第102話『朝がやって来た』
※2024/01/08改稿しました。
お待たせしました。
第102話の執筆が完了しました。
宜しくお願いいたします。
『どうだ? なんか、思い出したか?』
『いや、全く』
今はアレンの提案で、学校帰りにいつも寄っている街中を歩いている。これがきっかけで何か思い出せるんじゃないかと踏んでいるようだ。……だが、すまない。全然記憶喪失じゃないんだ。だから、どんなに街を歩き回っても何も進展はないのだ。
『うーん、そうか……じゃ、お前ん家行くか。……一応聞くけど、場所覚えてるか?』
『……覚えてない』
覚えているも何も知っているわけがない。
『やっぱそうか。俺は昔からよくお前んちに遊び行ってたから、ばっちり覚えてるわ。行こうぜ』
俺は言われるがままに、アレンの後をついていった。
『着いたぜ。このアパートだ』
アレンが、そう言ってアパートという名の建物を指を指した。
『ここが……俺の家……』
正確には、アパートの一室だ。
『どうした? 早く入ろうぜ』
『ああ』
ドアの前まで来て、アレンが思い出したかのように、こう言った。
『……お前、家の鍵は?』
『鍵か……』
俺は直感で上着の内ポケットの中に鍵が入っていた。
『お、それだ!』
ガチャッ。出入りを許可した音が聞こえた。
『お前んち、久々だなー!』
アレンはまるで自分の家のように、軽々と入っていった。
『……』
俺は家の中を観察した。テレビにゲーム機という電化製品に、漫画……ラノベという書籍等の娯楽物が大量に置いてある。勉強する為の参考書等は一切無いことから、この世界のダストは、遊んでばかりいる事がよく分かる。冷蔵庫の中身も見たが、料理する気など一切ないと言わんばかりに、冷凍食品でびっしり埋まっていた。
察してみると、どうやら、俺……じゃなくて、ダストは1人暮らしをしているようだ。
『どうだ? 何か思い出したか?』
『いや、何も』
そう答えるしかない。
『えぇ……マジかよぉ……じゃあ、やっぱ病院行こうぜ』
俺の身を案じているのか、俺に病院へ行くことを勧めてくる。
『大丈夫だ。その内思い出す』
病気でも無いのに、病院沙汰とか冗談じゃない。俺は、頑なに拒否する姿勢を見せた。
『どうしてもダメか?』
『ああ』
『……そうか……ならば……』
『!』
アレンは人が変わったようにニヤリと笑い、こちらに近づいてきた。憎悪のオーラを放出しながら。
『死ねええええええ! アクタ!!!』
アレンは闇のオーラを纏ったナイフを取り出し、俺の腹部を刺そうとしたが、俺はそのナイフをはたき落とし、アレンを床に押し倒した。
『貴様……何者だ……!』
と聞いてはいるが、こいつの正体はもう分かっている。先ほど憎悪のオーラを放出した時点で気づいた。この憎悪のオーラは、俺が寝る前に見たものと同じ……そう、今、目の前にいる、アレンは……。
『本当は、もう分かってるんだろう? そうさ、俺は……私はアースっすよ』
そう言うと、アレンの身体に大きな亀裂が入り、殻を破るように中からアースが出てきた。
『アース。なぜお前がここに……?』
『たまたま、お前を殺すチャンスができたと思って、実行しようとしただけっすよ。まあ、失敗してしまったっすけどね』
完全なる敵対行動をしてきたにも関わらず、軽薄な態度を示している。
『だが、殺せたとしても、ここは所詮夢の中だろう?』
『と、思うじゃん? お前は勘違いをしている』
『どういうことだ?』
『この世界は夢ではあるが、夢ではないのさ』
『なんだと?』
『特別に教えてやるよ……この世界はな――――』
この後、アースはこの世界について丁寧に説明してくれた。
まず、この世界はダストの記憶を素に作られた世界を夢として体験する事ができる、記憶世界という、魔法でも改造システムでもない科学技術を使用したものらしい。
ここまで聞くと娯楽の物として人々に普及されてもおかしくはないと思うが、この世界で命を落とした場合、現実でも死ぬ事になる。つまり、これは娯楽の為に作られたわけではなく、物理的に強すぎて勝てない相手を夢の中で殺すという、一種の殺人兵器だ。
『なるほど……この世界については分かった。だが、気になることがある』
『気になること?』
『なぜ、俺がダストの記憶世界を見ている?』
『そりゃ、お前が、ダスト君の部屋で寝てるからじゃないの?』
『……!』
そういうことか……。確かに俺は今訳あってダストの部屋で寝ている。ダストの部屋に記憶世界を仕掛けていたということだ。
『ちょっと待て。なぜお前はこれをダストの部屋に仕掛けた?』
『知らないよ。だってこれを仕掛けたのは、私じゃないからね』
『何? お前じゃないのか? じゃあ誰だ?』
俺がそう質問すると、アースはため息をつきながら、やれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
『おいおい、お前なら分かるはずだ』
『どういう意味だ』
『答えを教えるのも癪だからヒントをあげよう。前にベンリ街で、お前はダスト君の暴走を止めに行った事があっただろう?』
あれか。確か聞いた話では、マーブルが試練だか任務とか訳の分からない事を言って、ダストをベンリ街へ送り出したあの日の事か。
『それがどうかしたのか?』
『あの時、ダスト君の傍には誰がいた?』
ダストがベンリ街へ行った時に一緒に居たのは――
『ああ、そういうことか……!』
『やっと分かったようだね』
『ああ、ダストを暴走させたのも、ダストの部屋に記憶世界を仕掛けたのも、全てあいつの仕業だったんだな。ただ、目的が分からないな……』
『そうだねぇ……しかも、その犯人はもう消滅しちゃったからね……』
『いや、あいつは簡単に消滅するような奴ではないだろう。きっと、世界のどこかで人をあざ嗤っているに違いない』
そもそも、俺はあいつが消滅したイメージすら思い浮かばない。
『でも、あいつ例の盗賊団のアジトで、消滅したはずだけど……』
『本当にそうだろうか? 消滅したフリをしてどこかへ行った可能性もある』
むしろ、その可能性の方が高いだろう。
『うーん、まあいいか……って、おっと、そろそろ朝になるみたいだ』
朝になるというのは現実の話だ。つまり、そろそろ起きる時間だ。
『待て、もう1つ聞きたいことがある』
『何?』
『お前がダストに記憶世界を仕掛けた犯人じゃないなら、なぜ、お前はここにいる?』
俺がそう質問すると、アースはまたしてもため息をついた。
『やっぱそれ聞いちゃうよね。それはね……乙女の秘密っすよ☆』
アースは元の口調に戻して、ピースとウィンクをしながら、そう答えた。
『おい、ふざけ――――』
ふざけるなと最後まで言い切る前に、アースはいつの間にか目の前から消えてしまった。まるで最初からいなかったかのように。
いや、それとも俺の方が先に消えたのか? まあ、いずれにせよ――
――――朝がやって来た。
第102話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、23日(水)~25日(金)に投稿予定です。
宜しくお願いいたします。