第141話『大きな桜の木』
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第141話の執筆が完了しました。
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※2024/08/10改稿しました。
――それから1時間が経過した。
ミユウは、とにかくずっと泣いて泣いて泣いた。嬉し涙もあるだろうが、怖い思いをしてずっと辛かったという涙も合わせると、相当な涙の量が溢れただろう。
そんなミユウだが、時間が経てばさすがに泣き疲れたので、涙を拭い、跡がくっきり残ったまま、笑顔でヒナの方を振り向いた。
『ヒナさん! 本当にありがとう!』
『どういたしまして』
ミユウはダイゴの記憶が戻って余程、嬉しかったのか、まるで子供のようにぴょんぴょんと飛び回った。見てるこっちも頬が緩む。小柄で幼い顔立ちだから余計にそう見える。
『俺からも礼を言わせてくれ。感謝する』
ダイゴの方も、ヒナだけではなく俺にまでお礼を言って頭を下げた。
『治したのはヒナだ。礼ならヒナだけに言ってくれ』
『いえ、あなたもよ。あなたが、ヒナをここに連れてきてくれなかったら、ダイゴの記憶の修復なんて、とてもじゃないけど、できなかったわ』
それもただの偶然なんだけどな。どうしても俺にもお礼を言いたいようだ。
『お、おう。分かった。ここは素直に感謝の意を受け取ろう』
それから俺達はミユウとダイゴの厚意により、ここで泊まっていく事になった。しかも夕飯まで用意してくれて、和食というやつをご馳走になった。俺の村では食べたこともない味だったので、驚愕の連続だった。
和食、本当に旨かったな……また食いたいものだ。
ここ桜の国は、和の国とも呼ばれているが、全ての桜の木が季節問わず咲き続けている故に、桜の国と呼ばれる事が多くなった。
現在は、廃墟の国ではあるものの、桜だけは、変わらずに佇んでいる。例え人類が滅びても、この先ずっと咲き続けるのだろう。
『というわけで、この桜の国は絶景だ。特に夜はな。良かったら、今から見に行くか?』
ダイゴは、地元を愛する故なのか、どこか嬉しそうに誘ってきた。
『ああ、ぜひ見てみたい』
『私も見てみたいです!』
『ミユウ、ここ周辺で何か察知してるか?』
『いいえ。今のところ、ここ周辺では、特に何も察知してないわ』
ミユウは、以前から、常に襲撃を警戒し、いつでも迎撃できるように、細心の注意を払うようにしている。特にあの化物に対しては。
『よし、それなら大丈夫だな』
『じゃあ、行きましょう』
桜の国の夜の景色……一体どんな景色なんだろうか。
俺の村でも、桜は咲くが桜の国みたいに咲き続けているわけでも、桜の木の数が多いわけではない。しかも村自体、そんなに広くはないので、桜を見て嗜む事がそんなにない。
だから、俺はこの花見? という娯楽を初めて体験する事になる。楽しみだ。
さて、外に出てみたはいいが、体が凍るんじゃないかってくらい寒かった。
『寒っ!!』
『確かに寒いですね。夜だからかかなり冷えてしまいます』
ヒナはそう言ってるが、その割には一切、身体が震えてないし、表情も笑顔を保ったままだ。
やはり女神なだけあるな。
と思っていたが、ミユウとダイゴの次のセリフで、俺は落胆する事になる。
『そんなに寒いのか?』
『いえ、そんなに寒くはないと思うけど……』
ミユウもダイゴも、不思議そうな顔をして、そう言った。
マジか。お前らも女神だったのか。
『嘘だろ……? めちゃくちゃ寒いぞ……』
俺が寒さに弱すぎるのか? おかしいな。これでも修行時代は、暑い国も寒い村も色々な所を旅してきた。確かに桜の国は来たことはないが、防暑・防寒対策は常に万全を期してきたつもりだ。
ちなみに、その防寒対策とは、俺の体内には、焼き尽つくさない程度の小さな炎魔法を3つ程、施している。これで多少寒くても、身体が暖かくなる。そういえば、これを遠くから来た旅人は『つまりカイロのようなものか』と言っていた。カイロというものはよく分からないが、同じように暖かくなるものと考えてもいいだろう。
とにかく、これを使いこなせれば、こういう寒い時でも快適に過ごす事ができる……はずなんだが、今回に限ってはビックリする程、暖まらない。俺の魔法が機能してないのか、と思ったが、魔力の流れを感じるので、それはない。ということは、単純にここが寒過ぎるんだろうな。
この寒国に住んでいたミユウとダイゴなら、これくらいの寒さは日常だ。だから、この寒さでも平然としていられるんだろう。それは分かる。
『なあ、ヒナ。本当は寒くないんじゃないのか?』
『いや、さすがに寒いですよ』
『いや、その割には、あまり震えてないというか……』
『表情に出してないだけで、内心すごい寒いと思ってますよ?』
ホントにそうだろうか……。
女神とは、みんな寒さに強いのか? それとも……。
『ま、まあいいか。何にせよ、もっと炎魔法を足さないとな』
俺は、自分の体内に炎魔法を足した。普段なら足すこと自体ないが、この寒さだ。足さないとやってられん。
『よし、これでマシになったか』
これで、ようやく震えずに歩ける程度になった。まあ、寒いことには変わりないが……。
俺達は、ミユウとダイゴの案内で、見晴らしの良い丘の頂上まで歩いた。そこには、大きな桜の木が、ただ堂々と佇んでいた。
『わぁ~キレイな桜ですね~』
『そうだろう。この桜の木は遥か昔から咲き続けているらしい。この国で一番高齢な木なんだ』
『へぇ~』
『……』
俺は無言なまま、この、あまりにもキレイすぎる景色を見入っていた。
まるで、おとぎ話の宝の島のような絶景。
そんな事を思っていたら、突然、突風が桜の木を倒そうとしているかのように襲いかかる。
すると、桜の木自体はビクともしなかったが、花びらが吹雪のように舞った。
一つ一つの花びらが、空中で月に照らされて、まるで星空のように、輝きを放った。
その花びら達を見て、俺にはまるでこう言ってるように聞こえた。
――あぁ、我らを照らす月よ。
――我らの一瞬を照らせ。
――我らの生き様を照らせ。
――我らの死に様を照らせ。
――さすれば、我らも落ちるまで咲き乱れよう。輝き続けよう。
月の明かりが、この大きな桜の木を照らす。それはまるで劇場。それぞれが誰よりも輝こうとする役者。
ヤバい、あまりにも桜の景色が美しすぎて、ついポエムを心の中で作ってしまった……。恥ずかしい……。
まあいいさ。誰に何を言われてもいい。
今はただ、この景色を少しでも目に焼き付けておきたい。
『ん?』
『ケイデスさん? どうかしました?』
『……いや、なんでもない』
今、何か聞こえたような……? 気のせいか?
第141話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、20日(日)か21日(月)に投稿予定です。
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