第134話『クロノス』
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第134話の執筆が完了しました。
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※2024/08/04改稿しました。
カイオスさんは神の居城出身で、しかも神の子であり、それを半神という。
なるほど、カイオスさんのあの強さはそういうことか。もちろん修行の成果もあるだろう。むしろそちらの方が大きい。
しかし、少し引っかかる事がある。
私も詳しく知らないが、半神であれば、神の力を半分持っているはずなのだが、クロノスから感じる魔力以外の何かは、カイオスさんには一切感じられない。ただの人間と同じように感じるのだ。
半神は半神でも、カイオスさんの場合は、何か事情があるのだろうか?
『どうしたのかな? 半神くん?』
クロノスは不適な笑みで見下すような態度を取った。
カイオスさんは握り拳を握ると、クロノスを睨みつけてこう言った。
『俺は……俺はもう半神じゃない』
もう半神じゃない……?
『いや、半神だよ。あんな安っぽい儀式なんてやって、人間になったつもりなんだろうけど、結局、君の中には、あのゼウスの血が流れてることには変わりないのさ』
『あんな奴は、家族なんかじゃない……俺の家族は、お前らがさらった村の皆だ!』
『はぁ……相変わらず、ものわかりが悪いね……そんなんだから君の母は……』
『黙れ……! 黙れ!!!』
カイオスさんは激しく憤り、クロノスに槍を投げた。
この時、クロノスは避ける動きもなければ、特に焦っているわけでもなく、涼しい顔で、自分を貫こうとしている槍を見つめている。
何だ。この余裕は……?
『一体、どういうつも――』
『――僕にそんな攻撃は効かないよ?』
『!?』
クロノスは、いつの間にかカイオスさんの後ろに立っていた。しかも、先程カイオスさんが投げたはずの槍を持っていた。
私ですら全然見えなかった。私から見たら、クロノスはつい3秒前まで微動だにしてなかったはずだが……。
『ま、君にとって僕は初対面だから、僕の能力を知らないのも無理はないか』
『何で……お前が俺の槍を……?』
カイオスさんも、私もこの状況が理解できず、驚愕している。
『僕は、自在に時を止める事ができるのさ』
『時を……止めるだと……!?』
『ああ、時を止めると、当然君が投げてきた槍も空中でピタリと止まる。そして、その槍を、僕がそのまま回収すれば、この通りさ』
つまり、どんな攻撃をしかけても確実に回避できるというわけか。なんてむちゃくちゃな……。こんな怪物にどうやって勝てと……?
『勝てないよ。あいつら以外の誰にもね』
クロノスはまるで私の心を読んだかのように回答した。しかも、また時を止めたのか、いつの間に、私の後ろに立っていた。
私はつい条件反射で、距離を取り、剣を構えた。絶対、勝てるはずもないのに。
『はぁ……なんか君たち勘違いしてないか?』
『何……?』
『僕は、別に君たちを襲撃しにきたわけじゃないんだよ?』
『何だと……?』
『むしろ、応援しにきたんだ! 可哀想な君たちをね』
クロノスはまた見下すようにそう言った。
『お前の応援なんていらねえよ!』
『えぇ……そんなグスッ……酷いよぉ……グスッ……僕……僕せっかく……グスッ……君たちを応援してあげようと……グスッ……思ったのに……グスッ』
まるで期待を裏切られた子供のように泣きじゃくった。どうせ演技だろうが。
『黙れ! お前の御託はもうたくさんだ! さっさと村の皆がどこに行ったか話せ!』
『あぁ、そうだったね。グスッグスッ……えっと、確か……』
クロノスは、流した涙を拭き終えると、残酷な事実を告白した。
『君たちがさっき倒した化物がそうだよ』
『は……!?』
その刹那、理解しきれなかったが、程なくして、背筋が凍った。
あの化物が、カイオスさんの村人達ですって……? つまり、たくさんの人の身体があの化物の一部を担っていたということだ。
考えうる限り最悪の展開だ。そんなことを許していいわけがない。
今のところ他人事であるはずだが、私は自分のことのように憤怒の感情が湧き、握りこぶしを握った。
『なんだよ……それ……そんな……そんなわけ……』
カイオスさんは、絶望しきった顔で膝をついた。
『あるよ。確かに彼らがあの化物に――』
『嘘だ!!!』
カイオスさんは、訳も分からずクロノスに殴りかかった。
『だから、僕に攻撃なんて無意味だって言ってるじゃん』
クロノスは、またカイオスさんの後ろに立っていた。
『嘘だ嘘だ嘘だ!!!』
カイオスさんは泣きそうな顔になりがらも、クロノスに殴りかかろうとすることをやめない。そして、その度にクロノスは時を止めて、攻撃をかわす。
『はぁ……一応言っとくけど、僕の仕業じゃないよ。だから僕に当たられても困るよ』
『じゃあ誰がやったんだ! 言え! そいつをぶっ殺してやる!!!』
『アテナだよ、アテナ。超性悪女だよ。僕も嫌いなんだよねーあのゴミ女』
『アテナ……?』
アテナ……確か、ダスト様が話していた、アクタという男が、ある女の子を連れ出した時に出くわした、本当に性格の悪い盗賊団の女と聞いている。
なるほど、クロノスを完全に信用したわけではありませんが、そこまで性格の悪いアテナが、村人をさらって、禍々しい化物にするなんて、確かにやりそうだとは思う。まあ、話を聞いた限りでの私の勝手な憶測だが。
『そうか、そのアテナという奴がやったんだな、そいつは今どこにいる!』
『多分、神の居城か、盗賊団の本拠地じゃない? 知らないけど』
『よし……なら、今すぐぶっ殺してやる!!!』
カイオスさんはそう言って、猛スピードで走り去って行った。
――その際にクロノスはまた時を止めて、槍をこっそりカイオスさんの手に握らせる形で返した。本人は槍を握った感触を確かに覚えたが、振り返ることなくそのまま走り去ってしまった。
『カイオスさん!』
私の声はカイオスさんに届かなかった。もっと冷静に行動してほしかったのだが、今回ばかりは無理もない。家族同然の村人達をあんな化物にさせた挙げ句、カイオスさん自身がその化物を消してしまって、心の整理も難しいだろう。それに、私も彼になんて言葉をかければいいか……。
『全く……まだ話したい事があったのに……』
クロノスはやれやれと肩を竦めながら、そう言った。
『まだ何か話すことがあるんですか?』
『まあ、話したい事というか、警告だよ』
『警告?』
『実はさ……さっき君たちが倒したあの化物……あと2匹いるんだよ』
『は……?』
第135話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、明後日の5日(土)に投稿予定です。
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