庁のお偉いさんらしく、その権限を乱用し、全ての罪を無かった事にされている。
かなり胸くそ悪い話だが、俺自身は、葛木にいじめられてないし、そもそも世界線が全く違うので会ってすらないので、個人的な恨みもない……だが……。
『葛木』
『あぁ?』
『本来はお前と俺は出会うこともない赤の他人だが……悪いな。俺の実験台になってもらうぞ』
まだ使ってない魔法がいっぱいある。こいつがぶっ壊れるまで試したい。
『は? 何言ってんだてめえ? 雑魚のクセによ! いいぜやってみろよ……このゴミカス風情が!!!』
葛木はそう言って剣を抜き、俺を斬りつけようとする。その時のこいつの顔面が……それはもう悪人の名をほしいがままにするような醜悪な面だった。
俺はまず創生魔法を発動し、瞬時に剣を創生させて早速、葛木の剣を受け止めようとする。
『てめえの貧弱な力で、俺の剣を受け止められるわけねえだろうが!』
そして、このタイミングで未来予知魔法を使う。
……なるほど、そのまま大振りに斬りつけるだけか。特にフェイントとか仕掛けているわけでも無さそうだ。なるほど、俺を殺るのに戦略なんか必要ないと舐めているわけだな。
その慢心が、自らを滅ぼすとも知らずに。
『喰らえ!!!』
未来予知通り、葛木は俺に剣を振る。
俺もその剣を剣で受け止める。……だが力の差はあまりに歴然。貧弱な身体つきの俺とは違い、恵まれた身体つきをしている葛木の方に軍配が上がる。
『ハハハ!!! なんだあ! やっぱり雑魚じゃねえかああ!!!』
このままでは、力負けし、葛木の剣が俺の剣ごと身体を真っ二つにするだろう。このままならな。
『毒魔法“感染”』
俺は自分の剣の刃に、毒魔法を発動する。この毒魔法“感染”は、その名の通り感染だ。触れた者や物に毒を与えるものだ。この場合、俺の剣は毒の剣となり、それと交わった葛木の剣も毒に侵食され、やがて葛木にも毒が移るだろう。とても強力な魔法だが、魔法を発動した後のコントロールはできないので、味方に当たってしまう可能性がある。まあ万が一当たっても、俺の治癒魔法で治せるから問題はないがな。
『な、なんだこれ……うっ……』
早速、葛木の身体に毒が回ってきたようだ。その後、身体に力が入らなくなり膝をついた。
『て、てめえ……何……しやがった……?』
『……クク……どうだ? 俺の毒魔法は?』
俺は毒に苦しむ葛木を見下しながらそう言った。
『毒……だと……? クソっ……』
先ほどまでの勢いはどこにいったのか、声がとても弱々しい。思った以上に毒が効いているようだ。
やがて、葛木は完全に地面に這いつくばり、立つことも困難となる。あの時とは立場は完全に逆転した。このまま止めを刺してもいいが、ダストの記憶を見てしまうと、このクズ野郎をもっと苦しめたくなる。こいつだって、他の奴にそれほどの事をしたんだ。もうちょっとだけ実験台になってもらおう。
俺はそれから、色々な魔法を葛木に試し、今の俺にどういう魔法が使えて、どんな魔法が苦手なのかを探った。もはやサンドバッグ状態だ。我ながら鬼畜だと思う。
『はぁ……はぁ……もう……やめで……やめでぐだざい……』
泣きながらそう懇願する葛木。だが葛木にいじめられた奴だって、同じように泣いていただろう。苦しんだだろう。もはやこのクズに同情の余地はない。
『……全部お前がいじめた奴にやったことだ。因果応報だ。諦めて苦しめ』
『おれがわるがっだ……ゆるじで……もうじまぜんがら……』
一刻も早く苦しみから解放されたい葛木は、僅かに残った力で俺の足にしがみつく。
うーん、このまま葛木が苦しみながら死ぬのを見送るのもいいが……こいつの身体能力には目を見張るものがある。それに気になることもあるしな。まだ利用価値はありそうだ。そしてその後は……。
俺は、葛木を侵す毒を治癒魔法で遅延させた。すると葛木から苦しみは抜け、力は入らないが、喋れる程度には回復した。
『……?』
葛木は毒は消えたと思い、身体を動かそうとするも、全然力が入らず、這いつくばったまま、地面と唇を交わす。
俺は葛木の髪を引っ張り、無理やり顔を上げさせた。端から見たら完全に俺が悪人に見えるだろうな。
『よく聞け葛木。俺はお前と取引をしようと思うんだ』
『取引だと……?』
『ああ。取引内容は、お前にかかっている毒を完全に治癒しよう。それと引き換えに俺の奴隷になれ』
『は……?』
『2度は言わない。10秒以内に答えろ。さもなくば遅延させている毒魔法を再開させる。さあどうする?』
俺がそう言うと、葛木は涙を流し、唇を噛んで血を流す。
どうやら、それほどまでに俺の奴隷になるのは屈辱のようだな。今まで俺を奴隷扱いきてきたお前が、今度は奴隷にされる側になるなんて微塵も考えてもなかっただろう。まさか自分が負けるとも1ミリも疑わなかったその自信過剰すぎる心が自らを滅ぼした。
『お前は戦場を甘く見過ぎたんだ』
これは葛木にだけ向けて言ったわけじゃない。俺自身に言った言葉でもある。
『く……黒崎ィィィ……黒崎イイイイイイイイイイイイイイ!!!!!』
葛木は、プライドをズタズタにされた怒りと憎しみが爆発し、まるで怪物の咆哮のような叫びを城に轟かせた。
『さて、もう10秒経ったな。毒魔法を再生させるぞ』
『や……やめろ……!!!』
つい数秒前まで怒りの表情だったのが嘘のように切り替わり、恐怖で再び涙を流した。
『ならさっさと答えろ』
俺がそう言っても、葛木はなぜか口をモゴモゴさせて、なかなか“あなたの奴隷になります”の一言を喋らない。やはり、どうしてもプライドが邪魔してしまうということか。
『……もういい。毒魔法を再開させよう』
俺は、治癒魔法で塞き止めていた毒魔法を再開する。
『うっ……あああああああああああああああああああああ』
葛木は再び苦しみだす。このままだと持ってあと1分というところか。
せっかく、お前みたいなクズに生きるチャンスを与えてやったというのに……残念だよ。
『……』
でもこいつ……あんなに命乞いしたわりに、何であんなに頑なに口を紡いだんだ? 本当にプライドの問題か?
俺の奴隷になることを選択しなければ、毒によって苦しんで死ぬだけだ。葛木自身も、もうそんな思いはしたくないはず。
なんだこの違和感……?
『なあ、もしかしてお前――』
葛木に最後の質問をしようとしたその時、未来予知魔法が勝手に発動した。勝手に発動する時――それは即ち、俺に危機が迫る時――。
――そして――この後俺は10秒後に剣に貫かれて死ぬ事が判明する。
第172話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、7日(日)か8日(月)に投稿予定です。
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