第153話『我の屍を越えて行け』
お待たせしました。
第153話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※2024/08/17改稿しました。
《みどり視点》
ついにやってしまいました……。
ごめんなさい、皆さん。
禁忌の魔法をまた発動してしまいました。
かなり前にアクタさんに特訓してもらってた時に、調子にのって、一回これを発動してしまったのです。
すると、今のように暴走状態になり、悲惨な事になってしまい、皆さんに多大な迷惑をかけてしまいました。
その後、アクタさんによって、魔法が解けた私は魔力不足によって酸欠になり、死にかけました。
その時は、本当に怖かったです。本当に死ぬかと思いましたから……。
でも、アクタさんや、アリスさんの協力もあって、私の魔力は補充され、なんとか生き返りました。
私が目覚めた後はブロンズさんやアクタさんに、それはもうこっぴどく怒られて、もう二度と、この魔法を使うなと釘を刺されました。
それ以降、私はこの魔法を使うことはありませんでした。……今さっきまでは。
しかも、今回はアリスさんが居てもアクタさんは居ません。
なので、この魔法を使えば今度こそ本当に死ぬと思います。
でも、仕方ないですよね……。こうでもしないと、みんなあの化物に喰べられてしまいますから……。
……ブロンズさん。私が、あの化物に一人で挑む時、辛そうな顔をしてましたね……。ゴールドさんも、私を必死に引き止めてましたね……。
こんな別れ方で本当にごめんなさい。そして、こんな情けなくて、何をやってもダメダメなボッチの私を、大切に思ってくれてありがとうございます。
皆さんに会えて、本当に良かった……。
もし生まれ変わっても、私は皆さんの元へ会いに行きます。
………………。
あの化物との戦いは、どうなったのかな?
“外にいる私”が何をやっているのか、“ここにいる私”は知らない。所詮、今の私は身体の隅にいる小さな意識だけの存在ですから……。
皆さん、どうかご無事で……。
…………………………。
………………あぁ……意識が遠のいていく……。
…………………………。
――――り。
ん?
――どり。
私を呼ぶのは誰?
あれ? でも、この声……どこかで……。
もしかして……お母さんなの?
――みどり、我を――
お母さん! お母さんなの!?
でも、何でお母さんの声が!?
――すまぬ。説明してる時間はない。こんな不甲斐ない我を許してくれ――
え?
――目覚めよ、みどり。そして、我を殺してくれ ――
何を言ってるの……? 意味が分かんないよ!
――後は頼んだぞ……――
待って……お母さん……お母さん!!!
刹那――私は意識を取り戻した。
って、痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいいい!!!!!
『あああああああああああああ!!!!!』
血が……血があああああああああああああああ!!!!!
傷が深い。出血量も半端じゃない。身体の至るところが、化物の牙に深く刺さっているようだ。
目の前の化物も、暴走状態の私によって、私と同じくらいのダメージを負っている……と思ったが、あまりにも化物の動きが遅すぎる。アリスさんの秘策でしょうか?
『み……ど……り』
『え…………?』
化物から掠れた声が聞こえた。でも、お母さんの声だとすぐに分かった。
『お母さんなの……? この気持ち悪い化物がお母さん?』
“我を殺してくれ”って……まさか……!?
嫌だよ……。
『そんなの……嫌だよ!!』
『みどり……我は……罪のない冒険者や……村人達までも殺してしまった……た……のむ……このままでは……後ろにいる、みどりの……仲間まで……殺してしまう……』
分かってる。分かってるよ……でも、でも……。
『みど……り……越えて行け』
『え?』
『我の屍を越えて行け……』
『そんなのできないよ!』
『いいか……みどり……生きとし生けるものは全て、いつかは、誰かの死を乗り越えなければならない。例えどんなに辛くても……』
『いやだ……いやだ!!!』
『今が、その時だ……みどり! 頼む……頼む!!』
お母さんは、泣きながらそうお願いされた。
『……!』
……………………………………………………。
……………………………………………………。
……………………………………分かった。
なぜ、お母さんが、こんな化物になってるのか分からないけど……でも、そうだよね……。お母さん、こんなに辛そうだ。
どんなに辛いことがあっても、何があっても、決して涙を見せなかった、あのお母さんが、初めて、私に涙を見せた。
私はお母さんの立場になって、今一度考えてみた。
何でこうなったのか分からないけど、お母さんは化物になってから自分を制御できずに、たくさんの人達を殺してしまった。
極悪な盗賊ならともかく、何の罪もない人まで殺してしまった。
自分の意志では無いとはいえ、その罪悪感は、とても拭いきれるものじゃない。
うん。分かったよ……。
お母さん……。
『うおおおおおおおおおおおお!』
私はお母さんを押し倒し、抜け出せないように、押さえつけた。
『ゴールドさん! 虹の剣をください!』
『ああ! 分かった!』
ゴールドさんは虹の剣を投げ、私はそれを口でキャッチした。
『そうだ……みどり……右前足の少し下あたりに、剣を刺せ』
私はお母さんに指示された通りに、剣を向ける。
『それと……みどり……最後に伝えたいことが……』
『なに……?』
お母さんは、私にある事を耳打ちをする。
『……え?』
驚愕の事実だった。その事について色々、聞きたい事もあるけど、それどころじゃない。今はやるべきことをやらなくちゃ……。
『……みどりに伝えたい事は……それ……だけだ……あとは……ひと思いに……殺ってくれ……』
『うん……』
いやだ殺したくない……。
まだ私の気持ちが抵抗してる。
……私は気持ちを落ち着けるため、深呼吸をする。気休めだろうけど。
でも、ダメだ。このままじゃ……やらなきゃ……お母さんに、これ以上、人殺しをさせてはいけない……。
気高くて、強くて、カッコいいお母さんに、これ以上……泥を塗らせちゃ……ダメだ!
私は覚悟を決めた。
『じゃあね、お母さん。大好き』
私はそのまま剣を刺した。すると、お母さん身体は、ボロボロと崩れ始めた。
『ああ……お前は、自慢の娘だ……生まれてきてくれて、ありがとう……』
『おがあざん!!!』
私は滂沱の涙を流しながら、お母さんから離れず、ぬくもりが消えるまで抱きついた。
『天から、いつまでも見守っているぞ……』
お母さんはそう言い残して、完全に塵と化した。そこには、お母さんはもういない。あるのは、地面に刺さったままの虹の剣だけだった。
その後、なぜか私は人間に戻ってしまった。身体もボロボロだ。息も苦しくなってきた。
あぁ……私は……私は……。
『お母さああああああああああああああああああん!!!!!』
お母さんとの思い出が、脳内に蘇る。
私は幼い頃から鈍臭くて友達もできなくて、いつもお母さんに心配されてた。親友ができれば安心できるといつも口癖のように言ってた。
私は何をやってもダメだからいつもいつもお母さんに助けて貰ってた。
『今まで迷惑かけてごめんね! 出来が悪くてごめんね! わがままばっかり言ってごめんね! お母さん!!!』
涙が枯れるまで泣き尽くした。
ブロンズさん達が、後ろにいるのに……みっともない姿を見せてしまってるのに……。
そう思っていると後ろから誰かが、私を抱きしめた。同時にいつも嗅いでいる良い香りが、鼻腔をくすぐった。
この香りはブロンズさんだ。すぐに分かった。
『……』
ブロンズさんは私を抱きしめたまま、何も声をかけてこない。
ただ、私の首筋に暖かい水滴が当たっている。
そっか、きっとブロンズさんは、私の心を読んで、一緒に悲しんでくれているんですね。
ブロンズさん、ありがとうございます。いたずら好きだけど、本当は優しいブロンズさん、大好きです。
あ、お母さん。言い忘れていたけどね。
私、親友ができたよ。
第153話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、16日(土)か17日(日)に投稿予定です。
宜しくお願い致します。