第139話『俺の名前を呼ぶ者』
お待たせしました。
第139話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※2024/08/10改稿しました。
《ダ■■視点》
――ねえ、■■■起きてよ――
どこからか声が聞こえる。俺の名前を呼んでいる。
…………誰だ? 俺を■■■と呼ぶのは? それに、この声……聞き覚えがある……。
ってあれ?
気が付くと俺はまるで、どこかに囚われているような真っ暗な暗闇に居た。だが、不思議と息苦しさが無いことから、おそらくこれは夢の中なのだろう。試しに頬をつねってみたが、痛みが無いのはもちろん、つねられたという感覚すら無かった。
ふと俺は思った………………あれ? 俺は誰だ?
そういえば、先程、聞き覚えのある声の女の子が、俺を■■■と呼んでいたが、その■■■というのが俺の名前なのか?
………………ダメだ。思い出せない。
俺は諦めずに、頑張って思い出そうと、脳の中を深く潜る。
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潜る最中にふと思った。そもそも、俺は今まで何をしていたんだっけ?
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ダメだ。やっぱり何も思い出せない。
と、諦めかけたが、一瞬だけ俺が苦戦をしていた時の記憶がフラッシュバックした。
そうか。さっきまで俺、とんでもなく強い化物と戦っていたのか。
もしかして、その戦闘で魔力を使いすぎて、記憶に影響を及ぼしてしまったのか、それとも、単純に打ち所が悪くて、記憶を失っているのか……。
――ほら、ここ覚えてる? かつて■■■が住んでいた家よ――
また唐突に声が聞こえた。さっきと同じ女の子の声だ。でも俺が住んでいた家ってなんだ? 当然俺は今、暗闇しか見えてないから、どんな内装の家だかさっぱり分からないし、想像すら困難だ。
――ん? 侵入者……? こんな時に……こんな廃墟の国に何の用なの……?――
また同じ声が聞こえた。だが今度は俺にではなく、他の誰かに話しているようだった。そして単語に出てきた侵入者? 廃墟の国? 一体何を言っている?
俺が住んでいた家は廃墟の国にあるってことなのか? よく分からないが、俺にはとても複雑な事情があるようだな。
――■■■、ちょっと様子見てくるね……ひょっとしたら、私はもう戻って来ないかもしれないけど……どうか、■■■だけでも生き延びて……――
女の子は、そう言い残して、去って行った (と思われる)。
その後、しばらく声は聞こえなくなった。本当に戻って来られなくなったのか? 一体何があったんだ……?
というか結局誰だったんだ? 声しか聞こえてないから、その女の子がどんな外見してるとか、どんな服装してるかも分からない。ただ、やはり聞き覚えはある声だ。しかも……その声を聞くと、なぜだか心地が良い。まるで、家族のような……友達? いや、それ以上の何かか? とにかく安心感がある。
もし、この声がもう二度と聞こえないと思うと……なぜか涙が止まらない。
……もう一度、脳の中を潜ってみるか。
俺は再び頭の中で、失くした記憶を掘り起こそうとする。どうしても思い出さなきゃいけない気がするから……。
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ダメだ。いくら自分の記憶を掘り起こそうとしても、何も思い出せない。まるでお宝がない発掘場を、ただ虚しく掘っているようだ。
だが、分かったことがある。俺は多分その女の子をいつも見ていた。いつも見守っていた。そして共に支えながら困難に立ち向かっていた……と思う。
だとしたら今すぐ起きなければ。さっきから、あの子の声は依然として聞こえてこない。やはり何かあったのかもしれない。助けに行かないと。
起きろ、おい起きろよ俺――
起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ。
起きろよ俺!!!!!
だが、どんなにそう思っても、願っても、自分を殴ってみてもダメだった。この暗闇から脱することができない。
早く……早く覚めてくれ。
もう何も失いたくないんだ。なぜだかそんなことを思った。
俺はおそらく既に何か大切なものを失っている。だから、その女の子こそ……俺の最後の希望なんだと思う。もし、その子すら失ってしまったら……。
考えただけで、恐ろしくなる。
あぁ、どうか耐えてくれ。生きててくれ。今、助けに行く……。無駄だと分かっても、そう思わずにはいられなかった。
俺は夢から抜け出そうとするが、どうすれば夢から覚めるか分からない。夢といえば勝手に目覚めるものだが、それがいつになるか分からない以上は早く目覚める方法を知る必要がある。
一体どうすればいいんだ……?
もはや何をどうやっても夢から覚めず、挫けそうになったその時、暗闇の上空から、神々しいオーラを纏った女性が俺の目の前に降りてきた。
『■■■さん』
『ん? 何者だ?』
とても綺麗な女性だった。まるで女神様のようだ。
『私は、■■■さんの記憶を再生しにきた者です』
『俺の……記憶?』
すると、その女性が両手のひらを上に向けると、そこから小さな球状の光がゆっくりと顔を出した。そして、俺の身体に吸い込まれるように入って行った。
――その瞬間、俺は全てを思い出した。
そうだ……俺は……俺は……。
俺は桜の国で生まれ、桜の国で育った。子供の頃とある幼なじみの女の子と共に、冒険者に憧れ、共に目指した。
その為に得意な体術はもちろん、苦手な剣術や魔法も、なんとか習得した。一方幼なじみのあいつは俺とは反対に体術が苦手で魔法が得意だった。だからこそ俺とあいつは、パートナーとして相性が良かった。お互いの苦手な所を補い合えるからな。
なので、俺はあいつを冒険のパートナーにならないかと誘った。すると、あいつも同じ考えだったのか、二つ返事で承諾してくれた。もはや告白同然だとか、周りの奴らにからかわれたが、それでも俺はどうしても、あいつと一緒に冒険してみたかったのだ。たとえ、パートナーとしての相性が悪いと言われても、どの道そうしたと思う。
それから時が経ち、ついにこの日がやってきた。俺とあいつは二人組の冒険者として旅に出たのだ。そして数々の依頼をこなし、数々の国や村を渡ってきた。色んな人に出会った。色んな事があった。そしてそこには、いつもあいつの姿が……。
あぁ……俺の思い出の中の、あいつの俺を呼ぶ声が頭に染み渡る。それは俺を優しく包むように、愛してくれるように……。
――ねえ、早く起きてよ。ダイゴ――
あぁ、そうだな。ミユウ。俺とお前は共にある。これからも一緒だ。
そう、俺の名前はダイゴ。ミユウの騎手であり、相棒だ。
――その瞬間。暗闇にヒビが入り、やがて、ガラスのように全て砕け散り、暗闇から、全てを照らす光へと変わり果てた。
そして、俺は今、ミユウの元へ――
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次回は、14日(月)~16日(水)に投稿予定です。
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