第144話『少年は妄想をする、非情になる、そして、想いが溢れ出す』
お待たせしました。
第144話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※2024/08/11改稿しました。
『お兄ちゃん……』
『ブロンズちゃん……』
互いが互いを見つめ合い、思わず顔が火照ってしまう。
しかも、密着しているせいで、まるで互いの心臓の音がデュエットしているように聞こえる。
更に、ブロンズちゃんの匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
匂いに気を取られていると、ブロンズちゃんはこれだけでは満足してないのか、今度は、まるで恋人繋ぎのように俺の手を絡ませた。
だが、これだけではまだ満足できなかったブロンズちゃんは、更に顔を近づけ、互いの唇と唇が触れようとしている。
ブロンズちゃんが……俺の……俺の初めてを奪おうとしている……。
あぁ……俺達は、このまま、欲望のままに、堕ちていく……。
なんて事にはならなかった。
『お兄ちゃんのばか! ばかばかばかばーか!』
ブロンズは泣きながら、そう罵倒してきた。
先程までは、悪い顔をして、調教でもしてやりそうな雰囲気を醸し出したと思ったら、急に口角が下がり、宝石のような涙がポロポロと落ちていった。
『お兄ちゃんの鈍感! 女泣かせ! うわああああああああああん!!!』
男に跨るような魔性の少女が、今はまるで子供のように泣きわめいている。
あのブロンズにしては珍しく冷静さを欠いている。まあ、年相応といえば、そうかもしれないが……。
でも、特に直前まで口論したわけじゃないし、ブロンズに手を出したわけでもないしな……。
仕方ない。ブロンズが泣き止むのを待つか。それから話をしよう。
『待たないで!』
『え?』
『何で私が泣いてるのか聞いて!』
『……えっと、何で泣いてるの?』
『そんなの自分で考えてよ!』
えぇ……。そっちが聞いてきたんじゃん……。
女の子の大丈夫は大丈夫じゃないの! って言うめんどくさい彼女と同じような波動を感じる。彼女居たことないから知らんけど。
『考えても分からないよ……落ち着いたらでいいから、何で泣いてるか教えて?』
俺がそう言うと、ブロンズは涙を拭いて、俺の言う通りに、少し落ち着かせて、こう言った。
『……私……お兄ちゃんに会いたかったの……でも、なぜかお兄ちゃんは、私に敵意を持ってて、心の中でも私の事をブロンズちゃんじゃなくて、ブロンズって呼び捨てしてて……』
あぁ……そういうことか。うーん、これは何だろうな……確かに敵意を持ってたからこそ、呼び捨てにしてしまったのはあるが、俺は本当の俺を思い出して、本来の性格に戻ったからというのもある。ダストなら、呼び捨てにはしないけど、俺は基本心の中では呼び捨てにする。あだ名で呼ぶなんて尚更だ。
『でも! それでも! 寂しいじゃない……! お兄ちゃんは、私……私達の事嫌いなの……?』
『それは……!』
俺はブロンズ達と過ごした、これまでの思い出を振り返る。
………………。
嫌いになんて……なるわけないだろ……。でも――。
『その前に一つ聞かせてくれない?』
『何?』
『俺は自分に敵意を向けてくる者は嫌いだ。君らにとって、俺は何なんだ?』
『もちろん決まってるじゃない……私の大切な人で……大好きなお兄ちゃんよ!』
『……そうか。でも、ブロンズはアクタ側についている。そして俺はアクタを敵だと思ってるし、そのアクタも俺を敵だと思っている……そうだろ?』
『それは……否定できないわ……』
やはりそうだ。どんなにブロンズが俺を好いていても、アクタが俺を殺そうとしている事実がある以上、結局、俺達は敵対関係だという事には変わらない。
『だろ? なら、俺達は仲良くするべきじゃない。よって俺は嫌いであるべきだ。じゃあな』
俺は踵を返し、ブロンズの元を去ろうとする。
『なんで……お兄ちゃんのばか! 私は……それでもあなたが好き! 好きなの! 大好きなの! 何で分かってくれないの……!』
ブロンズは苦し紛れに、俺を引き止めようとしている。
だけど、ブロンズが何を言っても、どんなに泣き叫んでも、俺は歩みを止めない。
非情だと思うか? でも、こればかりはどうしようもできない。
だって……ブロンズが俺に肩入れするということは、アクタの敵になるということだ。
アクタは強い。
俺がアクタに殺されかけた時、俺は思い出した。
ベンリ街に行った時に、あおいちゃんを吹き飛ばした葛木の強さを……。そして、アクタはあいつの何倍も強いと感じた。戦闘がまるでダメな俺でも分かる程に、圧倒的な力を感じた。
あぁ、こいつだけは、敵に回してはいけない。味方であるなら、どんな理由があっても裏切らず味方であるべきだ。
だから、ブロンズ達には、無事で居てほしいからこそ、アクタの敵に回って欲しくない。ただでさえ、神の居城の連中に目をつけられてるのに……。
俺は……ブロンズ達が、殺される所なんて見たくないんだ!
俺は好きなんだ。
こんな俺を暖かく迎えてくれる魔王城の皆が……。
現実世界で、いじめられて、蔑まれて、教師からも匙を投げられた、こんなどうしようもない無能な俺を迎えてくれる……あいつらが……。
こんな気持ちは初めてだ。
ここまで誰かを想ったのは初めてだ。
こんなにも死なないで欲しいと想ったのは初めてだ。
それがダストではない本物の俺の想い。紛れもない本心。
ブロンズ……いや、ブロンズちゃん。もう俺の声も届かないくらい離れてしまったけど……ただこれだけは言わせてほしい。
『ありがとう』
あぁ、これが感謝の気持ち。
あぁ、そして、これが……悲しいという気持ち……なんだな……。
だけど、これでいい。ブロンズ達にとって……俺は敵であるべきなんだ……。
それでいい。それでいいんだ……。
『…………なんで』
なんで……なんでだよ……。
俺は……俺は……。
なんであいつらの敵にならなくちゃいけないんだよ……!
溢れる想いが、涙へと変わり、俺は崩れ落ちる。
『うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
俺は堪らず、子供のように泣き叫んでしまった。
本当はもっと……ブロンズ達と、魔王城で……楽しく過ごしたかった……。
第144話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、本日26日(土)か27日(日)に投稿予定です。
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