第97話『怪物、限界を知る』
※2023/12/20改稿しました。
お待たせしました。
第97話の執筆が完了しました。
宜しくお願いいたします。
時の女神は突如として俺の前に現れて早々、誰も予想だにしない衝撃の事実を告げた。
『なんだと……!? まさか、あいつが……?』
魔法どころか改造システムすら存在するこの世界なら、どんな事象が起きてもおかしくないと思っていた。だが、さすがにこれは解せない。
困惑している俺をよそに、時の女神はある提案をしてきた。
『……分かった、とりあえずその方向で行こう』
時の女神はコクリと頷いた。すると、さっきの風とは違う突風が吹き、気付いたら時の女神の姿はなかった。
――そして、時は動き出す。木々は風に揺られ、ブロンズとシュタインはなびいた髪を抑えた。
『やけに強い風でしたね……』
『ええ、嵐の前触れか何かかしら?』
『……』
『アクタお兄ちゃん?』
『団長?』
呆けた俺を、2人は呼んだ。
『ん? どうした?』
『急にぼーっとしてたからどうしたのかと思って』
『ああ、すまない。何でもない』
『そう?』
しかし、シュタインは俺に訝かしむような目を向ける。
『団長、ホントは何か考え事をしていたんでしょう? 今度は何ですか?』
『……この後、どうするか考えていた』
俺は咄嗟に嘘をついた。あながち間違いではないが。
『どうするって、火の国の基地? へ行くんじゃ……?』
『それはもちろんだが、その更に後の事を考えていたんだ』
これも嘘だが、考えなくてはいけないところではある。
『ねえ、アクタお兄ちゃん』
『どうした?』
『昨日の事だけど、おおよその事はシュタインちゃんから聞いたわ。大変だったようね』
『ああ……ブロンズにも全て説明しておく』
俺は昨日起きた事をブロンズに包み隠さず説明した。その途中で、シュタインが思い出して泣きそうになっていたが、なんとか堪えてくれた。
『そう……だったのね……』
ブロンズは想像以上の話を聞かされて、少し放心気味になった。シュタインに共感したのか目も潤んでいる。
『俺はこれからシュタインを連れて火の国にいるフランとケンに会うつもりだ』
『もう行くの?』
『ああ』
ブロンズはどこか寂しそうな顔をしている。せっかく帰って来たんだから、もうちょっとゆっくりしていけばいいのに、と言わんばかりに。
その気持ちはありがたいが、俺にはやらなきゃいけない事が沢山ある。その為に時間は有効に使いたい。
『あの、団長』
シュタインは俺の服の袖を掴んできた。
『どうした?』
『もしかして、一刻も早く、私をフランとケンに会わせようとしてませんか?』
『ああ、そうだな。シュタインもその方がいいのだろう?』
『確かに、そうなんですが……その……えっと……』
シュタインは、何やら言葉を詰まらせてる様子。すると、ブロンズがシュタインの肩に手を置いた。
『大丈夫よ。それくらいのわがまま、アクタお兄ちゃんなら、聞いてくれるから』
『ブロンズさん……』
ブロンズの言葉に後押しをされたシュタインは、決心したような、引き締まった顔つきをした。すると、シュタインは先ほど詰まっていた言葉を吐き出した。
『あの、団長。私ここの魔王城の人達の事、もっと知りたいです! だから……今日1日だけでも、ここに居てもいいですか?』
シュタインから思いもよらない願いを口に出した。てっきり早く兄弟と再会したいものだとばかり思っていたが……。
『それは構わないが、この後フランとケンに会ってから、ここにまた戻る事になるが……』
『アクタお兄ちゃん、まさかまた効率的に考えてる?』
『いや、そうではない。シュタインの体力が持たないのではないかと思ってな』
俺がそう言うと、ブロンズとシュタインは、やれやれとため息をついた。最近よくこういう反応をされる。なぜだ?
『あのね……アクタお兄ちゃん……それはこっちのセリフよ』
『どういうことだ?』
そう聞き返すと、ブロンズは途端に不機嫌になり、こう答えた。
『分からない? あなたの方がボロボロじゃない!』
何……? 俺が……ボロボロ……だと? 一体何を言っているんだ?
『ちょっとこっち来て!』
ブロンズは俺の腕を引っ張り、魔王城にある大洗面所まで引きづられた。シュタインも不安な顔をしながら、ついて来ている。
『はい! 鏡見なさい!』
俺は訳も分からないまま、ブロンズの言う通りに鏡を見させられた。
『なんだと……?』
鏡を見て驚愕した。思ったより傷だらけで痛々しい姿になっていたのだ。全く気づかなかった。どおりでいつもより頭が働かず、動きも鈍くなった訳だ。
『なんだこれ……?』
途端に視界がぼやけた。自分の姿を見てやっと危機感を覚えたからか、身体が言うことを聞かない。
『なぜ……動け――――』
――――――――――――――――
『はっ! ここは……治療室か』
目を開けたら、見慣れない天井ではあったが、ここがどこだかはすぐに分かった。ここは魔王城の治療室だ。
前の世界のギルドでもそうだったが、俺はそもそも倒れた事なんてなかったので、治療室にはあまり行ったことがない。せいぜい団員の誰かが、傷を負った時やスカーレットの日々の労いに感謝しに行くくらいだった。
『そうか、俺は洗面台で倒れて、治療室に運ばれたというわけか……』
俺はベッドを抜け出し、治療室の外へ出ようとドアを開けると、眉間にシワを寄せたブロンズが、まるで俺が出てくるのが分かっていたかのように、待ち構えていた。
『アクタお兄ちゃん。何やってるの?』
『ブロンズか。すまない。迷惑をかけてしまったようだな』
『それはいいの。それより何をしようとしてるの?』
『これから、火の国へ行くつもりだ』
『駄目よ』
『なぜだ?』
『……アクタお兄ちゃん。あなたには、3日間の休暇を命じます!』
『3日間の休暇……?』
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次回は、13日(日)~15日(火)に投稿予定です。
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