第110話『霧は晴れても霧はかかったままだった』
お待たせしました。
第110話の執筆が完了しました。
宜しくお願いいたします。
※2024/06/12改稿しました。
――霧よ。舞え。
どこかから女の声が聞こえる。俺の仲間の声ではない。誰かがここに侵入している。
『なんだこの霧は……』
視界が見えなくなる程の濃い霧が舞う。これで仲間の安否が見えない状態になってしまった。
――惑え。
今度はさっきの女とは違う女の声が聞こえた。こちらも初めて聞く声だ。
『おい、聞こえるか!』
そう問いかけると、全員それぞれ自分は無事だと返事をしてくれたが、ケンとトッキーの返事は無かった。
『ケン! トッキー! 聞こえるか!?』
『は? 誰だよそれ!』
馴染みのある名前のはずだが、誰一人としてその名前に記憶がないようだ。
どうやら、今度はケンとトッキーの存在が消えてしまったみたいだ。
『くそっ……! 次々と仲間が消えていく……!』
少しすると霧は完全に晴れ、皆の姿が見えるようになった。消えてしまった者以外は……。
『おお、みんな無事だな!』
『良かった!』
『……』
『ん? どうしたー?』
俺は無言でフランを見た。
フランよ、忘れたのか? お前の弟を……。
『団長?』
今度はシュタインを見た。
シュタイン……お前の兄を覚えていないのか……?
『団長……何でそんな悲しそうな顔をしているの?』
シュタインのそんな問いかけにも何も反応できない。俺はまた仲間を失ってしまったのだ。あの時のように……。
『……』
俺が悲壮感を醸し出してしまったからなのか、何とも言えない空気になり、沈黙が続いた。それから、少し経つと……。
――霧よ舞え。
突然、さっきと同じ女の声が聞こえ、さっきと同じように霧がかかった。
『うわっ! また霧かよ!』
『さっきから何なんだよ!』
――惑え。
この声もまた別の女の声だった。さっきも思ったが、惑えとはどういうことだ?
『おい、大丈夫か!』
今度はゴールドが、皆にそう問いかけた。
『うん、大丈夫だよ! お姉ちゃん』
『俺は大丈夫だ!』
ゴールド、シルバー、フランの声が聞こえた。だが今度はアミとシュタインの声が聞こえない。またしても2人消えてしまったようだ……。
『お、霧が晴れた』
視界が晴れたが、やはり人数が減っている。俺を含めても、あと4人しかいない。
『よし、みんな無事みたいだな!』
『……』
『ん? どうした? シルバー?』
『え、い、いや……な、何でもないよ』
シルバーは不自然なくらい目を泳がせては、キョロキョロと辺りを見渡している。
『そ、そうか』
シルバー? 一体何があったんだ?
『……なあ、アタシ達ってそもそも何でここに来たんだっけ?』
『えーと……修行?』
『ここにたどり着く事が修行って事か? そうなのか師匠?』
ゴールドもフランも記憶を失っていても、この状況にはさすがに違和感を覚えていさるようだ。
ゴールド達からすれば、誰もいない旅館の和室にたった4人がなぜかここにたどり着いたという認識だからな。しかし、これが修行だと言えば微妙に納得がいかないが、修行とはそんなものなのかと思うだけになる。ならばゴールドの問いかけに対して、俺の答えは……。
『そんな訳ないだろう。これは何者かの策略だ』
まあ、下手に不安にさせたくないから、修行だと言って、嘘をつく手も思い付かなかったわけじゃないが……こんな異常な状況なんだ。違和感を持ってもらわねば困る。
『どういうことだ!?』
『誰がこんなことを……?』
『……』
ゴールドとフランは、当然驚いているが、シルバーだけは気まずそうに下を向いている。本当にどうしたんだ?
『シルバー』
『え、は、はい! なんでしょう?』
シルバーは何か考え事をしていたのか、急に声をかけられて、ビクッと身体を震わせていた。
『具合でも悪いのか?』
『え……いや、大丈夫……です』
『そうか。ならいいんだ』
本当に大丈夫なのか? 明らかに顔色が良くないぞ?
『なあ、師匠』
ゴールドが声をかけてきた。
『何だ?』
『……あのさ、アタシ達ってホントは――――』
――霧よ。舞え。
会話を遮るように、突然また霧がかかった。すると当然視界が見えなくなった。
『おい、聞こえるか!』
また、同じように問いかけてみるが、とうとう誰の声も聞こえなくなった。いよいよ全員消えてしまったのか……そんな事を思っている内に、早々に霧が晴れた。するとゴールドとフランの姿は消えていた。
俺の目に映ったのは、苦しそうに頭を抱えているシルバーだった。
『シルバー!』
俺は唯一残ってくれたシルバーの元へ駆け寄った。
『大丈夫か! シルバー!』
『う……アクタさん……逃げて……』
今にも消えてしまいそうな弱々しい声で、そう俺に警告した直後、シルバーの目付きは別人のように変わり、手刀で俺を貫こうとしたが、難なく受け止めた。
『やはり、この程度じゃアクタをやれませんか……』
シルバーの姿をしているが、いつもと声が違う。この声は先程、“霧よ。舞え”と言っていた声と酷似している。霧をかけたのはこいつの仕業と考えて、間違いないだろう。
『ふふふ……』
シルバー (?)は不適な笑みを浮かべながら、霧と同化したように消えていった。だが気配と殺意を感じるので、撤退したわけではないようだ。
『貴様らは何者だ! 姿を現せ!』
しかし、誰も姿を現さず、声だけしか聞こえなかった。
『私は霧の女神ミスト……あの方の命により、アクタ……お前を殺しに来ましたよ……』
あの方……? 誰だ?
『覚悟して下さいね……ふふふ……』
そこで声は途切れた。だが、やはり気配と殺意はそこにあるままだ。なので不意打ちを察知する事はできるが完璧ではない。
この場を乗り切るには手刀が俺に触れる前に回避するしかない。反射神経には自信があるが、俺も何か手を打たなければ、時間の問題だ。
この場にいるであろう、“惑え”と言っていたもう1人の存在も気になる。おそらく霧を発する以外の役割があるはずだが……。
念のため、あいつを呼び出すか。
第110話を見て下さり、ありがとうございました。
次回は、13日(火)~15日(木)に投稿予定です。
宜しくお願いいたします。