第103話『嫉妬と再会と作戦と……』
※2024/01/11改稿しました。
お待たせしました。
第103話の執筆が完了しました。
宜しくお願いいたします。
さて、今日はとても良い天気だ。こんな日は外に出て、敵の視察や殲滅に限る……と言いたいところだが、俺はまだ休暇という名の枷が外れないため、どこにも出掛けられない。
『暇だ』
俺は、独りで、ただ、そう呟いた。
――呟いてから10時間が経過した。
そろそろブロンズとみどりが、フランとケンを連れて来る頃だと思い、今、魔王城にいる者全員、城の前で待機し始めた。なにも全員で城の前に居る必要はないと言ったんだが、朝から緊張しっぱなしのシュタインが、心配なので、皆で立ち会う事にした。
『……うぅ……』
久々の再会だからなのか、シュタインはソワソワして落ち着かない様子だ。
『大丈夫か? 少し、顔色が優れないようだが』
俺がそう言うと、横から俺を押し退けたゴールドが、心配そうな顔で、シュタインに迫る勢いでこう言った。
『シュタイン、大丈夫か!? 熱あるんじゃないのか!? 王・カーユ (お粥)作ろうか!?』
シュタインの熱は36.5℃だ。これ以上無いくらいに平熱だから、心配する必要はないぞ。
『あ、あの……大丈夫……です』
シュタインは軽く苦笑いをして、ゴールドの申し出を断った。
『なら、マッサージしようか!?』
返事の有無を待たずして、ゴールドはシュタインの肩を揉み始めた。シュタインはマッサージの心地よさを味わい、少しリラックスできたようだ。
『ああ、もういっそ、アタシが抱きしめて心身共に暖めてやる!』
ゴールドはシュタインを思う気持ちが溢れ、勢いよく抱きしめた。
『あ……暖かい……それに、良い匂い……』
シュタインはゴールドに抱きしめられた事で、顔色も良くなり、緊張もかなり解けたようだ。
『ハァ……ハァ……グヘヘヘヘ……朝からいいものを見せてもらったよ……』
ギャラリーに紛れてるアースは、ゴールドとシュタインが抱き合っている光景を見て、息遣いを荒くしている。教育に悪いから、その犯罪者みたいな顔はやめてほしいものだ。
『はぁ……』
ほら見ろ。そんな気持ち悪いアースを見たシルバーも、ため息をつきながら、呆れた表情をしているぞ。
『アース様……』
シルバーは今度は少し怒りを混ぜたような表情でアースに近づいた。
『な、なにシルバー……さん?』
さすがのアースも、シルバーを怒られたことで、足元に火がついたような顔をしている。
『酷いですよ……』
『ご、ごめんなさい……!』
『もう! ホント酷い話ですよ! 最近のお姉ちゃんは、シュタインさんばかり可愛がって! 私、お姉ちゃんと、あまり触れあってすらいないのに!』
いや、ただの嫉妬だった。
『ん、んん? あ、ああ、そっちか…………まあ、そうだねぇ……』
『私はこんなにお姉ちゃんを愛してるのに……なのに……なのに……最近は、私よりもシュタインさんと一緒にいる時間が多い気がして……ねえ、私の事は、遊びだったの? 酷いよ……お姉ちゃん……』
シルバーは眼の輝きを失い、全身からとんでもなく禍々しいオーラが漂っている。これが俗に言う修羅場というやつか。というかシルバーはこんなに重い女だったか?
『ひ、ひぇ……』
さすがのアースも、これには恐怖を覚えざるを得なかった。思わずシルバーから距離を取ろうとしたが、肩を掴まれた。
『聞いてくださいよぉ……私とお姉ちゃんとの、馴れ初め話を……』
『あ、私、ちょっとお腹痛くなっちゃって……トイレ行きたいなー……なんて』
『……そうですか』
『ふぅ……じゃそいうことで☆』
これで、逃げられる……と安堵しきっていたアースだが、シルバーにまた肩を掴まれ、こう言われた。
『でしたら、私が、トイレまでついて行きますよお!』
『ひ、ひえええええええええええ』
悲痛の叫びを放つも、その声に誰も耳を傾けず、見て見ぬフリをした。非常に酷な話だが、アースにはここで犠牲になってもらおう。手を伸ばして助けを求めるアースがシルバーに連れ去られるのを静かに見送った。
『悪く思うな、アース……お前は日頃の行いが悪すぎたんだ……』
少し経つとアースとシルバーが戻ってきたが、シルバーは、まだ禍々しいオーラを放ちながら、延々と馴れ初め話をしていた。
『でねー、お姉ちゃんがねー、お姉ちゃんが――――』
『アハハ、ソウデスネ』
もはや、その言葉にアースの意志はない。ただ、機械的に返事をするのみだった。
『あ、来たぞ!』
ゴールドがそう言って『おーい!』と、手を振っていると、迷いの森からブロンズとみどりが、フランとケンを連れてやってきた。
『フラン……ケン……』
シュタインは兄弟の姿を見ると、真っ先に前に出た。
『シュタイン……』
兄妹の感動の再会に、フラン達兄妹だけではなく、ギャラリーの全員が目を潤ませた。
『感動の再会ってやつっすね……!』
女神の目にも涙。しかし、それを娯楽を見るかのようにお菓子を口に運んでいる。
『アースよ。昨日あれだけ悪事を働いた (主に俺に)上に、さっきシルバーに地獄の馴れ初め話を、聞かされて、精神が瀕死状態だというのに、なぜ俺の隣で何食わぬ顔をして、堂々とお菓子を食べている?』
『まあまあ……アクタ君や、それよりも私が丹精を込めて作った、クッキーを――――』
アースは何の脈略もなく俺にクッキーを差し出してきた。絶対何か入ってるだろ。
『断る』
『まだ、最後まで言ってないっすけど?』
『最後まで言わなくても分かる。お前が作ったクッキーを、俺に食わせる気なんだろ?』
『その通りっす。これまでの感謝の気持ちっす。遠慮せず食べて欲しいっす』
お前が、俺に感謝の気持ちなんて微塵もないだろ。
『あいにく毒を食べるのは趣味じゃないのでな』
『ど、毒なんて、失礼な! そ、そんなベタな事、す、するわけないじゃないっすか!』
分かりやすく動揺している。それがもう自分の犯行を認めているようなものだ。
『隙あらば俺を殺そうとしている奴が、なぜ突然、手作りクッキーを振る舞う?』
『そ、それは……』
アースは動揺で言葉が詰まり何も言い返せなくなった。
『う……うぅ……うわあああああああああん!』
すると、アースがとうとう泣き出してしまった。俺はやれやれと肩をすくめる。
向こうで泣いていたはずのゴールド達姉妹が、鬼の形相でこちらに近づき、それぞれ俺に怒りの言葉をぶつけてきた。
『おい師匠! なにアースちゃんを泣かしてんだよ! せっかくの手作りだろ! 食ってやれよ!』
『そうよ! アースちゃんが可哀想だわ!』
『団長! 男を見せて下さいよ!』
全員もれなく誤解しているが、まあ端から見れば、女の子が頑張って作ったクッキーを無下にしたのだから、責められるのは想像に難しくない。
『待て、誤解だ。話を聞け――――』
一瞬ニヤリと嗤ったアースを見た。なるほど、これも全て作戦通りだった訳か……ふっ……完敗だ。
『問答無用!!!』
この後滅茶苦茶クッキー食わされた。案の定、毒が入っていたが、俺には全く効かなかった。
第103話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、26日(土)か27日(日)に投稿予定です。
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